16.プレゼント
8月23日
いつも通りに起きて顔を洗い、外に出る。太陽が顔を出したばかりだ。狐芙の家に向かって歩き出す。欠伸を一つ。朝早い大通りには、冒険者以外ほとんど人がいない。
前へ進んでいると、遠くから誰かが手を振っているのが見えた。近づいて、ようやくその顔がはっきり見えた。
片手を上げて手を振り返す。近づいてから、先に言う。
「今日は早く起きたんだな」
「昨日の夜になって気づいたんだけど、私たち、全然姉貴にプレゼントを準備してなかったね!」
「そうだよな~でも何を送ればいいか全然分からないよな?」 手を広げて頭をかく。
「あ~姉貴も『送らなくていい』なんて言うし…あ~~~」 狐芙が頭をかきながら言う。
頭をかく。「俺はこういうの考えるの本当に苦手なんだ。ご飯は食べた? 食べながら考えよう」
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食堂のテーブルに座る。
「大きな虫を二匹捕まえて姉貴に送るとか…」
「何考えてるの…誰も誕生日に虫なんか送らないでしょ。それに、姉貴だって虫は嫌いだと思うよ」 狐芙が真面目な顔で言う。
「冗談だよ。でもそう言うけど、何を送ればいいんだろうな…」 椅子にもたれかかる。
「あ…そういえば狐芙には好きなものとかあるのか?」 ふと思いついて言う。
「え? あの…うーん…あんたからのものなら、何でもいいけどね」 右を見てすぐに戻し、少しうつむいて耳をふるふると揺らす。
「ああ、ただお前の好きなものを参考にして、姉貴が好きそうなものは何かないかなと思って」
「え?」 勢いよく顔を上げて、口を少し開けてこちらを見る。「コホン! わ、私ただディシアさんの口調で言ってみただけだし! あ…あんまり深く考えないでよ! コホン! うーん…わ、私もすぐに答えろって言われても出てこないし! 考…考えさせてよ!」
頭をかく。肉粥がテーブルに運ばれてくる。食べながら狐芙が続ける。
「うーん…私、好きなものとかあんまりないんだよね…よく考えると、買うものも生活と冒険の必需品ばかりだし。好きか嫌いかって問題、考えたことなかった。ただ実用的かどうかだけ」 少しうつむいて茶碗を見つめ、手にしたスプーンで粥をかき混ぜ、それから顔を上げてこちらを見る。
「あ…そうなんだ」 狐芙を見る。「俺もお前にプレゼントを送ろうと思ったことはあるんだけどな…」
「え!」 勢いよく顔を上げて、ゆっくりとうつむく。
「送らなくていいよ…私も欲しいものなんてないし…それにあんたは今、お金を貯めるときでしょ…あ…うん…うん……ち、違うの…本当に要らないってわけじゃなくて…あんたは…そんなこと考えたこともないのかと思ってた…」 声がだんだん小さくなる。
こちらを見てまばたきし、顔をかく。「正直に言うと、直接買って送ろうと思ってたんだ。でも何を送ればいいかずっと分からなくて、それでずいぶん経っちゃったから…やっぱり一度伝えておいたほうがいいかなと思って…」 急いで粥を大きく一口飲み、右手で下半分の顔を覆いながら揉む。
「ば…ば…ば、バカ! 誰があんたがプレゼントくれるとか考えたことあるって言ったのよ! あ…あんたは…夢でも見てなさいよ!」
ちらりと彼女を見て、視線をそらす。
長い沈黙の後、茶碗の粥もほとんどなくなった。
先に口を開く。「狐芙はどうやって姉貴と出会ったんだ?」
彼女はしばらくこちらを見て、それから視線を下ろし、目を閉じて、また開ける。
「私、小さいうちに家を出たんだ」 それから口を開けたり閉じたりして、何も言わず、しばらくしてまた口を開ける。「しばらく一人で過ごした。たぶん3年くらい? それで物を売っているときにディシアに出会った。私、行商だからね…当時は大儲けしようと思ってたんだけど、それでディシアさんに助けられたんだ。その後、彼女のパーティーに入って、ここに来た」
