お仕事その12 パートナー
「それで、どうして、お前はここにとどまってるんだぃ?」
大通りの散策は突然現れた情報屋のせいでまったくと言っていいほど俺は楽しめなかった。仕方がないので近場の飲食店に入ることにした。豪勢なレストランと言うわけではなく、簡易的に用意された木製の机と椅子に座り、注文した料理をいただくというお店。大通りに面したお店であるがゆえに気軽に入ってきてもらいたいということで、屋外にお店は作られていた。天井の代わりに張られている布を通して、色とりどりの光が店内を照らす。
空いている場所を適当に探す俺。後ろから声をかけてくるあいつ。
「なぁ、どうしてなんだよぉ」
「ついて来るなら空いてる席探してくれよ」
店内は大通りの賑わいをそのまま写してきたように、ほぼ満員じょうたいだった。周囲を見回すと人だらけであり、空席を探すのは困難を極めた――かのように見えた。
「あそこ。空いてるぜぇ」
と彼が言うと、食事を終えて立ち上がろうとしている人たちが見えた。あれは「今から空く」と言う状態ではないだろうか。まさかとは思うが。
「ほらよっ」
その言葉が早かったか、彼の行動が早かったかは俺の目では判断できない。そいつは俺の背後からいきなりナイフを二本その机目がけて投げ始めたのだ。一本目のナイフは俺の右肩上を通過すると、通行しようとする人達のわずかな隙間を、迷いなく何物にもぶつかることなく机に突き刺さった。二本目のナイフは左肩上を通過していた。こちらも同様にまるで初めから決められていたかのよう、わずかな隙間を一直線に飛んでいき、一本目のナイフの隣に突き刺さった。
「席取り完了」
「お前いい加減にしろ。ここは俺たちの居た街とは違うんだよ」
「いいじゃねぇか、別に誰か減るもんじゃあるまいし」
「そういう発言をするなって」
周囲からの視線が突き刺さるのが分かる。こちらも迷いは一切無い。とりあえずナイフ投げ野郎が無駄に張り切って確保したテーブルに座ることにする。
「ご注文の前に銀貨一枚いただいてよろしいでしょうか?」
向かい合う形で座った俺たちのテーブルに即店員の女性がやって来た。当然だろう。にこりという営業スマイルを俺たち二人に見せながら言葉では弁償の要求をしてきた。気のせいだろう、声の口調が営業用ではない感じがする。
俺はすかさず目の前に座る原因発生の元に対して金を支払うように注意する。
「ごめんなさい、その人に席取りに行けって言われて。それでぇ、無理だって言ったら何でもしていいからぁって。弁償はしたいんですけど、銀貨持ってなくてぇ。原因のこの傭兵から金貨一枚もらってください」
こいつは友を売った。
「それとおつりはぁ、いらないですぅ」
何気にいい感じの人を演じようとして頑張ってるし。
「それでは」
店員さんがこちらを振り向く。その微笑むは作られた仮の物。今その微笑みの目が少しずつ、少しずつ開こうとしている。その中に見える瞳はまるでこちらを逃がさんとする獣の瞳。彼女の口がゆっくりと開く。
「金貨一枚を」
恐怖に負け、じゃらじゃらの報酬袋から金貨一枚を取出した。報酬袋を見せた際に伸ばしてきた手の平に俺は金貨を乗せる。その後、彼女の微笑みは営業スマイルへと変わり「注文は何にしますか」と聞いてきた。
「お前とパートナーを組んだときもこうだった」
「ぱーとなー? いつ組んだっけぇ」
運ばれてきた料理を口に運びながら話し込む俺たち。俺が頼んだのはパスタ。なかなか香辛料の香りと食材の触感が食欲をそそる。その目の前で、そいつは真っ黒い何だかわからないものを食している。俺と同じパスタ料理の一種だと言ってくるが何かは分からない。とにかく黒い。
「昔だよ、昔。新人同士で仕事上手くいかないよなぁってお互い酒場で愚痴ったときに」
「えーっとぉ、忘れたぁ」
「俺がお前から初めて情報を買った日だって」
「もしかしてぇ最初の共同依頼のときぃ?」
余談だが、こいつとの付き合いは十年を過ぎる。お互いの仕事がうまくいっていなかった時に出会い、それぞれの困り果てたところを助けるというスタンスで、お互いの知名度を上げていった。
戦闘能力としては俺の方が高いため、戦闘絡みの仕事にはこいつが俺に情報を回し障害を取り除くというやり方。反対に情報操作などに弱い俺をカバーするために、真実を暴きだして敵の本性から始まり、人には内緒にしておきたい恥ずかしい過去までを、こいつが調べ上げていく。
「仕事の都合上お互いに必要な部分を外部委託しただけでしょぉ。今でもしてるじゃんかぁ。そうそう、それで何でお前ここにとどまってんのぉ?」
フォークでこちらを指差す情報屋。俺は呆れた顔でこう返す。
「お前の方がよく知ってんだろ。情報屋をそこまでなめた覚えはないぜ」
「ふふふ、どうも」
不気味な笑みを浮かべ、再びフォークをよく分からない漆黒とも言える料理に向ける情報屋。俺とそいつは料理を食べ終わるまでの間、昔の話で盛り上がった。ちなみに、黒い料理を食べ終わるまでになぜか二時間かかった。
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