6.人
それから数日間、相変わらず草摘みの日々が続いた。
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8月1日。
目をこすりながら服を着込み、ギルドへ向かう。
「姉貴、おはようございます」
「おう、陌鋒!いい依頼が来たぞ」
ディシアが腰に手を当てて言う。
「マジっすか?」
彼女が一枚の紙を指さす。
「南の村からの依頼だ!オルカ村って言うんだが、王国側にあるらしい」
「王国の依頼が帝国にも来るんすか?」
「心配すんな〜あの村は帝国に近いし、周りにギルドがないからこっちに回ってきたんだよ」
なるほどな、とうなずく。
「馬車を呼んでくる」
ヘルクが言う。
「そういや陌鋒、残り金いくらだ?」
「銀貨4枚と銅貨50枚くらいすね」
「よし、今回の依頼は多めにやるからな。お前の頑張りへのご褒美だ」
腰に手を当てて言う彼女。
「いいすよ、今は十分ありますし。それに結構貯まりましたし」
「うーん…狐芙がお前にライターくれたんだろ?お前は狐芙に何を贈るんだ?」
彼女が身をかがめて、小声で尋ねる。
「そう言われても…狐芙が何好きか分かんないす。姉貴、知ってます?」
首をかしげて聞くと、
「さあな、俺も知らねえよ」
手を広げる。
腕を組んで、眉をひそめながら考え込む。
しばらくして大進と平野が来て、その後すぐに狐芙も到着した。
俺は眉をひそめながら首をかしげて狐芙を見る。彼女もチラッと俺を二度見ては、すぐに顔をそらす。
村の入り口へ向かい、馬車に乗り込む。
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王国の国境まで十分ほど進むと、二人の衛兵に止められた。御者が交渉し、ディシアが降りていく。五分ほどして戻ってきた彼女が言う。
「歩きだ。この先に追い剥ぎが出るらしくて、馬車は通れねえそうだ」
「追い剥ぎ?俺たちに戦闘能力があるとは言わなかったのか?」
ヘルクが尋ねる。
「王国で死人が出ると、帝国にまで影響するのを嫌がったんだろ」
馬車を降りる。
一人の衛兵がディシアを見て言う。
「あなたのことは知ってる。止めたくはないんだが、これが仕事でな。もし何かあったら俺たちが責任取らなきゃならねえんだ」
「構わないさ」
ディシアが手を振る。
オルカ村へ向かって歩き始める。
「なあ、追い剥ぎって衛兵は襲わないんすか?」
「奴らは王国の勢力には積極的に関わらないんだよ。国もいちいち森から一人ひとり引きずり出すのは面倒だからな。通りかかった馬車だけを狙ってる。数日、馬車が通らなきゃ自然とどっかに行くさ」
ディシアが言う。
「じゃあ、もし馬車が来なかったら、今度は俺たちを襲うんじゃ…?」
「安心しろ。追い剥ぎに大した奴はいねえよ」
しばらく歩いてオルカ村に到着。ディシアとヘルクが依頼の詳細を確認しに行く。
大進さんと平野さんは先に昼飯に行ったらしい。
「ちょっと待つか」
ポケットから干し肉を二本取り出し、狐芙に渡す。
「ちょっと待つか〜」
受け取りながら言う。
「つーことは、帰りも歩きか?めっちゃ遠いじゃん」
「仕方ないだろ。道が通れるようにならなかったら、歩いて帰るしかないね」
狐芙が言う。
しばらくしてディシアたちが戻り、小さな食堂に入る。
「洞窟はここから結構遠い。半日はかかるな。道具はちゃんと持ってきたか?」
ディシアが尋ねる。
「大丈夫です、ディシアさんが全部持ってくれてます」
狐芙が答える。
「で、俺たち何やるんすか?」
「洞窟探検だ。中にいる魔物を倒せば、報酬とは別に戦利品も全部お前らのものだ。依頼料は銅貨50枚だ」
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昼飯をさっと済ませ、森の中の洞窟へ向かう。
どれだけ歩いたか、空が黄昏に染まり始めた。今夜はここで野営だ。
狐芙がバッグから糸巻きを取り出す。
