お仕事その11 輝石
そして、俺は表の街に出た。
裏の世界とはうってかわった街の様子には新鮮さが感じられる。人が人と語り、人が人に物を求め、人が人を連れ歩く、そんな賑わいのある通り。まさしく大通りと呼ぶのにふさわしい場所だろう。
裏の世界へと通じる細い路地から出てきた俺を、ちらりと見ていく街の人が見えた。彼らからしてみれば、俺は怪しい人物に見えているのだろう。早々にここを立ち去ることにする。
「しかし、広いな。そして、暇なこの時間をつぶす場所が無い」
大通りを歩きながら独り言をつぶやく俺。周辺を見渡したあと、友から買った地図を見る。特に面白そうな場所は無い。仕方がないので大通りをぶらつくことにした。なぜなら――。
「よっ男前の兄ちゃん。ちょっと寄ってってよ」
「いやいや俺なんかは店主のおっちゃんには敵わないぜ」
「ガッハッハ! 兄ちゃんなかなか目が良いじゃねぇか。そんな兄ちゃんにどうよ、この剣」
「悪いな男前のおっちゃん。あいにく懐はたんまりだけど武器は間に合ってんだ」
「なんでぇ、そうかい。また欲しくなったら言ってくれよぉ!」
「はいよ」
大通りの両端には、隙間を空けずに露店という露店がずらりと並んでいる。種類も様々なもので日常雑貨から食料品、宝石を始め、さっきのように武器なんかも取り揃えている。中にはペットまでも露店で取り扱っている店もある。一種のショッピングモールと言ったところか。
ある程度歩いたところで俺は不思議な露店を発見した。
「いらっしゃい。何かお探しで?」
立ち止った俺に話しかける店主。「いや特に」と言いながら俺はその店の品物を見ていく。商品として取り扱っている物はルビーやエメラルド、サファイアなどの宝石類。取り扱われているものたちは高価に見えるものがほとんどだった。ただし、例外が一つだけあった。俺は隅の方に置かれた輝きを知らない宝石を指差した。
「これは?」
「それはぁこの街では有名なシロモノなんだよぉ。とある条件でしか光らない輝石なんだってさ」
店主が口を開こうとしたその瞬間にその声は聞こえてきた。俺が声のする方向を振り向くとそいつはおらず、逆側にそいつは立っていた。とりあえず普通に姿を現して欲しい。
俺は今度こそそいつの顔を目で捉えた後、こう伝えた。
「その情報にはいくらの価値がある」
俺は怒りと言う感情を顔にこれでもかというくらい表し、そいつの顔に迫る。そいつはそんな俺から逃げようともせず、さっきと変わらない調子でこう言い放った。
「おいおい、日常の会話にお金で何とかなる価値なんかねぇよ。そもそも俺とお前の仲だろうが」
その言葉を聞いた俺はそいつの顔から離れることにした。それでも気になるのは輝石についてだ。とある条件とは一体どんな条件なんだろう。俺は顔の表情を元に戻し、謎の輝石を見ていた。
「兄ちゃん、そんなに見つめるのならそいつを買わないか?」
しばらく輝石を見つめていたせいか店主がいきなりそんなことを言ってきた。
「いや、遠慮しておく。条件という謎が気になるが、俺の生活には必要ないからさ」
「そうかい。まぁ大抵のお客さんはそう言って帰ってくんだよ」
「じゃぁ俺が買うぅ。おじさんいくら?」
地図を買った際に渡した金貨二枚を店主に見せながらそいつが言う。店主が笑いながら答える。
「あいにくだね、それの二十倍が必要だよ」
「金貨四十枚かぁ。高いなぁ」
「『有名なシロモノ』ですから」
「それでは」
そのやりとりを見た後、俺はその場を去ることにした。その後、そいつが何度も俺の露店めぐりを邪魔してきたことは今日一日で一番腹が立つこととなった。
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