お仕事その1 突然の出来事
それは夕方の出来事だった。
午後の時間帯にとある雇い主からの仕事を終わらせて報酬を受け取り、いつものようにその街の宿屋を探していたときのことだった。赤く染まりつつあるコンクリートの街並みを目に移しながら、俺は歩いていた。この街についてよく知らない俺は道なりにただひたすら進んでいる。古びた高いビル群に囲まれた通りはおそらく表社会には生き辛い人たちの恰好の住処だろう。かくいう俺も似たようなものだ。
宿を探し始めて二時間は経過している。いい加減うんざりしてきた。変わらない街並みがより一層気を滅入らせる。もう日は落ちてしまったのか、少しずつ街灯に明かりが灯りはじめる。
「これは野宿かな」
野宿でも別に構わないが、飯にはありつきたい。どこか店を探さなければ。そう思ったその時だった。横の細い路地から突然女性が飛び出してきた。職業柄突然の出来事には慣れていると言っても過言ではないため、ぶつかるという状態を避けてしまった。おかげで女性はと言うと――。
「あなた一体誰ですか!」
どうやら待ち伏せを喰らったと踏んだらしい。
「あぁ? いきなり出てきて何言ってんだ。お宅が何に巻き込まれてるかしらねぇけど、俺は――」
「ごめんなさい。急いでるんで」
女性は俺が進もうとしていた道をそのまままっすぐ走って行った。
「あ、おい」
勘違いをしておいて、さらに勝手に謝るなんて。人の話くらいは最後まで聞いておいた方がいいと思う。なぜなら。
「おい、今ここに若い女が出てきただろう」
「あぁ? だから、いきなり出てきて何だっていうんだ」
こういう事件に巻き込まれているなら、俺みたいなやつが役に立つからだ。女性が出てきた路地からは、今度は女性の代わりに黒いスーツ姿の男達が三人飛び出してきた。どこからどう見ても裏社会の下っ端という感じだ。その中の一人がいきなり言葉を飛ばしてきたのだ。そして、そいつは俺の容姿を上から下まで隈なくチェックするかのように見ると、さらにこう言った。
「ん? 見たところお前傭兵だな」
「あららご名答。そして、あいにくだけどあんた方みたいな奴に雇われる筋合いは無いからな。金ならもうあるんでね」
俺はさっきの仕事で手に入れたじゃらじゃらした報酬の入った袋を懐から取出し、見せつけた。
「ふん。ならば、ある質問に答えるだけで金を払うと約束しよう」
「……どんな質問だ」
「その女はどこに行った。正しく答えれば金を払う。正しく答えなければ、コイツをくれてやる」
そう言うとそいつは腰に身に着けていた銃を右手に構え、俺に銃口を向けてきた。
「ワオ、正しく答えなかったら銃がもらえるのか」
銃声と共に俺の背後にある古い建物の窓が割れる音が聞こえた。男の目を見るとこれ以上の言う機会はくれないらしい。短気なことで。俺はため息を吐きながら、俺の進もうとしていた道の方へ指を指しながらこう言った。
「この道を走って行った、真実だ。さぁ金をくれよ」
「ふん、奴を追え」
「はっ」
他の二人に指示をすると、男はポケットから金貨を一枚取り出した後、俺に向かってそれを放り投げた。俺は至近距離で投げられたそれをなんとか右手でキャッチする。俺は金貨をじっくりと見つめた。偽造かどうか確かめるためだ。
「ふっ、本物だよ。そんな所で嘘ついてちゃウチらの商売にも傷が付いちまうからな」
「……どうも」
それだけ言うと黒いスーツの男は先に行った男達の後を追いかけた。そして、俺はと言うと。
「まぁ俺が進むのもそっちなんだけどな」
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