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バイトの時間なのでお先に失礼します! ~普通科と特進科の相互理解~  作者: スズキアカネ
勘違いを続ける彼女と彼女が気になる彼。

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第33話 火事です、火事です。社会科準備室で火災が起きております。


「あのぉ森宮先輩ですかぁ?」


 呼びかけてきたのは知らない1年の女子生徒だった。下駄箱で靴を履き替えていると、いきなり顔を覗き込まれた。その子はやけに顔が整っていて、まつげバシバシの大きな瞳を直視するのがこわい。目が大きな人って妙な圧があって怖く感じるんだよね。


「ふーん、ふつう!」


 人のことを呼び止めておいて勝手に評価しないでほしい。

 それには私もムッとする。普通の何が悪い。私は普通科に通うごく普通の女子高生だよ、なにか文句あるか。


「はじめましてぇ、私、雨宮(あめみや)聖良(せいら)っていいまぁす」


 一応先輩に対してちゃんと敬語を使っているが、態度が小馬鹿にしている。なんだこの1年。私が怪訝な顔をしているのにもお構いなしに雨宮聖良とやらはにんまりと微笑んだ。


「悠木先輩、私が頂いちゃいますね!」

「……」


 はーん、悠木君はまた変な女を引っ掛けたのか…

 私は目を細めて彼女を見た。あれ、この子、この間悠木君と一緒にいた子じゃん。男子がかわいーって騒いでいた噂の1年か。


「なんなんですか? その顔!」

「いやまぁ…頑張って」


 なんで私に宣言するんだろうなと思いつつ、相手にするのが面倒なので横を通り過ぎた。


「えっ!? なにそのうっすい反応!」

「『私みたいな十人並みの平凡、こんなかわいい子に勝てるわけがないよ…!』」

「は?」


 友達に読めと言われた少女漫画の主人公のモノローグを呟いてみると、雨宮さんはきょとんとしていた。彼女の勢いが収まったのを見計らって私はスタスタと歩き始めた。

 先程の現象は、まさに少女漫画のライバル役が主人公に宣戦布告してきたような展開だが、私には平凡主人公みたいな思考回路にはなれそうにない。頂きますね。と言われたらハァそうですか。と返す外ない。そもそも悠木君は物じゃないし、悠木君の気持ちはどこにあるのかが分からんから私としても反応に困る。


 ──なんとかノルマの少女漫画10冊を読みきったけど、私にはやっぱり少女漫画の心がわからん。

 本当は友達から春休み前に感想を述べよと言われていたけど、暇も読む気も起きなくてそのままにしていた。感想を求める友人の催促が強くなってきたので渋々全巻読んだけど、わかんなかったと感想を述べたら更にノルマを課せられるかもしれない。


 だいたい少女漫画のヒロインって平凡とかいいながら美少女なんでしょ。じゃなきゃ脇からイケメンの当て馬が出てくるわけがない。絵面的に周りのキャラより差別化されて描かれているし、絶対平凡じゃない。

 あの少女漫画、もともと彼女がいる相手役を振り向かせてどうのこうのって内容だったから…私略奪愛ものはそんなに好きじゃないのかも。相手役チョロくない? また同じような女がいたらそっちに心変わりするんじゃない? って冷静な自分が突っ込んでしまい、全く物語の世界に引き込まれなかった。

 ヒロインもヒロインだよ。健気なふりして、やってること略奪じゃねーの。わたし可愛くないもんグスン、とか言ってるけどみててイラつく。むしろ、私十人並みですけど!? って開き直ってくれたらいいものを。


 あの漫画、少女漫画ランキング人気1位だった。巷では略奪が流行してるのね…やっぱり私には少女漫画は理解できない。むしろ今アニメ化してる少年漫画のほうが面白かったよ。


「美玖おはよー」


 教室に入ると友達が挨拶してきた。私も挨拶をし返すと、朝寝をしょうと机に突っ伏した。


「ねぇねぇ美玖、読んだ?」


 ここ最近毎日のように催促される漫画の感想。私はノロノロ体を起こすと、口を開く。


「…主人公にも相手役にも好感が持てなくて、あまり合わなかった」

「じゃあ違うタイプの漫画にしようか」

「いやもう結構。もうお腹いっぱいだわ」


 友達がスマホを触って何かを探し始めたのでそれをストップする。

 もういい、やめてくれ。読んでたら頭がおかしくなりそうだからもう勘弁してくれ。


 断固拒否の姿勢を見せると友達は残念そうな顔をしていたけど、それ以上強く言ってこなかった。それにホッとすると、私はそのまま朝寝体勢に入る。しばしの間すやすやと惰眠を貪ったのである。



 ホームルームが始まるからと起こされたとき、友達から教えてもらったけど、私が寝ている間に例の1年がやってきて、廊下で悠木君に絡んでたんだって。

 私を起こそうとしたけど、完全に寝入ってたから諦めたと言いながらなにやら口惜しげな顔をされた。

 何だその顔、私によくわからない不満をぶつけるんじゃない。



□■□



 ──ジリリリリリリリ!!! 火事デス! 火事デス!