「陌鋒!ちょっと来て!」
「どうした?」
呼ばれて近づく。
「この糸、持ってて」
受け取ってうなずく。
彼女は木に糸を二回巻きつけて縛り、糸巻きを地面に置く。俺の持っていた糸を二本に絡め、それを持ってキャンプ場の周りを一周。曲がり角ごとに木に巻きつけ、最初の木に戻ってまた数回巻き、糸を切る。
「何してたんだ?」
「後で分かるって!」
バッグから鈴を何個か取り出し、いくつかを俺に渡す。
「これ、糸に付けて。一本に二個くらいでいいから」
そう言って自分は最初の木に付け始める。
「付けるの遅い方が飯おごりな!」
「は?」
急いで反対側の木に付け始める。
「私の勝ち!陌鋒おごりね!」
腰に手を当てて俺を指さす。
「ずるいだろ!」
「ふんふん」
「ふんふん…姉貴、今日の飯は俺が作ります!」
ディシアに向かって言う。
「おお!もちろんいいぞ!」
「何でだよ!」
「おごるって言ったじゃん」
「そういう意味じゃなくて!」
「俺が作ってやろうって言ってんのに」
「作ったことない奴に作らせられるか!」
「もしかしたら美味いかもしんないだろ?」
「嫌だ!」
「なんで嫌なんだよ!姉貴と俺の飯、何が違うんだよ!」
「ちゃんと習ってからにしろ!」
「習う必要あんのか?ぶち込めばいいだけだろ」
「それで食えると思ってんのか!」
「食えるっしょ。美味いかどうかは別にして」
狐芙がポカンと口を開けて俺を見る。
ディシアたちが薪を拾いに行き、俺と狐芙はジャガイモの皮を剥いて残る。六個剥いて器に入れた。
俺はマットに寝転び、狐芙は隣に座る。
「なあ狐芙、どうせ最後にはパンも食うんだし、鍋に入れて煮込んだら美味いかな?」
手を上げながら言う。
「アホ?まずいに決まってるでしょ。誰がパンを鍋に入れるのよ」
「まあな…でも、もしかしたらイケるかも?」
「今まで誰もやってこなかったのには理由があるんだよ」
「皆、自分だけこっそり食べてるんじゃね?」
上体を起こして笑いながら言う。
「ふん…バカじゃないの」
「こっそり入れてみるか?」
「ディシアさんに蹴り飛ばされるわよ」
狐芙が笑う。
「やめとこ」
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しばらくして、ディシアたちが薪を抱えて戻ってきた。
「一晩分くらいはあるかな」
ディシアが服の埃を叩きながら言う。
地面に二本の鉄棒を立て、横にもう一本を渡して、鍋の取っ手を掛ける。
ディシアがバッグから木のまな板を取り出し、ジャガイモを切る。肉を取り出して匂いを嗅ぐ。
「陌鋒!狐芙!肉は大きめがいいか?小さめがいいか?」
「大きい方がいい!」二人で答える。
ディシアが笑い、肉を切り分ける。
夕食の支度が始まる。狐芙が立ち上がり、大きな布を取り出す。
「手伝おうか?」
「いいの?」
立ち上がって隣に行く。
キャンプ場から少し離れた場所で、狐芙が木に布を巻きつけて縛る。小さな空間ができた。
「完成!戻ろ」
腰に手を当てる彼女。
「何もすることなかったな」
「これからはずっとあんたの仕事だから」
マットに寝転ぶと、周りに蚊取り線香のようなものが刺してある。虫除けと、獣避けの匂いが混ざっているらしい。
ディシアが油と醤油の瓶、八角の袋、そして壺を取り出す。
火を起こし、油を鍋に注ぐ。温まったところで肉を投入。ジュージューと音を立てる。軽く炒めてジャガイモも加え、さらに炒めてから水を半分ほど入れる。八角を二つ、生姜少々、醤油を少々。蓋をして、マットに座り、時々火の番をする。
一方でヘルクは太めの棒を一本取り出し、先を尖らせる。バッグの横から壺と布切れを取り出す。それは簡易的な包帯らしい。布を壺に浸して、蓋をしてバッグに戻す。
また一方で、狐芙はバッグから茶碗と匙を取り出す。布を水で濡らして拭き、乾いた布で拭いてから板の上に並べる。
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いつの間にか夜が更けていく。