こちらを見てまばたきし、頭をかく。
「まあ…慰めなくていいよ。過去のことは、もう過去のこと。私たちがやるべきことは前を向いて、ちゃんと生きていくことだから」
また頭をかく。「俺、慰めるの本当に苦手なんだ、狐芙…」
「あんたがそばにいてくれるだけで、私は嬉しいよ。だ…だって友達だからね! たった一人の友達だからね! だから…これからもよろしくね。迷惑だと思わないでほしいな…」 うつむいて声がどんどん小さくなる。
こちらを見て頭をかき、口を開く。「お前が俺のこと嫌がらないなら、それで十分嬉しいよ。俺、バカだからな」 顔をそらす。
彼女は何も答えず、腕で口を拭いてから「コホン!」と咳払いを一つ。それからゆっくりと顔を上げ、耳をピクピク動かし、こちらを見て続ける。
「照…照れた」 視線が途切れ途切れにこちらに落ちる。
顔を横に向け、手で口の下半分を隠し、目をそらす。「だ、誰が照れたりするもんか! 俺は…小さい頃から一度も照れたことない!」
「あんた照れてるんでしょ」 彼女は続けて言う。俺は視線を彼女に移し、また窓の外へと向ける。陽の光が窓から差し込んで、体に当たる。
「だ、だから! 今は姉貴の誕生日プレゼントの話をしてるんじゃないか!」 机に手をついて、身を乗り出す。
彼女は両手で頬を支えて机に肘をつき、体を前に倒してこちらを見る。とても近い。そのまま数秒間の間…彼女は弾かれるように後ろに避け、俺も素早く背筋を伸ばして椅子にもたれかかる。視線を窓の外に移し、また彼女を見る。彼女は口を開け、目をぱちぱちさせながら視線を素早く動かし、あっちを見たり、こっちを見たり、またこちらに戻したり。それからゆっくりと顔を横に向け、手で口の下半分を覆い、震えながら口を開く。「う…うん…わ、私たち…プレゼントの話に戻ろう…」
ちらりと彼女を見て、何も言わずに茶碗を手に取り残りの粥を全部飲み干す。しばらくして、狐芙が立ち上がって食事代を払う。店を出ると、陽の光が再び二人の体を照らす。
「コホン! で、姉貴に何を送るかもう決まったの?」 彼女が言う。
「実は…さっきまで何も考えてなかった…」
「あんたバカなの? でも…今回は私も何も思いつかなかったから…私もたぶんバカだから……全部あんたのせいだよ!」
ちらりと彼女を見ると、彼女は手で顔を扇いでいる。
「今日…結構暑いね…」
「そ…そうだな…」
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しばらくして、村外れの大きな木のところに着く。木に寄りかかって座り、一緒に姉貴に何を送るか考える。
「あ…」 長く息を吐く。そばの花を摘んで手に取る。
「もしプレゼントを買うなら、町まで行かないといけないけど、姉貴が何好きかも分からないし」
「うん、そういうの考えるの苦手なんだ」 花を摘んで深く息を吸う。何の匂いもしない。
狐芙がこちらを見て、視線を花と俺の顔の間を行き来させる。
「あああああ! あんた天才なの?!」 狐芙が立ち上がって肩をつかんで揺さぶる。
「うわうわうわ、どうした?」 激しく揺られながら言う。
狐芙が立ち上がって両手を掲げる。「花束を姉貴にプレゼントすればいいんだよ!」
狐芙がぴょんぴょん跳ねているのを見て、手の中の花を見る。
「うーん…適当に花を何本か摘んで束ねるだけ? 適当すぎないか? うーん…姉貴も喜んでくれるかもしれないけど…」
「違うの! 町の店で売ってるような花束でしょ! 大きな花束、一束たぶん50銅貨くらいするやつ!」
