5.
7月24日
ザーザーザー……
目を覚まし、目をゴシゴシ擦って欠伸を一つ。窓の外を見る。
「あ…雨か?傘、まだ買ってなかったな…」
急いで服を着込み、革鎧を頭に掲げてギルドへ走る。雨は強くないけど、そのうちずぶ濡れになる。
ギルドに駆け込む。見回すが、ディシアの姿はない。
「まだ来てないのか…?」
椅子に座り、長い待ち時間が始まる。
「陌鋒!」
ディシアがドアを開けて叫ぶ。
「姉貴!やっと来た!」
椅子から立ち上がる。
彼女は目を擦りながら俺を見る。
「言うの忘れてた!雨の日は休みだ!」
「え?!?」
「お前が知らねえのも今気づいたわ。もうちょっと寝てたかったのに」
彼女はそう言って、レインコートを着て傘を差し、俺を家まで送ってくれた。
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家に帰り、椅子に座って窓の外を見る。雨はますます強くなる。やることもない。椅子に座ったまま干し肉をかじり、パンを齧りながら、窓の外を眺める。雨がザーザーと窓ガラスを打つ音がする。どれくらいそうしていたか、ベッドに横になる。ほんとに暇だ…
どれくらい経ったか、雨がようやく止んだ。外に出ると空はまだ曇っている。商店へ向かう。
「陌鋒、雨が上がった早々に買い物?」
カウンターに頬杖をついた女性が言う。
「カーマさん、レインコートと傘と長靴、買いに来ました」
「ちょっと待ってね〜」
彼女は横の戸棚をごそごそ探り、必要な物を取り出す。
「雨の日でも依頼を受けるの?」
「え?なんで分かったんすか?」
「レインコートと傘を一緒に買う人なんて、冒険者以外見たことないもん」
「そうなんすよ。これから雨が続いたら、仕事行かないと金なくなっちゃうし」
「大変ね。全部で48銅貨だよ」
「あ…もっと安いの、ありませんか?」
頭を掻く。
「探してみるね…38銅貨でどう?」
「は、はい…ありがとうございます」
店を出る。
「あ〜…ちゃんと計算しなきゃな。残りは銀貨5枚と銅貨23枚か…後でカーマさんに両替してもらおう」
空はまだ曇っている。
買った物を家に置き、ベッドに横たわる。つまらない一日が過ぎていった
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7月25日。翌朝。
服を着込み、宿を出る。
「よっ!起きたか?」
「あ…姉貴?」
「今日は町に行くんだ。買い物な」
「町?」
「毎週金曜は市が立つんだよ。十時ごろ出発するから、それまで訓練しよう」
二人で前の大きな木のところへ向かう。
「陌鋒、一回見本を見せるわ」
ディシアは大剣を手に前へ走り出す。剣身から水のようなものが流れ出し、まるで水流が彼女の後ろを追うように見える。剣を振り抜き、体を半回転させる。前に走っていた勢いで、体が後ろに滑って止まる。
「どうよ?できるか?」
叫ぶ彼女。
「やってみます!」
息を吐き、彼女の動きを真似て前に走る。左手は鞘、右手は柄を握り、刀を抜く。右に半回転…しようとしたが、半分も回らないうちに、バタッと地面に倒れた。
ディシアが大笑いする。
「あああああ、見てるとなんか簡単そうなんすけど!」
「簡単そうに見えることほど、難しいもんだよ。もっと頑張らないとな」
笑いすぎて出た涙を拭いながら言う。
「じゃあ…まだ続けます?」
大の字になって寝転びながら尋ねる。
「とりあえずバランス訓練からだ。片足立ちからやれ」
「はい〜」
彼女は木に寄りかかって座る。
「好きな体勢でいいから、立ってろ」
「了解です」
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どれくらい経ったか。
「陌鋒、そろそろ行くぞ」
ディシアが立ち上がり、手招きする。
「おう!」
小走りで隣に行く。
村の中へ向かう。服の埃をパンパンと叩く。
「泥、つかなくて良かった」
「はは、泥にでも転んだら一日中汚れてるぞ」
「もう慣れましたよ。冒険者なんて汚れて当たり前でしょ」
「お前、結構開き直ってんな!」
村の入り口まで来ると、狐芙とヘルクが立って待っていた。
「陌鋒!遅いわよ!ずっと待ってたんだからね!」
狐芙が手を挙げて叫ぶ。
ヘルクが彼女を見る。「君もさっき着いたばかりだろう」
「ヘルクさん〜〜」
ディシアが手を上げて挨拶する。
「特訓してたんだ」
