4 メイドを叱る
「な、なんなのいきなり! どうして私にそ、そんな偉そうな態度を取れるのよ!?」
メイドは何とか言い返してきたが、動揺しているのか声が震えていた。
「何なのか聞きたいのはこっちよ。もしかして、今まで私に対してずっとそんな態度を取ってきてたわけ?」
まだ話したわけではないが、記憶喪失になっているという設定をアピールしてみた。
……あ、全く忘れてしまったのでは駄目ね。ここ最近の記憶を失っている設定でいこう。
「そんな態度を取ってきたというのはどういうことでしょうか」
「あなた、さっき私を馬鹿にしていたでしょう」
「そ、そういうわけでは……」
「私自身が偉いわけではないけれど、あなたは私のお父様に雇われているんでしょう? 自分の主人の娘に取る態度ではないわよ」
睨みつけられたメイドは視線を宙に彷徨わせた。
「そ、それは、その、あの」
よく見てみれば、メイドは若いというか子供のような顔立ちをしている。
周りの使用人に合わせてアリスに偉そうな態度を取っていたが、言い返されて焦っているみたいね。
メイドは助けを求めて、必死に辺りを見回すけれど、残念ながら廊下を歩いている人はいなかった。
「まあいいわ。これから言葉遣いには気を付けてね」
「は、は、はい。あ、あの、ありがとうございます」
「礼はいらないわ。それよりも、あなたの態度に改善が見られなかったら、今度こそお父様に連絡させてもらうから、それだけは覚えておいて」
「そ、それだけはやめてください! 辞めさせられたら困ります!」
「なら、ちゃんと仕事をしてくれる?」
「もちろんです!」
「そう。なら早速お願いしたいんだけど、私が吐いた血のせいでベッドが汚れてしまったの。綺麗なシーツに取り換えてくれる? それから、お父様とお母様は今どこにいるのか教えてくれない?」
メイドは私の吐いた血と聞いて驚いた様子だったが、詳しいことは聞かずに、私の質問に答える。
「ダ、ダイニングルームにいらっしゃるかと思いますが」
「ちなみにそれはどこにあるの?」
「どこ……とおっしゃいますと?」
「だから、ダイニングルームはどこにあるのと聞いているの」
「理解が足りず申し訳ございません! あちらの階段を降りて、向かって右に曲がった所にございます」
メイドは右手に見える階段を示して頭を下げた。
「そう。ありがとう」
どんな立場であれ、お礼を言うことは大事よね。
たとえムカつく相手でも、言わなきゃいけないことは言わなきゃいけない。それをしなければ、相手と同類になってしまうもの。
まあ、やり返そうと思った時点で同類に近いのかもしれないが、なめられたままでいられない性格なので、そこは気にしないでおく。
人に嫌なことをするんだもの。自分だってやり返される覚悟はあるということよね?
私は一人で納得して歩き始めた。
お父様とお母様はどんな人なんだろう。
今日、家にやって来る予定の婚約者と婚約を解消したいなんて言ったら怒られるだろうか。
……まあ、何とかしてみせるわ。