彼女のジェスチャーを見る。「あ…じゃあ町まで買いに行くのか?」
「違うよ! 自分できれいな花を摘みに行こうよ!」
「いいよ。じゃあどこに摘みに行く?」
「うーん…そうだ、こないだあんたが行った洞窟のところはどう? あの辺に花があった気がする~」
「こないだ行ったところ? あの見えない魔物のいたとこ?」
「そうそう!」 勢いよくうなずく。
「行こう!」 その場で飛び跳ねて、前にあの平原の方角を指さす。
「遅い方がバカね!」 そう言って走り出す。
「おい! 狐芙! 剣持ってきてない! 一旦戻って取るよ!」 叫びながら追いかける。
「大丈夫だよ」 速度を緩めて、腰に差していた小刀を差し出す。
刀を受け取ると、彼女はまた走り出す。「小さすぎるだろ! 小刀で戦ったことないよ!」
「大丈夫だって!」 前を走りながら続ける。
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しばらく走って、ようやく足を止める。まだ平原には着いていない。
息を切らす。
「危なすぎるよ、狐芙。クローウルフとかが出たら小刀じゃ絶対勝てない。ましてや――」 言い終わらないうちに狐芙に遮られる。
「もう~ 今は村から近いし、それにあんたを信じてるよ」
「俺は自分を信じてないのに、お前は俺を信じてるのか…」
「人を信じるのに理由なんていらないよ~ もう、この話は終わり」 こちらを見ずに前を向く。
頭をかく。「お前がずっと小刀を携帯してたなんて気づかなかった」
「あ…前は服の下に隠してたんだ。女の子だからね、持ってたほうが安全かなって」
うなずく。「ああ、外では何が起こるか分からないからな」 手の中の小刀を見る。
彼女がこちらを見て続ける。「ズボンに差しておけばいいよ。それに見つかりにくいし」
言われてうなずき、ズボンの左側に刀を差し、ウエストで固定する。
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またしばらく歩く。森を抜ける。左側は前の洞窟、右側に行く。二人で前に進む。
「どんな花を摘めばいい?」
「うーん…あんたがきれいだと思うのを摘んできて。あ、そうだ、エノコログサも少し摘んで~」
うなずく。
「あっちを見てくるから、摘み終わったら戻って集合しよう~」 狐芙が前方を指さす。
「わかった…刀を返すよ」 腰から狐芙の小刀を抜いて差し出す。
「大丈夫だよ~ 危なくなったら呼ぶから。それにこの辺はよく知ってるし」
うなずく。「それでも気をつけろよ」
「安心して~」 狐芙はぴょんぴょん跳ねながら走っていく。
狐芙の去っていく背中を見て頭をかく。結構速いんだな…
あっちを見たりこっちを見たり、時々狐芙が去っていった方向を振り返る。時間はあっという間に過ぎる。どれくらい経ったか分からない。
元の場所に戻って狐芙が去っていった方向を見る。摘んできたアサガオ、エノコログサ、タンポポを木の陰のところに置く。
しばらくしても狐芙が戻ってこない。
狐芙が去っていった方向へ歩き出す。しばらく歩いて、林に沿って進む。
その場に立ち止まって目の前の林を見る。焦って顔をかく。
数歩進んで、左右を見る。左側に数本の茂みがあって、間から黄金色が覗いている。近づいて見ると、黄色い花だ~ 真ん中から糸のようなものが外に向かって咲いている。
何本か摘んで帰ったら狐芙もきれいだと言うだろうな~ と思っていると、目の前に突然頭が飛び出してきた。
「うわっ!」 驚いて半歩後ろに避ける。
「うわっ!」 その頭も勢いよく後ろに飛び退き、手に持っていたものをばらまく。
「狐芙?」
「陌鋒!」
彼女を見ると、服に土がついている。
「どうしたんだ、それ」 彼女の体を指さす。
