お仕事その14 必需品
そして、銃弾は飛んできた。
馬鹿みたいに報酬を見せた俺と、その隣で立っていた情報屋は、左右別の道の端に向かって低空姿勢で飛んだ。幸い両端に細い路地があったため、俺たちはそこに隠れた。
さっきまで歩いていた通りには、まるで横殴りの雨のように銃弾が飛んできている。一向に止むことを知らないその雨は、おそらくこちらから打開しない限りずっとこのままだろう。めんどうだ。
仕方がないので武器を呼び寄せることにする。俺はズボンのポケットのスイッチを押す。
「この街の地面は壊れやすいみたいでありがたいな。砂煙に紛れて攻撃で、積みだ」
不意に頭に何かがぶつかった。銃弾……だったら俺は死んでいるし、それに小石ほど固くない。想像しても始まらないので、何がぶつかってきたのか周囲を見渡す俺。すると、丸まった小さな紙筒を見つけた。
広げてみると、そこには字が書かれていた。
『いつも通りの戦法でお願いしますぅ。ま、こっちはテキトーに戦わせていただきますぅ。』
情報屋の字だ。
ふと、情報屋の方を見るとアイツもこちらを見ていた。どうやら、これを読むのを確認していたらしく、俺が見たタイミングと同時に親指でOKサインを送ってきた。何か企んでいるのはお見通しである。だが、俺は戦法を変える気は無い。
「そろそろだな」
スイッチを押してから数秒が経った。狙い通りの位置に狙い通りのタイミングでそれは落ちてきた。落下の衝撃を通りの地面にぶつけ、そして、地面をえぐりながら突き刺さる武器。案の定、砂煙が生じていた。目の前が見えずに銃弾を発射する馬鹿はいないらしく、銃弾の雨は止んでいた。
ひとまず武器を取りに路地から出ようとする俺。まず、右腕だけが通りへ出る。しかし――。
「貴様が俺たちに出会ったときもこうだった! 同じ攻撃を繰り返すお前に我らが対策を練らないとでもっ!?」
銃弾が俺の右腕をかする。咄嗟の判断のため、完全に避けることはできなかったが被害を小さくすることが出来た。
どうやら敵さんは砂煙の中でも敵を狙えることができる武器を用意したらしい。この状況では俺はただの的だ。動くことは不可能だろう。
だが、それが俺の狙いではない。
「ぐあぁっ!」
「なんだっ!?」
どうやら動き始めたようだ。俺たちを狙う黒スーツの男達の悲鳴が聞こえる。おそらく目で見えない敵に襲われているのではなく、目で『追うことができない』敵に襲われているのだろう。それが――情報屋の戦闘スタイル。
「あの隣にいた男の仕業かっ!? くそっ一体どうなってるんだ」
「ご名答。だけど、時すでに遅し。じゃ、失礼して」
リーダー格の男の物と思われる悲鳴が響き渡った。
「視覚の条件が悪いと怖いくらいに戦闘能力が向上するんだな」
「えぇ〜。でも戦闘は得意じゃないからさぁ。でも、暗殺とかだったらいけるかもなぁ〜」
恐ろしい発言である。
俺は隠れていた細い路地から出て、通りの様子を見回していた。
戦闘の場所となった通りは、銃弾が作り出した跡が周囲の建物に刻まれていた。地面にもその跡が残っている。主な跡は俺の武器のせいだが。
通りには情報屋が倒した男達が横たわっている。全員が首を切られていた。男達の周辺は濁った赤色が自由気ままに地面を染めていた。
「裏の世界に生きるんだから、戦闘ぐらいはできないとぉー。ある意味必需品って感じぃ?」
「それで、いくらとるんだ」
「へ?」
コイツのことだから、これもビジネスに絡ませて俺から金を巻き上げるのだろう。そう考えて聞いたその言葉に、コイツはまるで驚いたような反応を見せた。そして、俺に笑いながらこう返した。
「大通りでも言ったじゃねぇか、俺とお前との仲なんだ。片方が困ってるときに片方が助けるのは別にビジネスじゃねぇよ」
しばらく言葉が出なくなった。だが、数秒後に俺は笑った。小さな声で「そうだな」と何度も言いながら、俺は武器に近づいた。
そして、俺たちは再び歩き始めた。
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