4.
7月23日。
いつもと同じように起きる。
通りを歩く。腰に手を当てて歩きながら、空を見上げる。太陽が出たばかりだ。
「よっ、陌鋒じゃん!」
後ろから声がして、振り返る。
「あ…狐芙。今日はいつもよりちょっと早いな」
「は?私だって毎日遅くまで寝てるわけじゃないんだからね!それはそうと、昨日魔力測定行ったんでしょ?結果はどうだったの!?」
彼女はまばたきして、にこにこしながら俺を見る。
「あ…俺、魔力なかったわ」
片手を広げて言う。
彼女は口を少し開けて、眉をひそめて俺を見る。
まばたきする彼女を、俺も見る。
「嘘じゃないって。本当だよ」
首をかしげて言う。
彼女はうなずく。「分かってる…でも…私が直接姉貴に聞く!ギルドに遅く着いた方がバカね!」
彼女は叫んで走り出した。
「は?ずるいだろ!」
バタン!と大きな音を立ててドアが開く。
「私の勝ち!」一緒に叫ぶ。
「あんたの方が遅かったじゃん」
狐芙が腰に手を当てて言う。
「え?!お前の方がちょっと遅かっただろ!」
首をかしげて言うと、遠くのディシアが額に手を当てる。
「あ…また何やってんだ?」
「おい!ドア壊したら弁償だぞ!」
ギルドの店員が叫ぶ。
「すみません!」一緒に言う。
「あ〜、今日は早いな」
ディシアが額に手を当てたまま言う。
「ディシアさん!陌鋒、昨日魔力測定行ったんですよね!」
狐芙がディシアを見る。
「あ…そうだな」
「で、結果はどうだったんですか!」
「陌鋒?お前、狐芙に言ってないのか?」
「言いましたよ、でも全然信じてくれなくて」
手を広げて言う。
「狐芙、ちょっと落ち着いて聞け」
ディシアが片手を広げて狐芙に向ける。
狐芙は眉をひそめてディシアを見て、ちらっと俺をチラ見する。
「あ…何て言うか、鑑定の結果としては、陌鋒には魔力がなかったんだ」
狐芙は口を開けて、まばたきしながらディシアを見る。
「じゃ…じゃあ…ヘルクさんは?」
「分からん。俺も見たことないな」
ヘルクが肩をすくめて首をかしげる。
「そんな!ディシアさんがわざと陌鋒を騙してるのかと思ったのに!サプライズかと思ったのに!」
狐芙が手を振りながら体をよじる。
「なんでそうなるんだよ」
首をかしげて言うと、ディシアも額に手を当てて笑い出す。
しばらくして、大進と平野も到着する。
狐芙が椅子に座って言う。
「ふんふん…陌鋒ってほんとバカね」
「は?!魔力あるかないかは俺のせいじゃないだろ」
首をかしげる。
「ふんふん…もし『狐芙様』って呼んでくれたら、ちょっとくらい守ってあげてもいいわよ?」
まばたきして彼女を見る。「普段外じゃ俺が守ってるだろ?」
狐芙は口を少し開けて、まばたきしながら俺を見る。
「誰があんたに守ってほしいって言ったのよ!自分は魔力すらないくせに!バカ!誰があんたに守ってもらうって言ったのよ!」
「だからって…」
首をかしげて言う。
言い合っていると、ディシアたちが近づいてくる。
「よっ、何話してたんだ?」
「あ…姉貴、依頼もう決まったんですか?さっき狐芙が『狐芙様』って呼べば守ってやるって」
手を広げて言う。
「はは!で、呼んだのか?」
「呼ぶわけないっしょ…今までだって俺が守ってきたのに…」
首をかしげる。
「誰が守ってほしいって言ったのよ!バカ!」
狐芙が机に突っ伏して叫ぶ。
俺は彼女を見る。「だからって…そんな言い方しなくても…」
「だから陌鋒、頑張らないとな。狐芙をちゃんと守れるように」
ディシアが肩をポンと叩く。
「ディシアさんまで〜!」
狐芙が言う。
俺はディシアを見てうなずく。
「今日はこれといって良い依頼がなくてな。採取依頼だけだ」
こうして、俺たちは村の西の森へ向かう。「斐茲の森」って呼ばれてるところだ。
森に着いて、二人一組で探す。俺と狐芙、ディシアとヘルク、大進と平野。
採取数に制限はないから、どんな草でも取れる。
俺は手いっぱいの色んな草を抱えて、一本一本見比べる。
「あ…めんどくせ…狐芙、どれくらい取れた?」
「えっと…刺草が13株、蒲公英が4株、穗草が9株」
「マジで多いな。4株で1銅貨だとしたら、もう7銅貨分くらいじゃん」
「ここの草、ほとんど採り尽くされそうだな。俺は全部で9株しかないわ」
手の中の草を見ながら言う。
「あんたがバカなだけでしょ。ちゃんと全部の草を覚えないとダメなんだから」
「種類多すぎんだよ。ちょっと休もうぜ、狐芙」
立ち上がって、草を種類ごとに分けて束ねる。
「私のもお願いね〜」
狐芙が言って、バッグから水筒を取り出し、木に寄りかかって座る。
「おう」
狐芙の草も束ねてから、隣に座る。狐芙がもう一本の水筒を差し出して、受け取って大きく一口。
内ポケットから干し肉を三本取り出す。
「ジャジャーン!食うか?」
「お〜!よく干し肉なんて買ったわね」
「稼いだから、たまには贅沢しようと思って」
二本を狐芙に差し出す。
「え?二本も?」
「たくさん買ったし。それに、いつも世話になってるからな」
頭をかきながら言うと、彼女はまばたきして俺を見る。
「コホン…私があんたにしてあげたこと、干し肉二本で返せると思ってるの?」
彼女は別の方を見て言いながら、二本受け取る。そのうち一本を真ん中からねじ切って、半分を俺に差し戻す。
