事の始まり
ホリミカの過去を描いた「ホリミカの記憶」。
無事に「ホリミカの出会い」の続編を書くことができました。
読んでくれると嬉しいです。
8月21日の夜、気持ちいい風にふかれながらホリミカは丘の上の公園にいた。夜空には満点の星が輝いている。ベンチに座っているミカの横では、丸井がすやすやと寝息をたてている。今なら連続強盗殺人犯を殺すことができると思い、ミカは笑った。でもミカはそんなことはしない。自分からついてきたのだから。ミカは食べかけのコンビニ弁当をかきこんだ。
「あの日もこんな星空だったな」ミカは宝石のごとくかがやく星空をながめてあることを思い出した。
それは小学生だったミカの体験の記憶、恐怖の記憶、救済の記憶。
4年前の1996年12月19日小学5年生のミカは親友のシノと学校の帰り道を歩いていた。その日の空はいかにも12月というような淀んだ天気でいまにも雪が降りそうだった。
大きな瞳に、大きなポニーテール、そしていつものピンクのジャージを着ていたミカはクラスでも目立った存在だった。一方、親友のシノはいつも茶色の服を着ていて、あまり笑わなかった。顔立ちは綺麗なのだが彼女が発しているオーラのせいでクラスの男子はあまりシノに近寄らないでいた。でもミカはシノが時々漏らすユーモアや笑顔が大好きだった。シノとは出会った3年生の時から仲良くしている。
「今日の宿題めっちゃ多いね」ミカが言う。「うん」 「あーあ。早く担任変わってくれないかな。やりにくくてしょうがないよ」 「そうだね」
「今日元気がないね。どうしたの? 」シノの返事の味気のないのはいつものことだが、その日は朝から元気がなかった。
「・・・・・・実は話したいことがあるの。ここではちょっといいにくいから、今日の8時に峠川公園に来てくれない? 」シノは真剣な顔つきで言った。シノから面と向かって話をされるのは珍しいのでミカは驚いた。「わかった。なんとか行ってみるよ」2人はそこで別れた。そこから5分ほど歩いた後、志保おばさんにあった。彼女は自転車から降りて話しかけてきた。「あらあらミカちゃんじゃない」 「こんにちわ」志保おばさんの指輪がきらりとひかる。「学校はどう?」 「楽しいです。テストの点数も上がりましたし」ミカは適当に言った。
「それはよかった。そういえば最近、この近くで誘拐事件が多発しているらしいから早く家に帰るのよ」
「はーい」 「じゃあね ミカちゃん。お母さんによろしく」志保おばさんは嘘っぽい笑顔を振りまきながら去っていった。
すっかり日が沈んだ頃、ミカは家に着いた。 「ただいま」ミカが玄関に入ったとき母堀内南は階段を上がる途中だった。「おかえり さっきニュースで聞いたんだけど、変な集団が子供を誘拐する事件が増えてるんだって。ミカも気を付けるのよ」
さっきも聞いたよとミカは心の中で毒づいた。「うん わかった」ミカはその気など無くその場を切り抜けるために返事をした。いつもこうだ。いつからか本音で話すことはなくなり、その場しのぎの言葉を発し、嘘で塗り固めてきた。本気で話せるのはシノだけだ。
ミカはさっさと自分の部屋に行き、算数と国語の宿題をやった。算数は割合の問題でたいして難しくなかった。問題は国語だ。文法はミカのもっとも苦手な分野だった。でも8割がた埋めることができた。あっているかはわからないが。そのあとは早めにお風呂に入り、夕食まで漫画を読んで時間をつぶした。
夕食を食べたのは、7時半だった。その日のメニューはハンバーグとサラダと味噌汁、惣菜屋で買ってきたコロッケだった。コロッケはパサパサでまずかったがハンバーグはミカの好きなデミグラスソースがけでおいしかった。夕食をものの10分で食べ終わったミカは母に「今日はもう寝るわ」と告げ、自分の部屋へ急いだ。母は少し心配していたが何も言わなかった。
これで準備ok。もう寝るといっておけばちょっとぐらいいなくなったことには気づかないだろう。母は夜の外出とかそういうことにうるさいのだ。ミカは携帯電話をポケットに入れ、窓からこっそり抜け出した。自分の部屋が1階にあってよかった。ミカはに庭を小走りで横切り闇夜の公園へと急いだ。