お仕事その20 夢心地
「それも」
まるで舞台の上にいるかのよう。情報屋の動き、それ一つ一つは大振りで人に見せるようなモノだった。つまり、戦闘の上では隙の大きな行動であると言える。
白い人形は、黒いアタッシュケース――パンドラボックスを情報屋が地面に置いた、その瞬間を狙って情報屋に近づいてくる。幾何学的な形状をした足の裏で地面を勢いよく蹴り飛ばし、加速していく。情報屋の目が彼の動きを捉えたときには、パンドラボックスは宙を舞っていた。くるくると回りながら。白い人形はパンドラボックスを、右腕で宙へ吹き飛ばし、さらに、左手のひらで情報屋の腹を押していた。
「意味はない」
「ガハッ・・・・・・」
腹に攻撃を喰らった情報屋は、俺に比べれば大したことのない飛距離で吹き飛んだ。地面に二バウンドだし。完全に入った攻撃の余韻に浸っているのか、白い人形はしばらく動こうとしなかった。
「けっこう良いもの喰らったぜぇ・・・・・・」
「それは、どうも。あなたの、攻撃は、封じられました」
「いや、まだ開いたばかり・・・・・・だからなぁ」
ガタンッ。それは地面に物が落ちるときの音。パカッ。そして、開くときの音。
まるで擬音語のような音が鳴った瞬間、どこへ飛んでいったのか誰も注目していなかったパンドラボックスが、悲鳴に似た声をあげる。それに気づいた白い人形は、声の聞こえる方向を向く。白い人形が向いたその方向では、パンドラボックスが百八十度大オープンしていた。
「キキキキキキェー!!」
「開く、攻撃の、スイッチ、でしたか」
「当然よぉ」
ふらふらになりながら立ち上がる情報屋。
ちなみに一切説明していなかったが、俺は飛ばされた体を引きずりながら、二人の様子が見える瓦礫の山に倒れていた。あの後、吹き飛ばされたわけではない。自分から動いたことを主張してやる。
誇りまみれになり、ところどころが破れているローブを着ている。そして、地面に激突したためか乱れたツンツンの銀髪。そして、左目に眼帯をしたコイツの顔。今、この瞬間笑顔になるのはどういう心境なのだろうか。
「俺様の攻撃はここからだぁ! パンドラボックス! 最初はコイツのお出ましだ!」
そう叫ぶと同時にパンドラボックスは、全身をまたも光り輝かせる。情報屋は自分の右手をローブの下から出すと、勢いよく地面に叩きつけた。衝撃が伝わっているのか、その瞬間情報屋の目に涙が浮かんだ。それはもう痛そうだ。
白い人形はとっさに立っている場所から、小さくジャンプをし二メートルほど離れた。すると、次の瞬間情報屋の右腕から先程白い人形が立っていた地点まで一直線に、上向きの大きな土の槍が現れたのだ。土が徐々に槍の形を成すわけではなく、地面を割いて下から突き出したような現れ方。
「まぁ、こいつは追い込んだときのものだからねぇー。こういう場合はこういう方が捉えやすいよねぇー!」
白い人形が防御姿勢を構えるのと同時か、それともその攻撃の方が早かったか。今度は白い人形の周りに白い球体がいくつも地面から浮き始めた。白い球体はお互いを糸のようなもので繋ぎ、その糸の終端はどうやら情報屋の体に繋がっているようだ。
「文字通り、包囲網、ですか。しかも、雷の」
「大正解ッ! けっこう観察力と言うよりもぉ、発想力が高いんだねぇ? だったら、俺の攻撃を止める方法も分かるんじゃない?」
白い球体による包囲網が完成すると、情報屋は右腕をローブの外に出し、両手のひらをそれに向ける。そして、両手の指に奇怪な動かし方をさせる。そのタイミングと同時に白い球体が狭い空間を複雑に動き回り始めた。白い人形は、情報屋の指に負けないくらいの奇怪な動きでそれを避ける。
「単純に、考える、武器を、壊すですよ」
「そう! どうせ、この包囲網は俺の近くが一番密度濃く張ってあるだろうなぁーと予想できる。だとすると、武器を破壊するのが一番早い戦力を低下させることに繋がるだろぉーなぁ」
「今、です!」
一瞬の包囲網の隙を突いたのか。白い人形は怪しい動きをしながら、放置されていたパンドラボックスに近づき、パンドラボックスを切り裂いた。
「私の、体で切り裂くことが、不可能なものはありません。ただし、防御するだけなら、切り裂きはしませんが」
切り裂かれたパンドラボックスは怪しげな音を立てながら、黒煙を立ち昇らせる。そして、白い人形はゆっくりとこちらを振り向く。その間も何か言葉を発していた。
よし、成功だな。
「まぁ、そんな単純なわけ無いのが世の中なんだよぉー」
「な・・・・・・ぜ?」
それは赤く輝く剣のようなもの。情報屋の右手に握られたそれは、白い人形の胴体を貫いていた。おそらく致命的な一撃だったのだろう。白い人形の動きが急激に鈍くなっていく。というより、力が入っていないようにも見える。
「聞きたいかぁ? 俺のパンドラボックスの力」
「どういうこと、だ?」
「俺のパンドラボックスの力は『開いた瞬間に持ち主に力を与える』っていうものなんだぁー。つまり、開いたらその後はもうパンドラボックスは一切関係ないのぉー」
「ふふふ、固定概念は、恐ろしい」
それだけ言うと白い人形は動かなくなった。かろうじて動いていた右腕が止まったから、そう判断した。そして、情報屋はこれだけ言うと、剣のようなものを胴体から引き抜いた。
「まぁ、夢心地の気分には、なれないよなこの力。なにせ、代償が『全所持金をパンドラボックスに突っ込むこと』だからなぁ。制限無しに使って夢心地になりてぇーよ」
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