9 メイドに説教する
やっと身の程をわかってくれたらしい……って、いや、このセリフは悪役が言うやつ?
まあいい。それはそれ。嫌なことをされたからやり返しただけ。
やり返すのも良くないことくらいわかっているが、目の前にいるような相手には、これくらいしないと理解してもらえない。
「黙り込んでどうしたの? あ、もしかして、お父様に辞めたいと言いにくいの? なら安心して。私からお父様に伝えてくるわ」
満面の笑みを浮かべて部屋を出ていこうとした私を、二人が慌てて引き止めてくる。
「ま、待ってください! どうして今になってそんなことをおっしゃるんですか!?」
「そうです! 今までは何も言わなかったではないですか!」
「……聞きたいんだけど、私は今まで、あなたたちに頼まずに一人で着替えていたの?」
メイド二人は顔を見合わせたあと、ボブカットのほうが私に顔を向けて答える。
「お嬢様は小さな声で言葉を発されるので聞こえないことが多いんです。聞き返しても、やっぱりいいです、って言っていたのはお嬢様のほうじゃないですか!」
「質問の答えになっていないけど?」
「だから一人で着替えていらっしゃったじゃないですか!」
たぶんだが、聞き返された時の威圧感に負けて何も言えなくなったんでしょうね。
声が小さいからイライラしてしまう時があるのかもしれないが、仕事をしている以上、我慢して優しく聞き返すか、考えを読んで先に動けばいいだけ。
「一人で着替えている私を見て、あなたたちはどう思っていたわけ?」
「……言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいのにって思ってました」
「じゃあ、はっきり言わせてもらうけど、何もしないで突っ立ってるだけなら、あなたたちって必要? ただの給料泥棒じゃない?」
「そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!」
「そうですよ! 今まで仕事を与えてくれなかったのはお嬢様のほうなんですから!」
ボブカットだけでなく、もう一人のメイドも言い返してきた。
私はため息を吐いて尋ねる。
「あなたたちって、一から十まで指示されないと何も出来ないの? 相手がどう考えているだろうと機転を利かせて動くことができないの? それともあなたたちができないだけ?」
「そ、そういうわけではありません!」
「じゃあ、自分の仕事を放棄していたのはどうしてなの?」
私に睨みつけられ、ボブカットは怯んだ様子だったが、二対一という状況が彼女に自信を与えたのか、まだ言い返してくる。
「旦那様と奥様からお嬢様の嫌がることはするなと命令されていたんです。だから、何もしなかったというわけではありません!」
「百歩譲って着替えを手伝わなかったのは良いとしても、上手く着れていないのに教えないのはどうなのよ」
「「お嬢様はそれで満足していたじゃないですか!」」
メイド二人は声を揃えて叫んだ。
今までのアリスを知っているだけに強く言い返せば何とかなるのだと、まだ思っているんだろうか。
とっとと話を切り上げて、お父様の所に行って話をしなくちゃ。いや、その前に、婚約者とも戦わなくてはいけないのか。
いつまでも、彼女たちと話を続けている場合ではなかった。さっさと着替えて用意をしなくちゃ。
「今までの私はそうだったかもしれないけれど、今日からの私は違うの。着替えを手伝ってくれないんなら手伝ってくれるメイドを今すぐに連れてきて」
「今日からの私は違うとは、どういうことでしょうか」
メイドたちは不安げな表情で私を見つめる。
「違いといえばそうね。今までの私が何も言わなかったからって、馬鹿にしてもいいわけじゃないの。人を馬鹿にして笑うなんて人として最低の行為よ。しかもそれを言い訳に仕事をしないメイドを雇うなんてお金の無駄だわ。……と言えるようになったってとこかしら?」
さすがのメイドたちも、私が今までのアリスとは違うと理解してくれたらしい。ごくりと唾をのみこんだあと、ボブカットのほうが小さな声で言った。
「あの、お着替えを手伝わせていただけませんでしょうか」
「心からそう思ってる?」
「「もちろんでございます!」」
メイド二人は大きくうなずいた。
辞めさせられたくないから言っている感がどうしても否めない。とりあえず、私が嫌な思いをしたのは一度だけ。もう少しだけ様子を見てみることにするか。性根が腐っているなら、すぐにぼろを出すでしょう。
――お父様には報告するけど。だって、この子たちをクビにするかどうかの最終判断ができるのはお父様だからね。