彼女は自分の体を見て、服をぱんぱんと叩き、顔を拭く。「あ…木の根に躓いた…で、あんたはどうしてここに?」
「なかなか戻ってこないから、迎えに来たんだ」
「へへ、心配した?」 笑って言う。「もう猛ダッシュで戻ってるところだったんだけどね。これを見つけちゃって」 花を拾いながら言う。
「大丈夫か?」 一緒に花を拾う。
「へへ…安心して~ 転んだだけだから」
落ちた花を拾い終えて、摘んできた花を尋ねる。「これ何ていう花? 結構きれいだな」
首を振る「分かんない。後でヘルクさんに聞いてみよう。花が…えっと…しなしなにならない魔法もお願いしないとね」
元の場所に戻って自分の摘んだ花を取りに行く。帰り道、彼女に尋ねる。「で、どこまで行ってたんだ? 結構速かったな」
「そりゃそうでしょ~ カルパー湖の近くまで行ったの。前にあっちにきれいな花が咲いてるのを見つけてたから、探しに行ったんだ」
「そんな遠くまで? なんで先に言わないんだ」
「あんたを心配させたくなかっただけだよ~ それにこの辺はよく知ってるし、大丈夫。でも結局心配かけちゃったけどね~ へへ…」
「心配したなんて一言も言ってないぞ…」 鼻をこする。
「へへ、照れた?」
顔をそらして答えない。
ちらりと彼女を見ると、彼女は笑顔でこちらを見ている。
「ふんふん…姉貴がプレゼントを受け取った時、絶対びっくりするよ~ もう完璧なデザインが浮かんでるんだ!」
「本当か?」
「本当だよ~ でもあんたの協力が必要だけどね」
うなずく。「うん」
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すぐに村に戻り、ヘルクの家へ向かう。姉貴の家を通り過ぎて、さらに数軒先。
ヘルクの家のドアをノックする。ヘルクの家は姉貴の屋敷のような豪邸ではなく、狐芙の家より少し広い平屋だ。
ほどなくして、ヘルクがドアを開ける。
「うん? どうしたんだ、二人とも?」
「姉貴にプレゼントを準備してるんだ!」 狐芙が手に持った花を掲げる。
「花? 手作りするのか? 入ってきなさい」 ヘルクについて中に入る。
「花束を作って姉貴にあげたいんだ。それで、花を枯らさない魔法とか知りませんか?」 狐芙が続ける。
リビングはとても簡素で、中央にソファとテーブル、左側の壁に大きな展示ケースがあるが、何も置いていない。
「花はテーブルの上に置いてくれ。保鲜魔法をかけるよ」
言われて狐芙が花をテーブルの上に置く。花の隣に何冊か本がある。
「摘みたてか?」
狐芙が興奮してうなずく。
ヘルクが花に魔法をかける。
「ヘルクさん、家で読書してたんですか?」 狐芙が本を見て言う。
「『勇者討伐記』…モールスという勇者が仲間と一緒に魔王を討伐する話だ。なかなか面白い」
「ヘルクさんもそういうの好きなんですか?」 言う。
「そうそう」 狐芙もうなずく。
「俺も普通の人間だ。子供の頃は、勇者のような物語に憧れたりもしたよ」 ヘルクがほのかに笑いながら物語本に視線を向ける。
「ふぅ~」 ヘルクが目を閉じて深く息を吐き、続ける。「雑草や枯れた葉を取り除くのを手伝おうか?」
「いいんですか?」 狐芙が尋ねる。
「もちろん。昔、友達がいてな、彼女はよく野花を摘みに行って花束にして町で売っていた。時々俺も、花の余計な葉っぱを取り除くのを手伝ったものだ 」
「あ~ヘルクさんにもそんな経験が? その友達はこの村の人ですか?」
ヘルクは首を振る。「違う。その村はここから遠い。だが、俺の故郷の近くだ」
「へえ~」
「ヘルクさんの故郷…」
「正確に言うと、俺は歩いたところが故郷なんだ。奴隷出身だから」
「奴隷出身?」 二人同時に驚いた。