「何の特訓?」「どんな訓練だ?」
二人同時に聞く。
「バランス訓練だけどな。片足立ちとか」
「基礎は大事だ」
ヘルクがうなずく。
「もっとすごいのかと思ったのに」
狐芙が両手を腰に当てる。
ヘルクがディシアを見上げる。
「基礎が終わったら、『龍流水斬』を教えるつもりだ」
ディシアが腕を組んで言う。
「龍流水斬!ディシアさん、陌鋒に龍流水斬を教えるんですか!?」
狐芙が目を見開く。
「狐芙も習いたかったら、教えてやるぞ?」
「私、剣はあんまり慣れてないですけど…でも、訓練する時、見に行ってもいいですか?」
「いいぞ、いつでも来い」
「えへへ〜」
「狐芙、俺の了承はまだ得てないんだけど」
「陌鋒坊や、もう了承したも同然でしょ?」
「は?なんでそうなるんだよ。絶対俺の恥ずかしいとこ見たいだけだろ?」
「ふん、男がちまちま言うもんじゃないわよ。姉貴がOK出したんだからいいでしょ。ふんふん」
狐芙が顎を上げて腕を組む。
「はあ〜」
首をかしげる。
ヘルクが馬車の横で、薄く笑いながら言う。
「そろそろ行こう」
皆、馬車に乗り込んで出発する。
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しばらくして、カセクの町に到着した。
料金を払って馬車を降りる。
門をくぐると、道の両脇にはぎっしりと露店が並んでいる。それぞれ散って、買い物を始める。
あっちを見たりこっちを見たり。何売ってんだ?軽食に…花の種に…動物…?前に進むと、左の方にろうそくを売っている店がある。
近づいて尋ねる。
「ろうそく、いくらですか?」
店主が煙管をくわえ、立て札を指す。
『半根点亮漫长夜,一根点明身前路
十根一生亮如明,百根生平无玄记』
(※店主は風国人。風国語で書かれた、本人が考えた宣伝文句らしい。要するに「この蝋燭はとても長持ちします」という意味だろう。)
何だこれ…………
「一本一銅貨だ。お若いの、いかがかな?」
眉をひそめる。「高くないすか?他所は二本一銅貨じゃないすか?」
「うちのは一本で普通の八本分もつんだよ」
店主が笑う。
眉をひそめて店主を見て、それから地面に並べられたろうそくを見る。
「…じゃあ、十本ください」
「あの、ここで両替してもらえますか?銀貨一枚なんすけど」
店主は自分の皮財布を見て、うなずく。
銀貨を渡し、90銅貨を受け取る。
「またのお越しを〜。今時ろうそくを買う人も少なくなったがね」
店主が言う。
ろうそくをポケットに入れて、また歩き出す。こっち見たりあっち見たり。
「パンを器にしたまぜそば?五銅貨か…」
「肉のステーキ…十銅貨か」
しばらくして、門のところに戻り、皆が戻るのを待つ。
しばらくすると、狐芙がたくさんの荷物を抱えてふらふら歩いてくる。慌てて駆け寄り、袋を受け取る。
「何でこんなに買ったんだよ?」
手の中の袋を見る。
「生活必需品でしょ!それに…女の子の買い物にあれこれ聞かないでよ!」
狐芙がこっちを見て言い返す。
門のところに戻る。
「ふんふん、陌鋒!」
狐芙が急に小さな袋を差し出す。
「くれんの?俺に?」
指を差すと、彼女は何も言わずに袋を揺する。
受け取って中を見る。
「ろうそく…?」
「ふん、魔力ないんだから、灯りつけられないでしょ?だから買ってあげたのよ!」
腰に手を当てて顎を上げる。
「あ…俺もろうそく買ったんすけど…」
ポケットから何本か取り出し、狐芙の袋に入れる。
「なんでお前も買うのよ!」
腰に手を当てる。
「俺のろうそくも無くなりかけだったし…」
頭をかく。
「でも…ありがとな。これで長く使えるわ」
彼女を見る。
狐芙はこっちを見て、顎を上げる。
「ふんふん〜」
頭をかく。
「なんで袋まで付いてるんだ?」
そこへディシアとヘルクが人混みから現れる。
「ジャジャーン!」
ディシアがポケットから一握りのろうそくを取り出し、差し出す。
さっきの袋を開けて、ディシアがそれを入れる。
「ディシアさん!なんであなたも買うんですか!」
「ちょっと待て、陌鋒お前こんなに買ったのか?しかも袋付き?」
袋の中を見て驚くディシア。
首を振る。「こっちの半分以上は狐芙が買ったんです。袋も彼女がくれたもので」
「皆さん買われたのですか」
ヘルクが言い、内ポケットからまた一握りのろうそくを取り出し、袋に詰め込む。
「袋、もうパンパンっす…」
袋を見る。
