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バイトの時間なのでお先に失礼します! ~普通科と特進科の相互理解~  作者: スズキアカネ
勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。

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第42話 面接には写真付きの履歴書をご持参の上お越しください。


「めーがねっ」


 学校に登校してまず、私は特進A組の教室を覗き込んだ。

 ヒョコーッと顔を出した私に驚いた廊下側の席に座っていた生徒が、「酒谷ー、呼んでるよー」と眼鏡を呼んでくれた。眼鏡で伝わるんだから周りの人も眼鏡を眼鏡と認識している模様である。

 呼ばれて反応した眼鏡は後ろの席に座っているクラスメイトとなにか話していたのを中断して席を立った。


「なになに、森宮さんが俺を呼ぶって珍しいね」


 なになにーと興味津々に声をかけてきた眼鏡に私はずいっとパンを差し出した。


「はいお詫びパン。眼鏡の眼鏡への慰謝料だよ」

「眼鏡の眼鏡って…パンはもらうけど。ちょうど小腹空いてたんだ」


 ハンバーグパンとチョココロネだよ。心して食べるといい。

 体育祭で眼鏡を奪って眼鏡を乱暴したのでその反省としてパンを慰謝料として持ってきたのだ。


「今日もバイトしてきたの?」

「パン屋で5時から8時まで働いたよ」


 バイト先のパン屋は駅前にあるので朝は地味に忙しいのだ。たった3時間の勤務時間とはいえ、それ以上に疲れる。


「森宮さんも頑張るよね」


 肩をすくめた眼鏡がパン屋の袋の中を覗き込んで感心していた。なに、慣れたら大したことないさ。私は好きで働いているからね。

 慰謝パンを渡せばもう用はない。さっさと自分の教室に戻ろうとしたら、ぬっと私と眼鏡の間に腕が入り込んできた。その手は眼鏡の持つパンの袋に伸びて、力任せに奪い去る。

 私と眼鏡はそれをぽかんと眺めるだけだった。パンの袋を強奪した人物は中からハンバークパンの入ったポリ袋を手に取ると、ためらいもなくその中身に歯を立てた。


「はぁあ!? ちょっと夏生! それ俺の! 俺がもらったやつ!」


 不機嫌そうに顔を顰めた悠木君はもぐもぐとパンを食べながら眼鏡を睨みつけている。


「お腹空いていたのかな?」


 それ、眼鏡にあげたやつなのに自分の分だと勘違いしたのかな? 悠木君てば仕方ないなぁ。私は微笑ましく彼を眺めていた。


「チョココロネは駄目! やめなさい!」


 2人でパン屋の袋を奪い合いしているようだったので、私は楽しそうな彼らの邪魔をせぬよう、放置してその場を去った。

 高校生なのに小学生みたいだな、今日の悠木君は。


 季節は流れて早いことで7月になった。7月には大きなイベントがある。そう、期末試験である。

 私は成績を落とすわけにはいかない。空いている時間は勉強せねば。


 学校中でも試験モードに切り替わり、あちこちでピリつくようになった。特進クラスはそれが顕著なのに悠木君たちは普段どおりだ。悠木君が焦って精一杯になるときってあるんだろうか…

 


■□■

 