ヘルクが顔を上げて二人を見て笑う。「奴隷出身だ。でも見世物にされるようなやつじゃない。鉱山で生まれて、物心ついた時にはもう鉱石を掘っていた」
「わあ…ヘルクさんは貴族の御曹司とかかと思ってました」
「なぜそう思う?」
俺も困ったように狐芙を見る。
「だってヘルクさんは魔法が使えるじゃないですか…しかも魔法陣なしで!」
「俺は特別なんだ。魔法の才能には恵まれていた。鉱山を出た後、しばらく独学して、すぐにあるパーティーに加入した。私たちは大きな目標を持っていた。そしてすぐに限界を突破した」
「突破?」 二人で同時に聞く。
「詳しくは俺もよく分からない。聞いた話では、人が限界に達した後、心の中の願いが魂を超えた後、突破する。そして強くなり、特別な能力を得る。例えば魔力が一、二倍に増えたりする。俺の能力は、魔法陣がなくても魔法を放てること、それに多発魔法だ。複数の魔法陣を同時に作り出して魔法を放つ。他の突破者にはあまり会ったことがないから、詳しいことは分からない」
「へえ、聞いたことない」 二人で同時に言いながら、花の雑葉も取り除き終えた。
「聞いたことがなくても当然だ。こういう話は数十年前なら火刑にされていたかもしれない」」
「え? 本当ですか?」 二人で驚く。
ヘルクが笑って言う。「嘘だよ。昔はそんな言い方もなかっただけだ。最初は神官たちが『神の祝福』だと言い出したが、結局誰も信じなくなり、次第に話題にもならなくなった。大多数の人はまだ努力と運の結果だと思っている」
「ああ…本当に焼かれるのかと思いました」 言う。
「じゃあ、陌鋒も突破したりするの?」
「突破したら魔法が使えるようになるのか?」
「学ぶべきことはまだたくさんある。俺がまだ鉱山で穴を掘っていた頃は、このまま一生が終わると思っていた。誰にも後先は分からない。世界は広い。陌鋒、たとえ突破できなくても、自分がやりたいことをやればいい。いつか必ずそうなる。ただ、俺はお前が突破することを信じている。期待を裏切らないでくれ」
「おお!」 興奮してうなずく。
「たとえ突破できなくても、お前はもう俺の誇りだ、陌鋒」 ヘルクが立ち上がって肩を叩く。
「頑張ります」 再び興奮してうなずく。
「もちろん、狐芙も私の誇りだ。君はこれを嫌がるかもしれないが、君も大きく成長した」
狐芙は首を振り、両手を挙げる。「私も頑張る! ヘルク先生をもっと誇りに思ってもらえるように!」
ヘルクは微笑んで私たちを見る。「無理はしなくていいぞ」
「おお!」 二人同時に返事をする。
「よし! ヘルクさん、じゃあ私たちは先にプレゼントの準備に戻ります」 狐芙が言う。
「待って! ヘルクさん、この花の名前をご存じですか?」
「エノコログサ、キキョウ、アサガオ、タンポポ、キンシバイ、トロロアオイ」 ヘルクがうなずく。「ああ…ちょっと待ってて」
ヘルクが左の部屋へ向かう。その場で立ち尽くし、狐芙と顔を見合わせる。しばらくしてヘルクが戻ってくる。
紫色の布と一本の紐を取り出して、俺に渡す。「これで花を包みなさい」 うなずいて受け取る。
二人で玄関に向かう。
「君たちによく似ている」 ヘルクがふと口を開ける。
立ち止まって振り返る。
「花が君たちによく似ている」 続ける。
「俺たちがきれいだってこと?」 言う。
「ふんふん~ 私がきれいだってことね~」 狐芙がこちらを見て言う。俺も見下ろす。
頭をかく。確かに反論できないところがある…
ヘルクが笑う。「よし、早く行きなさい。来年君たちが何をくれるのか、今から楽しみだ」
「教えないよ~!」 狐芙が空いている手で俺を引っ張って部屋を出る。振り返ってヘルクに手を振る。
