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気弱な令嬢ではありませんので、やられた分はやり返します  作者: 風見ゆうみ


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2   アリス・キュレルに転生する ②

 私は日記など書いていなかったが、他人に日記を読まれるのは嫌なことくらい想像できる。だけど、今回は緊急事態なので許してほしい。

 とにかく、彼女のことを知らなければ、この先生きていけないからだ。


 罪悪感を感じながらも日記を読んでみて、その内容に愕然とした。

 私だったらたぶんキレまくっていそうなことを彼女はされていたからだ。

 書物机の上にペンが置いてあったので、頭に叩き込むためにも日記帳の最後のページに書き出してみることにした。


 生前の彼女はこんな感じだった。


『①この家に仕えている使用人たちからいじめられていた』


 どうして、使用人にいじめられるのよ? この家の主人の娘なんじゃないの? 使用人が主人の娘をいじめるなんてありえないでしょう。

 いじめをしようとする使用人も使用人ね。普通はそんなことをしたらクビになることは目に見えている。

 それなのに、どうしてそんなことをしたのか。彼女が告げ口なんかするわけないとでも思っていたのかしら。


『②彼女は学園の生徒たち、同じ学年だけじゃなく他の学年の人間からもいじめられていた。それは社交場でも同じ』


 彼女の周りって性格が悪い奴しかいなかったの? 酷すぎるでしょ。


『③婚約者が浮気していた。理由は彼女がつまらない女だから』


 って、この理由、全く意味がわからないんだけど?

 浮気する相手のほうが人間としてつまらないというか最低な奴じゃないの。これに関しては特に納得いかないので、ふざけたことを言っているこの婚約者とやらは潰すしかないわね。


『④婚約者は浮気相手と婚約するからと婚約の解消を求められている上に、慰謝料まで請求しようとしてきている』


 婚約者はアホなの? というか、婚約者の親も止めなさいよ。


『⑤悪いのは婚約者なのに、周りはその男を責めずに、彼女を責め立てている。そして、その事により、彼女へのいじめは余計にエスカレートした』


 意味がわからない。どうしてそんなことになるのよ。性格が悪いというよりかは、周りの人間も頭が悪すぎる。


『⑥何も言い返すことのできない自分が嫌いだし悔しい。違う自分になりたい』


 これについては努力をしていたようだけど無理だったみたい。変わることって不可能ではないけれど、本当に難しいものね。

 だけど、諦めなければ変われていたと思うから残念だわ。 私だって昔はいじめられていたけど、今はそんなことはなくなったからね。


 ベッドの上に転がっている小瓶のことも、最後の日の日記に書かれていた。 


 どうやら、彼女は誰かにあの小瓶を渡されたらしく、それを飲み干したあと命を落としたらしい。


『ノアに渡すように言われたけど、どんなものかわからない。毒ではなくて、ただ、お腹を壊すくらいだと言っていた。だけど、そうじゃない気がする。そんなものをノアに渡してもいいの?』     


 こんな風に警戒していたのに、この子は毒を飲んだの? どうして? 死にたくなかったんじゃないの? 悔しいって書いてるじゃない。


 ……もしかして、ノアという子に渡さないといけないけれど、渡すことが出来ないから自分で飲んだの?


 負の感情に陥っている時は冷静な判断はできなくなるだろうから、突発的に飲んでしまったのかもしれない。死ぬ間際の声が私に届いたのね。


 どんな理由があったとしても、毒を渡すなんてこんなことは許されない。この子が飲まなくても、ノアという友達が彼女のようになっていた恐れがある。


 人の日記を勝手に読んでおいて言うのもなんだけど、胸くその悪くなる内容ばかりだった。


 いじめが陰湿だし、婚約者も頭が良さそうに思えないしイライラする。


 辛いことがあっても学校に通っていたのは、ノアという平民の友人と、そのノアと仲の良いキースという辺境伯令息がいたかららしい。それと、家族に心配をかけたくなかったから。


 彼女には兄がいるけれど、今は家にはいない。家族は彼女のことをとても愛してくれているようだし、彼女の環境の全てが悪いというわけではなかったのが、せめてもの救いのように思えた。


 子爵や辺境伯令息という、日本ではフィクションの世界でよく聞く言葉を見て、改めて今の私が城野ありすではないことを実感させられた。


 ノアもキースも、そして彼女の両親も彼女がいじめられていることに気付いてなかったようだから、彼女は親や親しい人に知られたくなくて、うまく隠し通していたのかもしれない。


 親にいじめられているなんて言えないっていう話はよく聞くし、私も親に言えなかったし言わなかった。その時の私は、いじめられていることを恥ずかしく感じてしまったから。


 だけど、実際はそうじゃない。いじめをする奴が悪い。


 ふと、書物机の横に学校鞄らしきものがかけられているのに気がついて、鞄を開けてみた。


 中に入っていた教科書は見た目は綺麗だが、ページをめくってみると、目を覆いたくなるような罵詈雑言の落書きがされていた。腹が立って破り捨てそうになってしまったので、すぐに教科書を閉じた。

 破り捨てては駄目よ。これはいじめの証拠だもの。いつか必要になる時がくるかもしれないからとっておかなくちゃ。


 教科書を裏返してみて、やっと彼女の名前がわかった。


 彼女の名前はアリス・キュレル。


 ありすという名前が同じなのは助かった。聞きなれない名前で呼ばれてもすぐに反応ができないが、同じ名前なら大丈夫だ。


 彼女は死ぬ間際にこう叫んでいた。


『こんなことで死にたくない! だけど、生きていたって弱いわたしじゃ戦えない! だから、誰か、わたしの代わりにっ』


「よし」


 信じられない状況ではあるけれど、憑依させられたことには理由があるはず。


 アリス、本当はあなたが死なずに、自分で戦うことが一番良かったんだけど、あなたはもうこの世にいないのよね?


 なら、私はあなたの体で好き勝手やらせてもらうわ。私はあなたのように、やられたまま我慢できる優しい性格じゃないの。

 あなたが出来なかったことをするからね。


「あなたの無念、私が晴らすわ」

 

 日記帳に手を置いて、私はアリスにそう誓った。







られるかしら。

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