皆で夕飯を囲む。一人一本ずつ干し肉をかじりながら。姉貴の飯はやっぱり美味い。
食後は皆マットに寝転んだり座ったりして喋っている。
今夜の最初の見張りは俺とディシアだ。だから今のうちに寝ておこう。
マットに横たわり、腕を枕にする。
「寝るの?」
狐芙が尋ねる。
「寝る」
「寝相、変だね」
彼女が横になって頬杖をつきながら言う。
「そうか?」
自分の体を見る。脚を組んで寝ていた。
「ズボン汚れるよ」
「え?」
ズボンを見てパンパンと叩き、また仰向けになる。
「じゃあ、おやすみ」
彼女も仰向けになる。
「あ〜…」
欠伸をして、肩を動かす。そのままじっとしている。
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どれだけ経ったか。
「ん…」
目を開けると、狐芙が目の前で揺れている。
「見張りの時間だよ」
「おう…は〜」
起き上がり、伸びをして欠伸をする。
「しかしさ、あんた寝相ホントに酷いね」
狐芙が笑う。
「え?マジすか?」
「見てみなよ、自分とマット」
目をこすって自分の体とマットを見る。緑色の粒が体中とマットにびっしり。
「何だこれ?俺、寝相いいはずなんすけど…」
一粒つまんでまじまじと見る。
狐芙は自分のマットに戻って横になった。
「姉貴、俺ってそんなに寝相悪いんすか?」
ディシアの方を見る。
「さあな。俺も寝てたし」
木に寄りかかって笑いながら言う。
「寝るわ」
狐芙が言う。
「おう、おやすみ」
立ち上がって体についた粒を払い、マットもパンパンと叩く。
「ぷ…ん…」
隣を見ると、狐芙が笑いをこらえている。
「何笑ってんだよ?」
「もう寝てま〜す」
「ほー…寝言で喋れるんだな」
「ふんふん、さあね」
「何時間見張んの?」
マットに座ってディシアに尋ねる。
「四時間くらいだな。疲れたら言えよ」
「長いっすね。見張ってる間、何すんの?」
「座ってるくらいしかねえな」
「あ〜…」
立ち上がってあたりを見回し、木から枝を一本折って、他の枝を叩いて遊ぶ。
しばらくしてマットに戻り、枝で焚き火をいじる。寝転んで星を見る。また起き上がって木のそばに行き、草を一本抜く。
「姉貴!」
小声でディシアに見せる。
「ふ…」
彼女は顔を背け、手で口を覆う。
狐芙の前にしゃがみ、抜いた草で彼女の鼻をくすぐる。
「ん…」
彼女が手で顔をこする。
顔を上げてディシアを見て笑う。もう一度くすぐる。ディシアはゆっくりと顔を背ける。
彼女を見てまばたきし、下を見る。狐芙が静かにこっちを見ている。手にはさっきの草の先端が握られていた。
「あの…狐芙…聞いてくれ。俺じゃないって言ったら信じるか?」
彼女が素早く起き上がり、左肩にパンチを喰らわす。
うずくまって倒れ、殴られた場所を抑える。狐芙は何事もなかったようにまた寝る。
ディシアが手で口を覆い、笑いをこらえている。
しばらくして起き上がり、ディシアを見る。
「殴るの、痛ぇっす…」
「ははは…」
ディシアが手で口を覆い、肩を震わせている。
「寝てるとこ起こすからだ」
「起きないと思ったんすけど…」
腕をさすりながら自分のマットに転がる。
ディシアの笑い声が時々聞こえる。
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しばらくしてディシアが大進と平野を起こす。
「やっと寝れる!」
仰向けに倒れ込む。
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目を開け、体を起こす。
「もう寝なくていいのか?」
前を見ると、ヘルクがマットに座ってこっちを見ている。
「ヘルクさん…もう眠くないっす」
伸びをしながら言う。
「そうか。野営はどうも落ち着かなくてな。帰ってからゆっくり寝るといい」
「俺は結構よく寝れたんすけどね」