 突然の非常ベルに私は飛び起きて毛布を跳ね除けた。

 お昼寝していた私は避難せねばと慌てて窓から飛び出そうとしたが、背後から腕を掴まれて阻止された。

 誰だ、私の行く道を塞ぐのは!!


「火事だよ! 何してるの!?」

「ここは4階! 大丈夫、これは消防機器のベル点検!」


 半分寝ぼけている私に言い聞かせたのは悠木君だった。

 消防機器……なんだ、点検か。人騒がせな…危うく全身骨折するところだったよ。私は窓枠から飛び出すのはやめて、定位置のソファに戻った。ゴロンと横になると身体に毛布をかけてアイマスクを装着する。


「また寝るのかよ」

「お昼寝の時間なので」


 悠木君はまた女から逃げてきたのかな。ここは駆け込み寺じゃないんだが……私の昼寝の邪魔をするでないよ。

 おでこを少しカサついた手のひらが撫でる感触がした。……いつもならそういうことしないほうがいいよって言うところだけど、私はとにかく眠かったので、したいようにさせてあげた。きっと私のおでこは撫で心地がいいのだろう…


「悠木先輩ー! どこにいるんですかぁー?」


 廊下から聞こえたその声に悠木君の手がギクリと固まる。

 彼は呼びかけに応答しなかった。私にもこの声に聞き覚えがある。──あの雨宮とかいう1年は悠木君のこと頂きまーすとか言っていたけど、まだお付き合いするまで親密というわけじゃないのかな。

 私は仕方なくアイマスクを外しながらムクリと起き上がると、社会科準備室の鍵を掛けた。電気は元々消しているので、静かにしていればバレないだろう。

 後ろを振り返ると悠木君と目があったので静かにするようにとジェスチャーをする。なんだか悠木君が息を呑んでいたが、私は気にせずソファに戻った。


 その直後である。

 ガチャン! と引き戸を開けようとするも鍵がかかっているため開かなかった音が響き渡ったのは。

 悠木君がギクリとした。目には怯えが見えて、まるでサスペンス映画で殺人犯に追い詰められたキャラクターみたいな表情である。…少しでも好意を持っていたらこんな顔しないよね…


「…チッあの男どこ行ったんだよ…ぜってぇ捕まえるし…」


 外から聞こえた独り言は地が出てしまったようで、あの愛らしい容姿からは似つかわしくない舌打ちまで含まれていた。…やっぱりあの間延びしたような喋り方は外向けか。まぁ外面はある程度必要だよね。ただどうせなら最後まで貫いてほしい。

 準備室前の人の気配が消えてなくなったが、悠木君は青ざめて棒立ちしていた。まだしばらくは廊下に出ないほうがいいだろう。


「悠木君、大丈夫かい」

「……あぁ」

「…眼鏡呼ぶ?」

「いや…いい」


 眼鏡は普段ヘラヘラしているが、友達を守ろうとする正義感はある男だ。多分頼めば雨宮さんから悠木君をボディガードよろしく庇ってくれると思ったのだが、悠木君には断られてしまった。

 …私? 馬鹿言っちゃいけない。あぁいうタイプは言葉が通じないからちょっと厳しい。


「あの子から悠木君のこと頂きまーすって面と向かって宣言されたから、濃いのが来たなぁと思ったらいつものごとく変な女に気に入られちゃったんだね悠木君」

「はぁ? あの1年お前にそんなこと言ったの!?」

「適当にあしらったから大丈夫」


 学年が違うし、待ち伏せしないとそうそう会うこともないだろう。

 それに悠木君の女絡みに巻き込まれるのは初めてではないし…


「それにしても積極的な子に好かれるよね悠木君は」

「違うからな!? 俺はああいう二面性タイプは苦手なんだ!」


 三角関係に終わりを告げて新しい春を見つけるのも悪くないと思うんだが…と言いかけてふと思った。悠木君はお姉さんがあれだけの美人なのだ。側に桐生礼奈という美女もいる。目が肥えているのかもしれないな。

 悠木君の好みの女の子ってどんな子だろう。お姉さんのような迫力モデル美人? 桐生礼奈のような正統派美人?


「興味ない、俺はお前が…」


 悠木君はそう言いかけてハッとした様子で口元を抑えた。


「なに? 私がどうしたの」


 聞き返したけど悠木君は私から目をそらしてゴニョゴニョしていた。


「…なんでもない」


 なんでもなくないでしょうが。途中で言うのやめないでよ。なんだよ。気になるなぁ。


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