お仕事その8 セキュリティ
2011:09:26
誤字を修正。
「まず、この武器は存在自体があやふやに作られている」
「あやふや?」
という武器の説明を俺がしようとする途中で、聞き手の女性が「飲み物入れてきますから」と中断させる。それに俺は乗っかって「コーヒーある?」とリクエストを注文する。「ちょっと待っててください」という言葉と共に、二階へと通じる扉を開けて姿を消した。この建物の構造を全て把握できていない俺はそもそも厨房がどこにあるのかが分からない。
数秒で彼女は戻ってきた。
「皿を忘れたので」
「なるほど」
カウンターの上に置いてあった皿を慌てて掴むと、再び彼女は姿を消した。
店内の窓から外が見え、人がちらほら。誰を見ても表の街を歩けるような服装ではなかった。見るからに裏社会の下っ端な奴がいた。昨日出会った黒スーツにそっくりの恰好をしている。もしや裏社会の下っ端の正装なのか。かと思えば、真夜中に訪れてきた少年と似たような汚いぼろぼろのローブを被りながら、ありとあらゆるゴミ箱と向き合っている人もいる。
千差万別。十人十色。まだ二人しか見ていないことで言えることではないが。
「それで?」
どうやら数分が経っていたようだ。彼女はマグカップを二つ両手に持って姿を現した。俺の目の前に一つ置くともう片方のマグカップはすぐに口に運んだ。会話を再開する前に、俺も飲んでおこうとマグカップに手を伸ばし、口へと運ぶ。ゆっくりと流し込んだコーヒーの苦みを楽しんだ後、カウンターにマグカップを置いて続きを話す。
「この形を保つために必要な物があるんだ。それは使い手の『意識』」
「意識?」
「そう。ちなみに、無意識も駄目。はっきりとした意識があって形が作られる。寝ている最中は形が作られなくなるから収納にも便利」
「遠回りな説明はいいから私の手首に巻き付いた原因を教えてください」
順序を追って説明しないと理解できないと思うからそうしているのに。急かす彼女の勢いに負けて俺の説明も早口になる。
「そして、使い手の意識がおぼろげな状態でその使い手以外の人が武器を手に取ると、武器が危ない状態だと判断する」
「武器が判断するんですか」
「頭の良い武器だからな。判断した武器は手に取った人と同化しようとする」
「どうか……? もう、難しい話は勘弁してくださいっ!」
「そんなに難しくないって」
必死に弁解。説明を求めておいて、それはいくらなんでも失礼すぎると思うが。そんな彼女の言葉に少々呆れながらも俺は続けた。
「武器がその人の体を吸収しようとするんだ。だからあのまま根っこが絡みついた状態でいたら君は武器の一部にクラスチェンジ出来てたってわけ。そういう道もありかもしれないぜ?」
「無しですっ!」
突然の大声に俺は小さく笑うと最後にこの一言を付け加えて武器の説明を終わりにした。
「簡単に言えば一種のセキュリティが働いたってわけ」
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