「私の手、汚いって思わないでよ。こんなに草採ってたんだから」
「俺の手の方がもっと汚いわ」
手を差し出して見せる。
「汚すぎ!!!」
彼女が叫び、俺たちは顔を見合わせて笑う。
干し肉をかじりながら、大きな木に寄りかかる。風が二人に吹き抜ける。
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しばらく休んでから、また草を採り続ける。10時ごろ、戻り始める。
2時間ほど歩く。
草の種類と質で選別して、俺は7銅貨もらった。
「午後も草採り続けるのか?」
「最近あんまり金に困ってないし、やめとくわ」
「ほ〜、金持ちになったのね!とりあえずご飯にしましょうよ!ディシアさんたちはまだかかるでしょ?」
「そうだな。俺もちょうど腹減ってたとこだ」
ジャガイモと肉の煮込み、油菜のエビ炒め、オレンジジュース一杯、梨ジュース一杯、ご飯二杯。
「なんでいつもオレンジジュースなの?すごく酸っぱいのに、全然美味しくないじゃん」
彼女は頬杖をついて言う。
「お前がいつも梨ジュース頼むのと同じだろ。酸っぱいけど…俺は別にいいけどな」
しばらくして、料理が運ばれてくる。
「美味そう!一日働いた後は、美味いモノ食べないとね!」
「あ…そうだな。ここ数日ずっとパンだけだったし」
食べながら話す。
あっという間に全部食べ終わる。
「ごちそうさま!今日はありがとね〜、陌鋒!」
「おう」
左手を上げて応える。
「じゃあ、お会計お願いね〜、ふふん」
「は?俺が払うのかよ?」
「男の子が女の子と食事したら、ご馳走するのが当然でしょ!えへへ」
「あ…分かったよ」
「まあまあ、今度は私がご馳走するからね!」
「その時はちゃんと言えよ」
「ふんふん、まずは数日、お腹すかせて待っててね?」
「それは当然だろ。お前が奢るなんて滅多にないから、思い切り食べるからな」
「それはそれは、どうもありがとう」
言い合いながら、会計を済ませて店を出る。
「これからどうするの?」
「帰るよ。お前は?」
「ギルドに行ってみるわ。姉貴たち帰ってるかどうか」
「そっか。じゃあ、また明日ね〜!」
狐芙は後ろ向きに歩きながら手を振る。
「おう」
左手を上げて振り返す。
ギルドに行くが、ディシアの姿はない。
「まだ帰ってないのか?」
見つからないので、帰ることにした。
宿の前に着くと、ディシアがパンを食べながら出てきた。
「姉貴?なんでここに?」
ディシアが振り向く。
「お前を探してたんだ。食ったか?」
そう言って、パンを一切れ千切って差し出す。
頭をかく。「もう食べましたよ。姉貴、俺に何か用ですか?」
ポケットから干し肉を一本取り出してディシアに渡す。
「ほ〜」
干し肉を受け取り、パンを食べながら肉もかじる。
「もう一本」
ポケットから最後の一本を取り出して渡す。
村の外に向かって歩く。大きな木のところまで来る。
ディシアは木に寄りかかり、俺はその隣に立つ。
「俺、教え方あんまり上手くないんだよな。素振りとかより、実戦の中で覚える方がいいと思ってて。お前も初めてじゃないし。とにかく、自分に合った振り方を見つけるのが一番だ。自分が使いやすくて、生き残れるなら何だっていい。とりあえず、ちょっと振ってみろ」
彼女は木に寄りかかったまま言う。
「はい!」
うなずいて、前に二歩出て、剣を振り始める。
「振る時は前に踏み込んでな。歩幅は大きくなくていい、自然に」
しばらくして。
「力みすぎ。振ろうと思って振るな。体に任せて振るんだ。例えば、鞭みたいな感じだ。ポイントは振ることじゃなくて、『投げる』ようにすることだ」
俺はまばたきして彼女を見る。
剣を振り始める。二回も振らないうちに、剣が「ヒュッ」と音を立てて吹っ飛んだ。
飛んでいく剣を、俺とディシアは見つめる。我に返ったディシアが、飛んで行った剣を指さして笑う。
「はははは!何やってんだよ!」
すぐに走って行って剣を拾い、戻る。
「何がおかしいんすか!剣が飛んだくらいで!」
ディシアに言う。
「はははは…違う…そうじゃなくて…あ…ははは」
彼女は木を叩きながら笑い続ける。
しばらくして、木に寄りかかって座る。
「でも、速く『投げよう』とすると、手に力入らなくなるんすけど」
「正直言って、俺、教える才能ないんだよな…『投げる』ってのは、腕で剣を振り回すんじゃなくて、腕の動きに剣を乗せる感じだ。そのうち分かるさ。でも、基礎をじっくりやってる時間はない。さっきも言った通り、俺は実戦で覚える方がいいと思う。だから、『龍流水斬』以外に教えられることはあんまりない」
「もう直接それ行くんすか…?」
振り向いてディシアに言う。
「自分を信じろ、陌鋒。さっきも言った通り、そのうちできるようになるさ」
「自分を信じる信じないの問題じゃないですけど…とにかく頑張ります!」
「よし、決まりだな!また時間がある時に『龍流水斬』を教えてやる」
ディシアが立ち上がり、肩を回して、村の方へ歩き出す。すぐに立ち上がって後を追う。
宿に戻り、いつも通り風呂に入り、ベッドに横たわる。天井を見つめる。
「あああああ〜」
欠伸をして、目を閉じる。