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狐芙の家に着く。彼女の部屋に入る。部屋はとても清潔で整っている。広くはない。ベッド一つ、クローゼット一つ、机と椅子一つ。
机の前に歩み寄る。彼女が花を机の上に置く。
「作り方分かるのか?」 布も机の上に置く。
「分かんない」
「え?」
「お花屋さんのガラス越しに見たことはあるけど。でもこういうのは見ればすぐにできるよ~ ふんふん~ もう計画はできてるんだから!」
頭をかく。彼女は布を自分の前に置き、アサガオをエノコログサに巻き付ける。俺も手伝う。
「ふんふん~ なかなかクリエイティブでしょ」 腰に手を当てて、アサガオを巻いたエノコログサが並んだ机を見る。
「確かにきれいだな…で、次は?」
「ふんふん~ 狐芙師匠が指導してあげる!」
「あ…じゃあ狐芙師匠、頼みます~」 彼女は一瞬固まってこちらを見て、それから
「ふんふん! もちろんよ!」 少し顎を上げて鼻をこすり、かっこつけて言う。
「まずはこう~」 エノコログサを底に置く。
「これは後で挿そう…」
うなずく。
「うーん…これはここに置こう! この二つ並べるときれい」
「じゃあこれはこっち?」
「うんうん!」
「で…最後の一歩は…どうやるんだ?」
「私がやる! へいへい~ ちょっと持ってて。ヘルクさんが紐をくれたからちょうどいい!」
「うーん…なんだか緩くないか?」 首をかしげる。
「うーん…お花屋さんで見たのと違うな?」 彼女も首をかしげる。
「うーん…締め付けが足りないんじゃないか? もっと固く縛ってみるか?」
うなずく。
「紐をもう一本取ってくる! 何本も縛れば締まるよ!」 狐芙が部屋を出る。しばらくして戻ってくる。
もう数本紐を縛った。
「ふんふん~ 今度は緩くないね」
「なんでここが垂れてるんだ?」
「おかしいな? しっかり縛ったのに?」
「棒かなにかで支えてみるか?」
「ずっと支えていられないでしょ~」 困って頭をかく。
「じゃあここを切っちゃうか?」
「切ったらきれいじゃなくなっちゃうよ… 私たち、作り方間違えてるのかな? こんなに時間かけたのに」 花束を見る。
「うーん…贈る時に俺が手でちょっと支えておくか?」
顔を上げてこちらを見て、できた花束を見て、勢いよくうなずく!
「そ…それしかないか。姉貴にバレないといいけど…」
頭をかく。「でも、これ、本当にきれいだな」
「ふんふん、もちろんよ~ これは狐芙師匠が考えたプレゼントなんだからね! 世界に一つだけなんだから!」
彼女を見て笑い、顔をかいてそらす。
「今何時かも分からないな… あんた…コホン…狐芙師匠はお腹空いたか?」 笑いながら言う。
彼女は一瞬驚いて、両手を挙げる。「うおお! お腹空いてなくても食べる!」
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狐芙の家を出る。時間は思っていたよりも過ぎていた。夕飯を食べて、彼女を家まで送る。小刀を返す。
「あんた、小刀持ってないでしょ… だからあげる」
「え?」 頭をかく。
「私、行商だから。小刀はたくさん持ってるんだ。だから大丈夫。それにあんたにあげることで、自分で買わなくて済むし… それに…私もあんたが何をくれるか楽しみにしてるから」 最後の言葉を言う時、彼女は顔をそらし、うつむきながら両手を握り合わせる。
「俺はプレゼント選びが得意じゃないんだけどな… でも、精一杯いいものを選ぶから、あんまり期待しないでくれよ…」 同じく顔をそらす。
「うん…! また明日ね…」 大きくうなずき、ふわふわとした足取りで素早く部屋の中へ走り込んだ
その場に立ち尽くし、手で顎を揉みながらゆっくりと家に戻る。




