お仕事その19 カバン
「弱いです。それで、あなた、彼女、救うつもり?」
この状況は圧倒的に不利だ。
俺が両手でようやく振り回せる砲剣と、俺自身を軽々しく吹き飛ばす目の前の白い人形。そうして吹き飛ばされた俺は、この建物の隅に積み上げられていたドラム缶や、資材などの山に背中から突っ込んだ。衝撃を吸収してくれる、はずがないだろう。体の隅々から痛みを感じる。
くらくらする頭を右手で抱えて、白い人形をもう一度視界に入れる。さすが、人形か。雰囲気を一切変えず、こちらに一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。追撃により戦闘不能になるのは、傭兵として避けたいところだ。
ダウン状態からの復帰に乗せて一撃入れてやる前に、一言弁解する必要がある。
「俺は・・・・・・あいつを・・・・・・救いに来たんじゃない」
「では、何をしに?」
徐々に近づいてくる白い人形に対し、俺は不意打ちのごとく、すばやく両手で砲剣の柄を握り、白い人形に切りかかった。俺が突っ込んだため資材の山は瓦礫の山に変化した。その中に砲剣が埋もれたため成せる技である。砲剣はいくつもの瓦礫を吹き飛ばしながら、まっすぐ白い人形の右腕へと向かう。このまま切り落としてやる――。
「あいつに払うもの払ってもらうために来ただけだ。さすがに、金をもらわないのは、仕事として不味いからな」
驚きはしない。不思議な奴は何人も見てきたからだ。
白い人形は右手を切り落とされることなく、俺の目の前に平然と立っていた。右腕で俺の砲剣を防ぐようにして。よく見ると、右腕は鋭い形状に変化しており、まるで右腕から刃が飛び出ているような状態だ。
もしかしたらと思うが、こいつは体を――。
「ふふふ。理由、聞きました。しかし、それでも、私を、倒さなければ、彼女には、会えませんッ!」
今度は左足が俺の体を狙ってきた。両手を砲剣に回している俺の弱点だ。一度、武器が防御されると大きな隙ができる。しかし、そのまま攻撃を喰らう俺でもない。俺は左足の攻撃の始動をぎりぎり目で捉えていた。白い人形の右腕に防御されている砲剣を右腕から離し、その勢いのまま白い人形の右側面に回りこむ。
大きく空に突を喰らわした白い人形の左足。だが、終わらない。そのまま白い人形は体を右に回転させ、左足のかかとを、俺にぶつけるような体勢をとってきた。まさに人間業ではない。
俺の右脇に直撃した。
「がっ・・・・・・」
十数メートル吹き飛んだ。地面に何度も体をこすりつけながら。
砲剣の本来の使い方をすれば勝てるが、建物自体を破壊することになるため今回の戦いには不向きだ。突破口も見えないまま、ここで終わるのか。
「やられてるなぁー。そのまま、終わっちまうかぁー?」
銀髪とんがりヘアーがどこからか姿を現した。ちょうど吹き飛ばされた俺と白い人形の間に立つように。
「さっさと出てきて手伝ってくれよ。友達なんだろ」
皮肉を飛ばした俺に、情報屋はあっかんべーをしてみせる。こいつ、本当に助けに来たんだろうな。うすうす気づいていた。こいつが後からついてきていることに。
「さっきまでの戦闘を見ていてぇー、けっこうやばそうだって思った。つーわけで、武器貸してくんね?」
「見てたなら、加勢しろよ」
「物語には段取りがあるじゃーん?」
「訳分からんな・・・・・・」
「どうでも、いい。次は、あなたですか」
白い人形が情報屋に向かって問いかける。その姿勢は問いかける姿勢ではない。相手を自分の戦場へと誘い込む姿勢だ。一言で言えば挑発してるってことだ。
その一言に情報屋は「ちょい待ち」とだけ言うと、吹き飛ばされて寝ている俺の近くへ歩いてきた。そして、俺の武器である砲剣の柄を握り締めた。
「あんまり傷つけるなよ」
「大丈夫だってぇー。それに――」
その瞬間、砲剣が眩しい光を発した。寝ていた俺は体勢を起こし、砲剣を見つめる。
まぶしい光のせいで砲剣の形をはっきりと捉えられないが、一度だけ見た「あの形」に近づいているのかと、俺は考えていた。
そして、光は治まる。
「俺がコイツの最初の持ち主だしなぁー!」
そう。俺の武器の前の持ち主は、この情報屋である。そして、彼の武器の形は何がどうしてそうなるのか、よく分からないが――。
「このパンドラボックスの力を見せてやるよぉー! 白人形!」
情報屋が叫ぶかっこいい名前と裏腹に、どこからどう見ても黒いアタッシュケースなのである。
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