模擬闘技
文中には、本来は小宮山 秦 であるべきところが、佐久間遊になっているところがございます。簡潔後に纏めて改稿するので、置き換えてお読みになってください。
「佐久間遊様、模擬闘技が開催されます。至急、受付までお戻り下さい。繰り返します。佐久間遊様、模擬...」
闘技場内に受付の人の声が響き渡る。さっきまでは気づかなかったが、以外に透き通った綺麗な声をしていた。こんなところには勿体無いと思うほどに。
秦は、今まで物色していた防具屋を名残惜しそうに振り返り、受付へと向かう。
いくら、武器が強いといっても、防具が無ければ丸裸同然なのだ。
闘いの前に良い防具を選んでおこうと思っていた。
まぁ、闘技の後からでもいいか……。
受付に辿りつくと、そこには、いかにも戦士といったような背格好をしている男が既に立っていた。青銅色の鎧を身に纏い、腰にはシンプルで使い勝手の良さそうな長剣を鞘に収めていた。
男は俺に気づくと、振り返る。
年齢は30代だろうか。顔には、歴戦の証とでも言うべきの、傷がついていた。少し切れ長の目に、あごに髭を生やしている。髪は、少し濁った様な金色をしている。
落ち着いた雰囲気の、大人の魅力、とでもいうべきか。
「君が、佐久間遊君かい?」
男が質問をぶつける。
「えぇ。貴方が、トウル・メクリエさんですね?」
「あぁ、そうだ。今日は宜しくな」
そういうと、メクリエは笑顔で手を伸ばす。
友好的な人だなと、思った。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
手を握り返す。グッと、少し強い力で握られ一瞬笑顔を崩しそうになったが、そこは耐える。
「では、双方揃って、挨拶も終わったところですので、早速模擬闘技に入ります。闘技場の通路をお進み下さい。アナウンスで自分の名前が呼ばれたら闘技場に本入りしてください」
受付の子がペコッとお辞儀をし、さっきまでは開かれなかった闘技場への通路が開く。
メクリエは慣れたように、その奥へと進む。
秦もそれに続いて暗い通路へと進んでいく。
「それじゃ、次は闘技場内で」
俺は笑顔で微笑み返す。
メクリエは分かれ道で右に進む。
秦は、反対の左へと進んでいった。
コツコツと、足音が通路内にこだまする。
そして、出口と思われる少し手前で立ち止まる。
ここからは、1対1の真剣勝負。いくら、相手を殺してはいけないというルールでも、これは闘いなのだ。子供がやるようなチャンバラ遊びではない。
深く深呼吸する。
「よしっ」
『レディィィィィィスエンドジェントルメェェェェェェェン!!』
突如、男の大きな声が聞こえる。
『模擬闘技、Bランクの試合の始まりだぁぁぁぁぁ!! まずは、右の通路を見てくれ!! Bランクのトウル・メクリエ選手だぁぁぁぁぁぁぁぁ!! メクリエ選手は、今までの成績72勝12敗! まさに、歴戦の戦士で、近々昇格もありそうだぞぉ!?』
メクリエの名前が呼ばれる。それとともに、闘技場内に、歓声が聞こえる。
勝率が高い。やはり、Bランクなのだからそれなれの実力はあるようだ。
しかも、観客がいるのか。
まぁ、いい。それでこそ俺の実力を見せ付けてやれるわけなんだから。
『次は、左の通路を見てくれ! 挑戦者の、佐久間遊選手だぁぁぁぁ!! 闘技場初挑戦でBランクの佐久間選手がどんな闘いをしてくれるのか、実力は未知数!!』
名前を呼ばれる、
ゆっくりと前へと進んでいく。
闘技場内に入ると共に、さっきに負けるとも劣らない歓声が聞こえる。特に、黄色い歓声が。
『よし、じゃぁ役者も出揃ったところで、試合を始めるぞぉぉぉぉぉぉ!! お互いに5歩づつ前に進んだところで、スタートだ!』
メクリエがスタスタと歩み寄る。
秦も一歩づつ慎重に歩みを進める。
3……2……1……0ッッ!!
『スタートぉぉぉぉぉぉぉ!!』
開始の合図が告げられる。
途端、メクリエの身体からは異常なほどの殺気が溢れ出す。
そうだ、これからは闘いだ。
非情に、冷静にならなければ。心を乱したら、そこで終わりだ。ただでさえ、素人とベテランの闘い。それだけでも、十分なハンデなのだ。
初めての闘いに、心臓が高鳴る。血液の流れが速くなる。
お互い、距離を取って中々近づこうとしない。
「来ないならば、こっちからいくぞ!!」
メクリエが、剣を振りかざしてこっちに走ってくる。
あっという間に、さっきまでの間合いは縮められる。
剣を振り下ろす。寸前でそれを交わし、横に転がる。
「クッ!」
光明鎌を取り出す。途端、全身に力が漲りだす。
手から、胴、足、身体中にエネルギーが送られてくるようだった。
凄い……。
これが、コイツの力か。
メクリエの剣は止まらない。俺が体勢を崩しているところに、素早い連続攻撃が繰り出される。
それを、なんとか鎌でガードする。
俺を襲ってきた奴とは段違いだった。これが、本当の闘いであり、戦いなのだ。
だが……。
俺は勝たなければならない。こんなところではまだ負けられないのだ。
全てを手にする。
これは、その入り口を開いたに過ぎない。
鎌を握りなおし、剣を一旦弾く。
カキンという金属音が響き渡った。
「何っ!?」
間合いを取り直す。
そして、秦は何を思ったか鎌を突然野球のバットのように持つ。
「うおぉぉぉああぁぁ!!」
そして、十分な反動をつけ、鎌をメクリエに目掛けて投げる。
突然の行動にメクリエは驚いたのか、少し反応が遅れる。
しかし、流石は戦ってきただけあって寸前でそれをかわす。
鎌は標的を無くし、地面に突き刺さる。
だが、それで終わりだった。
メクリエは鎌に気を取られすぎて、秦本体を忘れていたのだ。
メクリエが秦の存在にきづいた時には、既に突き刺さっていた鎌を素早く抜き、後ろからメクリエの首に鎌をかけていた。
「ま…参った……」
メクリエが降参の意を示す。
「審判、終わったぞ?」
ボーッとしている審判に声をかける。
『えっ?あっ、おい皆!! 今の勝負をみたか!? 佐久間選手がメクリエ選手の意表をつく攻撃で一気に勝負がついてしまったぞぉぉぉぉぉ!? 勝者は、挑戦者の佐久間遊選手だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
ワァァァァァと、歓声がどよめきとなる。
「ハァハァ」
身体は慣れない行動をしたのか、疲労が大きかった。
肩で息をする。
だが、勝った。
メクリエの敗因は、冷静な状況観察を忘れてしまったこと、俺を侮ったことだ。
「負けたよ。まさか、鎌を投げるとは思わなかった」
「こちらこそ、貴方が油断したからこそ勝てたものの、普段の冷静さを失ってなければ負けていました」
率直な感想を述べる。
すると、メクリエはとんでもないという風に首を振り、
「謙遜するなよ」
と、言葉を紡いだ。
笑顔で握手をする。
今度は、秦もがっちりと握手を交わした――