一通の手紙
アットノベルスで先行更新しています。
俺の名前は、小宮山秦。私立の高校に通う、高校生。小さいころから、スポーツ万能、成績優秀、ルックスも良かった俺は、幼少期から英才教育を施してきた父の人形だった。
父は、政府の重要なポジションについているらしく、家に帰ってくることは滅多に無い。父を見るのは、家でより、テレビでのほうが多かった。
何かを決めるのも、何をするのも、全ては父。絶対だったのだ。
別に、それに対して不満を持っていたわけではない。何しろ、父がやってきた事は全てが成功で、正解だったのだから。
欲しい物は全て手に入れた。地位も、富も、名声も。
そんな俺だからこそ、今の現実は不満だったし、飽きていた。
そんな時に、俺宛に届いた一通の手紙。
――――貴方は今の自分に満足していますか?
――――貴方は今幸せですか?
――――貴方は何か大きなことがしたくはありませんか?
――――貴方は異世界に行きたくはありませんか?
もし、今の世界に、自分に満足していない方は、違う世界に行ってみませんか?
行きたい方へ。
1月1日 午前0時。
あちらの世界でお待ちしております。
下の空欄にサインをしてください。
時間ぴったりに招待します。
行きたい。素直にそう思った。
今よりも、もっと素晴らしい世界へ。自分よりも、もっと高い位置にいる者がいる世界へ。
俺は――――
異世界に行く。
携帯を開き、日付を確認する。
デジタルの画面には、小さな文字で、『12月 31日 PM23時00分』
と、表示されていた。
手紙が届いたのは二日前。俺はこの日を誰よりも待ち望んだ。
異世界へ旅立つまで後1時間。
秦の胸の鼓動は高鳴るばかりであった。
「遅い」
時計の針が回るのがスローモーションに見える。
秦は、この時間を潰そうと、自室にあるテレビのスイッチを押す。
何処のチャンネルを回しても、新年を迎えるための番組ばかりしかやっていなかった。
テレビをつけっぱなしにして、スタンバイだったパソコンを起動させる。
画面には、『シンの日記』という名前の、白を基本色にしたシンプルなブログが表示されていた。
毎日の暇を潰すために書いていた日記だったが、それも今となっては必要無い。
新規投稿のボタンを押し、文字を打ち込む。
このブログを見てくれている皆様、もうすぐ新年ですね。
新年は楽しみですか?
年越しソバを食べる準備はできましたか?
中には、お年玉が楽しみだ! という人もいるかもしれませんね。
さて、重大発表です。
実は、このブログはこの記事をもって終了とさせていただきます。
理由としては、この世界に飽きたからです。
私は、もっと素晴らしい世界へと移住します。
それでは、皆さん、さようなら。
良いお年を。
投稿のボタンを押し、シャットダウンをする。
もう、このパソコンが俺によって動かされることは無い。
時刻を見る。
11:57分。
後、3分だった。
テレビでは、早くもカウントダウンが始まっているところもあった。
何が楽しいのだろうか。
新年なんて、数字が変わるだけ。
この世界の人間は何を快楽として感じるのだろうか。
11:58分。
全てを手に入れた者は、新たなモノを欲する。
現に俺は、異世界という別の世界を欲した。
そして、俺は、それを手にする。
11:59分。
この世界の、地位、富、名声を手に入れた。
もちろん、次の目標もある。
異世界での、地位、富、名声を手に入れる事だった。
『50...35...20...15...10...』
俺がこの世界にいるのも、後数秒。
この世界にいる人の全てへ。
さようなら。
「5……4……3……2……1……0!!」
『HAPPY!! NEW YEAR!!』
テレビの司会の声がこだまする。
机に置いていた手紙が光りだす。
部屋中が、その光に包み込まれ、全てが見えなくなる。
「うわああああぁぁぁぁぁ!!」
数秒後、光は消え去った。
いつもの部屋。
ただ一つ違ったのは。
さっきまでそこにいた秦は居なくなっていたこと。