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気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します  作者: 風見ゆうみ


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5   両親に話をする ①

 メイドに教えてもらった通りに階段を降りて廊下を右に進んでいくと、大きな茶色の二枚扉が見えてきた。その扉の前には黒のスーツに身を包んだ背の高い細身のお爺さんが立っている。


 年は六十代後半といったところだろうか。背筋はピンと伸びていて、真っ白な髪も綺麗に整えられていて清潔感がある。黒のスーツが似合う品のいい男性だ。


 この人はよく物語に出てくる執事というやつだろうか。


 そんなことを思いながら、ゆっくりと執事らしき老人に近付いていく。老人は制服姿の私を見て驚いた顔をしながらも、深々と頭を下げた。


「おはようございます、お嬢様」

「おはよう」


 普段ならちゃんと、ございますを付けるが、今の私はお嬢様だ。ただでさえ、アリスが使用人に舐められているので、ここは威厳を見せておいた。


「あの、お嬢様、本日は学園はお休みの日ですが、どこかへお出かけでしょうか」

「学園が休みだということはわかっているわ。着る服がないから着ているだけなの。今日は学園に行くつもりはないから安心して」

 

 そこで一度言葉を区切ってから、さらりと爆弾発言をしてみる。

 

「で、ごめんなさい。あなたは誰なのかしら」

「はい?」


 執事らしき男性は細い目を大きく見開いて聞き返してきた。


 そりゃそうなるわよね。

 気持ちはわからないわけでもないから、嘘を交えつつ説明してみる。


「私の部屋を見てもらったらわかるけど、どうやら間違って毒を飲んじゃったみたい。命が助かったのはいいんだけど、生死を彷徨った時のショックなのか、記憶が抜け落ちていて、自分のことさえも今いちよくわかっていないのよ。ごめんなさいね」


 間違えて毒を飲むって、どういう状況なのか。その毒はどこから手に入れたのかなど、色々とツッコミどころか満載なのはわかっている。しかし、私自体、いまいちわかっていないのだからどうしようもない。

 

「わ、わたくしはこの(やしき)に勤めて三十年以上になる執事でございます。あ、あの、本当にど、毒を飲まれたのですか?」


 慌てた様子の執事に笑顔でうなずく。


「ええ。血を吐いちゃったけど、今はもう元気よ」

「ど! 毒を飲まれたのでしょう!? それは大変です! 医者を、医者を呼びましょう!」

「大丈夫よ。少ししか飲んでないし、今だって元気に歩けているでしょう? だからお医者様は必要ないわ。もし、誰かを呼んでくれるというのなら、髪の毛を綺麗に整えてくれる人を呼んでほしいわ」 

「か、髪の毛を、ですか? も、もちろんお呼びしますが、体のほうは本当に大丈夫なのですか?」


 この人はアリスをいじめていた一部の人間には入っていなさそうね。いじめていたのなら、こんなに心配なんかしないはずだ。


「大丈夫よ、心配してくれてありがとう。でも、さっきも言ったけれど記憶がまったくないの。だから申し訳ないけれど、ここに勤めている使用人の名前と特徴を書いたものを用意してもらえない?」

「か、畏まりました! ルーベン様とお話を終えられるまでにご用意しておきます! それから、わたくしは執事のロッカと申します」

「ありがとう、ロッカ。面倒かもしれないけれどよろしくね。というか、ルーベン様って誰?」

「ルーベン・ホットラード伯爵令息は、お嬢様の婚約者であらせられる方です。本日、お嬢様とお約束をしていると伺っております」


 婚約者の名前はルーベン・ホットラードっていうのね。日記にはホットラード卿としか書かれてなかったから、ルーベンという名前ではわからなかった。


「教えてくれてありがとう。お父様とお母様と話がしたいから中に入ってもいいわよね?」

「もちろんでございます。お嬢様の朝食もすぐにご用意させていただきます」


 ロッカは一礼したあと、ダイニングルームの扉を開けてくれた。


 この後、どう動くかはアリスの両親に任せるつもりなんでしょうね。まあ、毒を飲んで記憶がなくなったと言われてもそう簡単に信じられるわけがない。私が両親に話をしている間に、部屋に確かめに行くことでしょう。


 さあ、アリスの両親は私の言うことを信じてくれるだろうか。転生という不思議な力が働いているのだから、ご都合主義ですんなり信じてほしいものだ。


 気合いを入れてダイニングルームに足を踏み入れ、私を見て笑顔を向けてくるアリスの両親に朝の挨拶をした。


 

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