「それは何よりだ。…しかし、ずいぶん汚れてるな。叩け」
自分の体を見て、立ち上がってパンパンと叩く。
「汚すぎだろ。どうやったんだ?」
頭をかく。
「ふ…」
ヘルクが首を振って笑う。「夜中に遊んで転んだのか?」
何も言えずに頭をかく。
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しばらくして狐芙がゆっくりと起き上がる。目をこすり、欠伸をして、水筒を手にして一口。またマットに戻り、左右を見る。土の中から小石を掘り出して、俺に投げる。
「あだっ!」
右腹を抑えながら彼女を見る。
「また殴られたのか?」
ディシアが目をこすりながら笑う。
隣に座っていたヘルクが俺とディシアを交互に見る。
「何かあったのか?」
「いやな、昨夜、陌鋒が狐芙の鼻を草でくすぐって、後で殴られたんだ」
ディシアが笑いながら説明する。
「ふ…」
ヘルクが薄く笑い、右手の人差し指で鼻の先をこする。
「次からは学習するな」
淡々と笑いながら俺を見る。
頭をかく。
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しばらくして大進と平野も起きてくる。朝飯にパンをかじり、道具を片付けて再び出発する。
どれだけ歩いたか、洞窟の前に着いた。入り口に立ち、ヘルクが鉄の缶から油の染みた布を取り出し、棒に巻きつけて火魔法で灯りをともす。
中へ進む。先頭はディシア、次にヘルク、俺、狐芙、大進、平野。しばらく歩いたところで、ディシアが足で何かを踏む。白くてネバネバしたものだ。
「逃げろ!」
突然彼女が叫ぶ。
「何だこれ!」
巨大な蜘蛛がこちらに向かって突っ込んでくる。
皆一斉に洞窟の入り口へ走り出す。
「うわああああ!」
必死で走る。
「ひいい!」
狐芙が叫びながら俺の横を追い越す。次にディシア、ヘルク、大進、平野。
「待ってくれ!」
走りながら後ろを振り返ると、巨大な蜘蛛が猛スピードで追ってきている。
二分ほどで洞窟を飛び出した。巨大蜘蛛は追ってこなかった。
「こんなとこに何でこんな蜘蛛が…」
ディシアが洞窟を見つめる。
「あの蜘蛛は光を嫌う。だから今は安心だが…なぜここに現れたのか。それに、ああいう大型種はもうほとんど見かけないはずなんだが」
ヘルクが腰に手を当てて言う。
ディシアがうなずく。
「油はまだあるか?」
「ない。一旦村に戻ろう。あの蜘蛛を追い出さないことには対処できん」
村へ戻り始める。しばらく歩くとまた日が暮れかけてきた。昨夜と同じように野営するしかない。マットを敷き、刀を横に置く。
「今夜は刀を手元に置いておけ。狐芙、お前と陌鋒で最初の二時間を見張れ」
「今日は少し離れた場所にも鈴を仕掛けよう」
ディシアが言う。
狐芙と一緒に糸を張り、鈴を付ける。今夜の食料はパンだけだ。ディシア、大進、平野はもう寝ている。ヘルクがマットに座り、周囲を見張っている。
俺と狐芙は顔を見合わせる。
「何かあったんすか、ヘルクさん?」
ヘルクがしばらく俺を見てから言う。「あの衛兵が言ってた追い剥ぎだ。この辺りに潜んでるかもしれん」
「え?」
二人であたりを見回す。
「確証はないが、用心するに越したことはない」
俺と狐芙はそれぞれの毛布に座り、周囲を警戒する。
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しばらくして、後ろからパキッと音がした。
振り返る。ヘルクを見る。彼がうなずく。ヘルクはゆっくりとディシアのそばに歩き、狐芙も立ち上がってヘルクの隣へ行く。
刀を抜き、木に近づく。半分だけ体を乗り出す。木の後ろには誰もいない。振り返ると、ディシアたちが既に起き上がり、低い姿勢で警戒している。
「後ろだ!陌鋒!」
ディシアが叫ぶ。
振り向くと、フードをかぶった男が刀を振り下ろそうとしている。剣で受けると、突然、体が後ろに持っていかれて、ドスンと地面に倒れた。
