お仕事その23 幸せの花
分が悪い。
人間相手ならば多少なりとも、戦闘では勝ち目はあった。しかし、相手が人形ではなく自身の体を機械に移した最悪な野朗だったら、勝算が歩かないかを考えるのも意味は無い。おそらく、人間の皮を被っていたときよりも戦闘能力は向上しているはずだ。
嫌な予感しかしない。
遠い遠い部屋の隅に見える彼女に視点を移す。どうやら何かで縛り付けるということは行われていないようだ。体に力が入らない、いや、気を失っているだけと見るべきだろう。無気力な状態で地面に倒れこんでいる。
「どこを見ているのですか?」
いきなり突っ込んできやがった。
今のこいつにとって武器なんてものは必要ないだろう。なにせ、全身を武器にしたようなものだからな。
「ふふふ、はははっ! 遅いですよ!」
なんてことだ笑いながら連続で攻撃してきやがる。そのまま機械の体の両手両足による流れるような連続攻撃は、いくらなんでも防ぐことなんてできない。防戦は得意じゃない。
「ぐはっ・・・・・・」
最後の一撃は俺の肩を掴んで思いっきり部屋の隅に投げてきやがった。俺の体は、動くことをあきらめたようにうずくまった。武器は、握ったままだ。こいつを手放したら、一方的に殺される。
「弱いですね。あいつもどうしてこんな人に苦戦したのでしょうか」
俺に戦う気力が、体力が無くなったとでも思ったのだろうか。俺のほうには歩いてこず、倒れこんでいる女に近づいていく。そして、彼女の首を左手で掴むと、そこを視点として彼女の体を上へと持ち上げる。力が入っていないため、まるで干された衣類のようにぶらぶらな手足が宙を舞う。
「さてと、そろそろこの体も限界です。こいつの体に移りましょうか」
何だ。何をするつもりなのだろう。移る?
「記憶を消して、身を潜ませるために裏社会へ逃げ込んだ。しかし、私だって逃しはしません。裏社会のボスとなり、あなたに懸賞金をかけて追い回しましたよ」
彼女の首を強く握り締めたのだろうか。彼女の全身がぴくぴくと痙攣する。
「さぁ、いまこそ私の野望をかなえるときです」
「だまりなさい」
聞こえたその声は、アイツの声だ。
「来ると思っていましたよ。コードネーム「幸せの花」よ。起動を停止したいくつものゴーレムの内、あなただけが動き出した。それも当たり前のことですね。こいつのボディーガードなんですから」
「ふざけるな」
ゴンッ! 金属と金属が勢いよくぶつかり合ったような音が聞こえた。いったい何が起きているんだ。
次の瞬間、オールバック野朗は彼女の方ではなく後ろを振り向き、右手のひらを宙に浮かせていた。何をしているのだろう。すると、不思議なことがおきた。何も無い空間からさきほどの白い人形の姿が浮かび上がったのだ。左手を握り締めてオールバックに向かって殴りつける姿が。
「彼女に、何を、する気だ」
「何もしませんよ。もっとも彼女の意思はなくなりますが」
「きさまぁっ!」
そして、始まる。
白い人形の流れるような攻撃に対し、全てを見切っているかのように表情一つ変えず防御していくオールバック野朗。一つ一つの攻撃を防御され、徐々に押されていく白い人形。このままではあいつが負ける。
状況が飲み込めないが、ひとまずアイツがオールバック野朗の敵であるということは分かる。だったら手伝うだけだ。
そして、俺は立ち上がる。契約のために。
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