お仕事その2 高鳴り
その後、偶然ではなく必然として再び現場に出遭う俺。
相も変わらず追いかけられている女性とそれを追い回す黒スーツ男性が三人。表で生きる人たちが寄り付かない古い街並みにぴったりのシチュエーションだった。日はすっかり落ちてしまい辺りを闇が包み込もうとしていた。それを防ごうとする街灯の明かりがぼんやりと辺りを照らす。どうやら電気はまだ通っているようだ。
そして、俺が再び出くわしたその場面はこう。逃げようとひたすら逃げていた女性が行き止まりに差し掛かったところを、そうなるように仕組んだかのように黒スーツ姿の男性三人が銃を向けて構えている。ベタな展開だ。俺は黒スーツ達の後ろから姿を現した。なぜか。それは簡単だ。
「……金は支払ったはずだが」
黒スーツ姿の一人が俺には背中を見せたまま口を開く。なるほどリーダー格なのは伊達ではないということか。
「そうだな。しかし、俺はこの街の構成をよく知らないからな。道なりに沿って歩いてきただけさ」
これが真実だ。ぶらつくにしても「じゃらじゃらの報酬」を持ったまま裏路地に入ろうとは思わない。だから、大通りを歩いてきた。例え、人が追われている現場に出くわしたあとでもだ。
どうやら逃げ場を失って絶望していた女性は俺の登場により、逃亡の機会をうかがっているようだ。目が違う。現場に出遭った直後の目は苦悩の目をしていたが、今は僅かな可能性をも逃さないような獣の目をしている。
「邪魔はしない方がいい。なんならもう一度金を渡そうか?」
黒スーツは俺に言葉を飛ばしながら、銃を構えていない左手から金貨を見えるように空中に放り投げた。そして、落下してきたところを再び左手の中へ収める。確かに金貨であることを確認した俺は「ヒュ〜」と口笛を吹いた後、女性に向かって言葉を飛ばした。
「おい、女。お前、何か支払えるモノあるか」
「……」
「傭兵。勝手にしゃべりかけるな。次に話しかけたら邪魔をしたと見なすぞ」
「なんだよ、会話ぐらい別にいいだろうが。えらく生真面目な方なこと」
「あ、後払いでお願いしますっ!」
その言葉は響いた。俺が黒いスーツ姿の男達を茶化していた空気すらも沈黙へと変えて。突然の言葉に呆然と立ち尽くすだけの男が四人。だが、俺はすかさず口を開いた。笑いをこらえながら。
「ぷっ、分かった。後払いだな、くくっ」
駄目だ、笑いが漏れてる。そして、俺は続けてこう問う。
「それで何をして欲しい?」
「見れば分かるでしょう、この状況を助けてください!」
「了解」
その言葉と同時に俺は傭兵から的へとクラスチェンジした。黒スーツの男達三人は俺の体の部位をそれぞれの的とみなしたようだ。全員が俺に銃口を向けてこちらを見ている。どうやら完璧に敵とみなしたようで彼らの目もまた獲物を狩る獣の目をしている。裏の人間の目をしている。
戦いは避けられないようだ。古いビル群、薄暗い夜、わずかな街灯の明かりと言った戦闘フィールドで俺は黒スーツ姿の男三人と戦闘をするのか。この状況で言うと狂人のように伝わるかもしれないが、正直に言うと胸の高鳴りが抑えられない。言っておくが戦闘狂という訳ではない。
報酬が何か分からないために、この仕事を面白く感じているからだ。
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