 期末試験順位表には普通科クラス安定の第1位を飾った私の名前。

 私はそれを見てホッとする。成績が下がったまま夏休み送るのは気分的な問題でスッキリしないので、維持できてよかった。


「森宮さん」

「…教頭先生」


 体育祭の一件で学年主任からは声をかけられなくなったけど、教頭先生はその限りではない。


「先日の三者面談の話を聞いたよ。親御さんも君の進む道を応援する方針のようだね」

「そうですね」


 なんだ、何が出てくる。今度は教頭先生を交えた面談をしようとかいい出すんじゃないだろうな…


「ここで提案なんだが、夏休みに学校で行われる夏期講習には特別に特進科のクラスで受けてみないか?」

「……え?」

「実際に特進科の生徒と一緒に講習を受けてみるとなにか変わるかもしれない。ものの試しにどうだ?」


 教頭先生の提案に私はしょっぱい顔をして首を横に振った。


「せっかくですが、夏休みはもうすでにバイトの予定を入れておりまして」

「またバイトか…森宮さん、わかっているのかな。学校で勉強するのは学生時代にしか出来ないことなんだって。働くのは大人になってからもできるんだぞ」


 わかってるわかってる。これまで色んな人に口酸っぱく言われたから理解してますよ。

 はぁ、あの体育祭以降、勝負に負けた富永先生が物言いたげな目でこちらを見ながらも何も言ってこないので快適であったが、教頭先生がいたんだった。


「それでも私はバイトします!」

「…森宮さん」


 胸を張って宣言すると、教頭先生は残念そうに肩を落としていた。


「それでは! バイトの時間なのでお先に失礼いたします!」


 私は45度のお辞儀をしてみせると、その場から逃走した。

 『わからんやつだな』って感じの反応をされたが、私も同じ気持ちだよ教頭先生。いい加減しつこいぞ。もう2年なんだから、今更特進科に入ってもついていけるわけがないでしょうが。

 説教から逃げるように階段を駆け下りる。成績維持してるのに説教されるなんぞ真っ平御免である。



「夏生先輩、夏休み一緒に海行きませんかぁ?」


 階段降りてすぐの昇降口付近で悠木君が1年の雨宮さんに捕まって夏休みのお誘いを受けていた。腕に絡みついてきた美少女に甘えた声でお誘いされている悠木君を見た、通りすがりの男子たちが羨ましそうにしていた。


「行かねぇよ。むしろお前は塾に行ったほうがいいんじゃねぇの? 留年するぞ」


 ──しかし悠木君は彼女に掴まれた腕をやんわりと解くと淡々とお断りしているではないか。


「じゃあ勉強教えて下さいよぉ。私、先輩のうちに行きたいな」

「やだよ。なんでお前を家に招待しなきゃなんねぇの。そもそも俺になんの得があるの」


 拒絶する時はとことん冷たいのが悠木君という男だ。彼の場合段階を踏んで冷たさを切り替えているようで、あまりにもしつこく言い寄ってくる女子には無慈悲に拒絶する。

 ただし、それで怯む雨宮さんではない。別の提案を出して夏休みのお約束を取り付けようとしているが……悠木君は頷かない。 


「私と2人きりになれるじゃないですか」

「それのどこが得なの?」


 悠木君が真顔で発した言葉は彼女のプライドをずたずたにしたみたいだ。

 雨宮さんは顔を真っ赤にして、「最低! なにそれ!」と喚いていた。雨宮さんの喚き声は昇降口に反響してみんなの視線を独り占めにしている。


 あれだけの美少女だ。今まで男子にそんな突き放す言葉を言われた経験が無かったのだろう。かわいそうでもあるが、悠木君も女子にはさんざん煮え湯を飲まされてきたからな…彼だけを責められまい。

 お姉さんのさや香さんも言ってたけど、女嫌いの気があるっぽいし、悠木君としては女子の積極的なお誘いを迷惑に感じているのかもしれない。



■□■



「森宮は夏休みってなにしてんの?」


 朝のコンビニバイトで食パンを買いに来た悠木君がレジ応対する私に問いかけてきた。 夏休み? 私の?


「えぇと、学校の夏期講習の他にはバイトするかな…夏期講習の日程はいつもと同じバイト先をはしごして、それ以外の日程がかぶらない日は、ほら、去年働いていた海の家でたこ焼き焼いたり…」


 海の家のオーナーから今年も働かない? って声をかけられて迷っていたけど、そこそこ時給もいいし来年は受験で行けないから折角なのでバイトに入ることにしたんだ。オーナーは海近くに民宿も経営してて、そこに無料&賄い付きで住み込みしていいって言ってくれてるんだ。

 夏期講習がかぶらない日程で去年働いた海の家で住み込みで働くのだ、と返事をすると、悠木君は神妙な顔つきで言った。


「俺も働きたい」

「え、でも暑いし、地味にきついよ?」

「大丈夫」


 ど、どうしたんだ悠木君。私が働いている姿を見て憧れちゃったのか。でもバイトとは言え、お仕事だから楽しいってわけじゃないんだよ、私はお金のために働いているのであって……

 説得してみたが、悠木君の意志は固かった。お金持ちの家の子なのに…社会勉強とかそんな感じであろうか。


「人手いるか店長に聞いてみるけど…」


 人手がいると言われても面接の段階で断られる可能性もあるよ。と説明すると悠木君は頷いていた。

 …いいのかな。海の家って人が多いし、悠木君の苦手な逆ナンも多いと思うんだけど……いいのかな。


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