「何で皆んなそんなに買うんだよ。店の親父、一本で十年持つって言ってたけど、陌鋒お前それまで生きてないだろ」
ディシアが袋を見て言う。
「さすがにそこまで持つろうそくはないでしょうけど…今の技術なら十何日は持つのでは?」
ヘルクが顎に手を当てて言う。
「マジっすか…てっきりあの親父、嘘つきだと思ってたんすけど…」
「嘘に決まってるでしょ」
狐芙が小さな声で言う。
「まあいい、帰ろう」
ヘルクが腰に手を当てて言う。
馬車で村へ戻る。
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ディシアたちが狐芙の買った荷物を持つ。
「デ…ディシアさん、陌鋒に持って帰ってもらうから大丈夫です!」
チラッと俺を見て、ディシアに言う。
「いいのか?結構な量だぞ?」
ディシアが狐芙に言う。
狐芙がこっちを見る。
「陌鋒、持って帰ってくれる?」
ゆっくりうなずく。「いいよ」
「じゃあ俺たちは先に帰るわ、狐芙」
ディシアはヘルクを引っ張って帰って行く。ヘルクは眉をひそめて振り返りながら、引っ張られて去っていった。
大きめの袋をいくつか持ち、狐芙の後を歩く。
「なあ狐芙、ここに家あんの?」
「ううん、借りてるだけ」
「へえ…俺、いつか家買えるかな」
うなずく。
「あんた?無理でしょ」
「今はあんまり稼げてないだけで…そのうち…まあ、そのうちなんとかなるっしょ」
首をかしげる。
「ふんふん、そのうちっていつよ?」
彼女がこっちを見る。
「えっと…そのうちな…とにかくそのうちなんとかなるって」
彼女が俺を見る。
「頑張れよ。明日また依頼だな」
「明日も大物依頼、あるといいんすけどね」
「そうね〜」
「なあ狐芙、ついでに聞くけど、貯金ってどれくらいあんの?」
「十枚金貨だよ。しかも、それ以上!」
「そんなに!?嘘じゃね?」
「行商人やっててこれくらい貯まって当然でしょ」
「行商人?ブラック商人の間違いじゃね?」
「何よそれ!」
彼女が振り返って睨む。
「コホン…なんでもないです」
うつむく。
「そういや、夜飯は?」
「適当に食うよ。なに、奢ってくれるの?」
「別にそんなこと言ってないし…」
「奢らないの?けち〜」
「適当に食うくらいなら…」
首をかしげて言う。
「マジ!?やった!」
狐芙が両手を挙げて喜ぶ。そうして二人は狐芙の家の前に着いた。
中に入る。
「ここに置いといて」
袋を玄関に置き、二人で食事へ向かう。
食べ終わり、店の前に立つ。
「あの…陌鋒、家まで送ってくれない?」
「いいよ」
また狐芙の家へ向かう。
「これで二回、奢ってもらうことになったな」
「は?二回って何で?」
彼女が腕を組む。
「だって、奢るって言ったじゃん?」
「俺、言ったっけ?」
彼女がニコニコしながら俺を見る。
「このボッタクリ野郎…」
首をかしげて腕を組みながら言う。
「ふんふん〜」
彼女は顎を上げて返す。
家の前まで送る。
「じゃ、帰るわ」
右手を上げる。
「ちょ…ちょっと待って!」
玄関まで走っていき、ろうそくの袋を持って戻ってくる。
「あ…ろうそく忘れるとこだった」
頭をかきながら袋を受け取る。
「今度こそ帰るわ〜」
「ちょっと待って!これあげるから…」
ポケットから素早く取り出したのは、パカッと開くタイプのライターだ。俺に差し出す。
受け取って、じっくり見る。
「あ〜、絵がついてんすね」
ライターを見ながら言う。彼女は横を向いて顎を上げる。
「これって猫っすか?」
「キツネでしょ!なんで猫に見えるのよ!」
彼女が指を差す。
「ははは、冗談ですって。でもこれ、俺使えないんじゃ?」
頭をかく。
「特別製なんだから!ホイッて回すだけで火が付くの。新商品なんだからね!」
腰に手を当てる。
「へえ〜」
ライターを回して試してみる。
「これ、いくらしたんすか?くれるんすか?」
「いちいち聞かないでよ」
「…分かりました。じゃあ、今度また飯奢りますよ」
「やった!」
狐芙が叫ぶ。
「残りのマッチ、どうすんの?」
俺が狐芙を見る。
「えっと…一緒に燃やしちゃう?」
「マジでかよ!」
顔を見合わせて笑う。右手を上げて、鼻の下をこする。
「じゃあ、帰ります!」
頭をかく。
「また明日ね!」
彼女が手を上げる。
うなずく。「また明日」
---
家に帰る。
ベッドに斜めに寝転び、片足を床に下ろす。手にはライター。
ろうそくを吹き消し、ベッドに横たわる。ライターを枕元に置く。




