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勘違い

別視点です

 「クソッ! アイツらまだ追ってきてやがる!」


ところかわって、ここはフェリアード大陸の森の中。鬱蒼とした雰囲気が、この森を神秘的に魅せる。木々には、たくさんの昆虫、鳥が集まっていた。いたるところに、今までは見たことも無いほど美しい蝶が舞っていたり、奇妙な姿をしたカエルらしき生物、口の長い鳥等、まさにジャングルだった。



そして、走りにくい、道無き道を苦しそうに走って逃げ続ける男が一人。

その後ろには、無表情で男を追っている二人の女がいた。

一人は、黒い艶のある髪を肩甲骨のあたりまで伸ばしている女性の顔つきをした女。

そして、その後ろに続いているのは同じく、黒い艶のある髪で、それを肩で切りそろえてショートカットにしている女。こっちは顔にまだあどけなさが残っていた。


男は疲れているのか、どんどん速度が落ちていき、女との距離が無くなってきている。


 「くそぉ! こんなところで……」


最後の力を振り絞ろうと、歯を食いしばる。

しかし、足はもう全ての体力を使い切ったかのように、動いてはくれなかった。

筋肉が緩んでいく。


それと、ともにもう諦めてしまおうかという考えも頭を過ぎる。


どうせ、殺されるなら。


惨めに生きることに拘るよりも、潔く死ぬか。


それにしても、あの女の体力は異常だった。

男の俺でさえ、こんなに疲れているのにも関らず、その顔には全く疲れを感じさせないどころか、むしろ、元気そうな雰囲気であった。


そして、遂に完全に動きが止まる。


あぁ、もう終わりか。

まだ、やりたいことあったのになぁ。


女達を見ると、もうすぐそこまで迫っていた。

怖さに、恐怖に思わず目を瞑る。


……あれ?

本来、訪れて来るはずの痛みとそれに伴った死はこなかった。


恐る恐る目を開く。

しかし、そこにはさっきまでの女の姿は無い。神秘的な森の風景だった。


 「やった! やっと捕まえた!!」

背後から元気な声が聞こえてくる。

振り返ると、そこにはさっきまでの女達が無表情どころか、顔をくしゃくしゃにして綻ばせていた。ショートカットの女の手には綺麗な蝶が握られている。


どういうことだ?

状況が掴めない。


 「あんたら、俺を殺しに追ってたんじゃないの?」

すると、俺に気づいたようにロングの女が言葉を返す。


 「へっ? 殺す、何でそんな物騒な事を私達がするの? ただ、この蝶を捕まえたくて追っていただけよ」

 「そ……それだけっ!?」

 「それだけ」


途端に全身から力が抜け、地面に崩れるようにして座り込む。

さっきまで必死に逃げていたのが馬鹿みたいだった。


ただの、勘違い……。


 「あー、最悪……」

無駄な体力を使ってしまった。

なんか知らないけど、無駄な決意までしてしまったし。


 「大丈夫? 何か、迷惑かけた?」

 「いや、いいんだ。心配しないでくれ、憐れな男だと思ってくれていい」

 「何それ、Mなの?」


クスクスと笑う。

そんな笑顔が綺麗で、可愛くて。

思わず。見惚れてしまう。


ちなみに、言って置くがMじゃない。


 「そんな性癖はない。Nだ。ノーマルのN」

今、考えた。


 「お姉ちゃん、その人だれ?」

ショートカットもやっと俺の存在に気づいたようだった。

あれ、そんなに俺影薄かったっけ?


お姉ちゃんと呼んでるからには、姉妹のようだった。

雰囲気全然違うけど。


 「憐れなMなんですって」

 「いや、Mじゃないっす」

思わず、突っ込みを入れる。それに、また彼女はクスクスと笑う。


あぁ、可愛いなぁ――

本当に、そう思う。


守ってあげたいとも思うが、彼女達と自分の力量の差を改めて思い知る。

そもそも、基礎体力が違っていた。

これだけ走っても息切れ一つしない。もしかして、陸上部が何かか?


 「あの……全然、疲れてないんですね」

 「だって、私達魔法を使ってたんだもん」


妹が答える。

魔法? そんな、非科学的なものが……。

存在するわけないと思ったが、ここは今まで俺が住んできた世界じゃない。説明書にも書いてあったな。魔法があるって。


身体能力を上げる魔法。確か、ドーピング魔法だっけな?


 「ドーピング魔法……?」

 「そうだよ。良く分かったね!」

 「でも、魔法なんかどうやって覚えたんだい?」

 「んー? 私の武器の力だよ」

武器……。

そうか、この子の武器は魔法が使えるようになる道具なのか。

便利な武器だなぁ。

自分のとは大違いだ。


 「へぇ、じゃぁ、どんな魔法でも使えるの?」

 「違うよ」

そういって、懐から1枚の紙とペンダントを取り出して、見せてくる。


 「これが、私の武器。この紙とペンダントはセットになっていて、このペンダントを身に着けていることで、この紙に書いてある魔法が使えるようになるの。でも、何でも使えるってわけじゃなくて、この紙に書いてあるのは魔法の中でも簡単なもの。だから、私たちはドーピング魔法を使用した後でもその負担が少ないの」


確かに、そうだった。魔法を唱える文は簡単に書かれていて、ちょっと努力すればこの紙無しでも覚えられそうだった。


 「それじゃぁ、君のお姉さんが魔法を使えるのは何故?」

 「私は使えないわ。妹に魔法をかけてもらったの」

ということは、つまり、姉は魔法とは別の武器を貰ったということか。

それにしても、蝶を捕まえるだけなのに魔法を使うとは。

乱用しすぎ? いや、彼女たちとっては有効な使い方か。


異世界にきた目的は人それぞれ違うのだから。


 「そういえば、名前教えてもらってないけど、貴方の事を何て言えばいいの?」

 「僕? 僕は、藍

らん

でいいよ」

 「じゃぁ、藍。私は、卯月こずえ、妹は卯月沙羅。宜しくね」

 「あぁ、よろしく」

 「よろしく~」

と、気軽に肩に手を置きながら挨拶する沙羅。

全然、性格が違うなぁ。


さりげなく手をどける。

 「あぁ、よろしく」

 「ぶー」

なんで、ぶーとか言われなくちゃならないんだ。

と、苦笑しつつもこんなような穏やかな時間がこれからも続いていけばいいな。と、そう思っている自分もいた。


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