ドーンという轟音と共に、火球がその男に命中し、吹き飛ばされる。手をついて起き上がる。ディシアが後ろから駆け寄り、大剣が頭上を通り過ぎて男を貫く。バタリと倒れ、血しぶきが顔にかかる。死体をまばたきしながら呆然と見つめる。
「陌鋒!ヘルクのそばへ!」
這うようにして立ち上がり、刀を拾ってヘルクのそばへ走る。ディシアもすぐに戻り、全員で円陣を組む。狐芙が中央で小刀を構えている。
森の中からガサガサと音がして、十数人の男たちが現れ、俺たちを囲んだ。
一斉に襲いかかってくる。
ディシアが前に飛び出し、一人を倒す。その勢いで半回転し、もう一人を斬る。さらに前に進む。
大進と平野は連携して戦う。大進が攻撃を受け止め、平野が倒した男にとどめを刺す。
俺の前には三人の敵が迫る。
轟音と共に炎が飛び、一人の敵を襲う。悲鳴を上げてその男は倒れた。
ヘルクが素早く刀を抜き、もう一人の敵に立ち向かう。
最後の一人が突っ込んでくる。奴が右から刀を振り下ろす。俺は剣で受ける。ガキンという音。奴はすぐに刀を引き戻し、上から振り下ろす。俺はまた受ける——が、体が右に傾く。足首を何かに蹴られた。
ドスンと倒れる。奴が再び刀を振り上げる。慌てて左手で刀を掴み、掲げる。
大剣が男の体を貫く。バタリと倒れる。呆然とそれを見つめ、振り返る。
狐芙が背後に立ち、小刀を握っている。
「大丈夫?」
肩に手を置いて尋ねる。
まばたきしながら彼女を見て、また死体を見る。ゆっくりと立ち上がる。
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ディシアたちが死体を森の中に運ぶ。木に寄りかかって座る。土を見る。血が染み込み、暗赤色に変わっている。顔の血はもう乾いていた。
ディシアが布を狐芙に渡す。狐芙がそれを持って近づく。
「はい」
狐芙が布を差し出す。水で濡れた布だ。それを受け取り、顔や首、手を拭く。
木に寄りかかって座っている。布を持ったまま。
彼女は何も言わず、ただ隣に座る。
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どれだけ経ったか。ディシアがパンを持って歩いてくる。小さく千切った一切れを差し出す。受け取って、ただ見つめるだけ。
狐芙が立ち上がり、自分のマットに戻る。
ディシアが隣に座る。
「陌鋒、俺たちが人を殺したのを見て、悪者だと思ったか?」
「いや…そういうわけじゃないんすけど…初めて見たんで…」
「はあ…」
ディシアが軽く息を吐く。
「陌鋒、人を殺すのは、何があっても間違ってる。守るためだとか、何とか言ってもな。殺しは殺しだ。」
俺は黙って彼女を見る。
「でもな、どんな時でも俺たちは生き延びなきゃなんねえ。そのために覚悟しろって言ってるんじゃねえ。守るためだ、仲間を、家族を守るために準備しろって言ってるんだ」
彼女は俺を見て言う。
「人を殺すと、人は変わる。その後はもう前と同じじゃなくなるんだ。はあ…俺が初めて人を殺した時も、今のお前と同じだったよ。殺さなきゃ俺が殺されてた。それ以来ずっと忘れられねえ。三日間まともに眠れなかった。ずっとそのことばかり考えてた。陌鋒、お前も覚悟しとけ。でもな、俺はお前に人を殺させるつもりはねえ。誓うぜ。少なくとも俺とヘルクがいる間は絶対に」
「ただ…気持ち悪いっすね。それに…ちょっと怖かったです」
頭をかく。
ディシアが笑って言う。「誓うよ」
うなずく。
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マットに横たわり、目を閉じて眠ろうとする。眠れない。空と星を見る。体の下の土にはまだ血が染み付いているかもしれない。
隣で物音がする。狐芙が自分のマットを引き寄せていた。彼女が横たわり、手の甲でそっと俺の腹を叩く。
彼女を見ると、彼女も俺を見ている。何も言わず、俺は欠伸をして、再び目を閉じた。




