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バイトの時間なのでお先に失礼します! ~普通科と特進科の相互理解~  作者: スズキアカネ
普通科の彼女と特進科の彼。

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第31話 鎌倉時代にフビライ・ハンの軍が攻めてきたことをなんと呼ぶか。


 普段通り、早朝バイトから登校してくると、なぜか普通科1組の教室前で悠木君が待機していた。


「悠木君おはよー…何してんの?」


 私に何か用? 教科書か何か借りたいものがあるとか?

 声をかけられてハッとした悠木君はどこか緊張した様子だった。彼は寄りかかっていた窓枠から背中を離すなり姿勢を正し、私と向き合う。


「これ…お前に…」


 そう言って彼が私に突き出してきたのは手のひらサイズの箱だった。

 箱。なんで?

 桐生さんに引き続き悠木君までお礼…? いや、助けたのは桐生さんだからそれはないか。もしかしたら誕生日プレゼントなのかもしれない。


「……私の誕生日は先月だったけど…?」

「えっマジかよ! 言えよ!」

「いや、誕生日アピールするとプレゼントねだっているみたいじゃん」


 誕生日を知らせてなかったことに悠木君がショックを受けている様子だったが、悠木君ってそういうイベントごとにはしゃぐイメージないしさ。私だって悠木君の誕生日は知らないしお互い様だよ。

 誕生日いつだったのかと聞かれて2月26日だったと答えれば、「よし、その分のプレゼントも今度持ってくる」と返ってきた。

 いらんて。そのために言ったんじゃないってば。


「受け取れよ。それ、ホワイトデーのお返しだから」

「あぁ…友パンだったからいいのに…」


 そうか、今日はホワイトデーか。バレンタインのときみたいに盛り上がってないからスルーしそうになっていた。

 お返しと言われたら受け取らねばなるまい。私が彼の手から箱を受け取ると、その場でリボン結びを解いて箱を開けた。


「わぁ…」


 箱の中にはバレッタが収められていた。学校の校則の範囲内で収まる程度の飾りのついたバレッタは光に反射するとキラキラ輝く。これビジューだろうか。


「かわいいね、ありがとう」


 それにしてもこれは一体何倍返しだろうか。300円ショップ…なわけないな。チープな作りしてないし。頂いておいてなんだが逆に申し訳ないのだが。

 しかしそこに突っ込むのは野暮ってもんだろう。私はバレッタを手に、箱は窓枠に置く。前髪をまとめて後ろで留めていたピンを取ると、代わりにバレッタを装着する。着けた姿を見てもらおうと後頭部を見せた。


「どう?」


 もらったからにはお披露目するべきだろう。贈り主に感想を問うと、悠木君はなにやら嬉しそうに笑っていた。混ざりけのない優しい笑顔を向けられた私はドキッとする。

 悠木君、そんな笑い方するんだね。


「かわいいよ」


 ……まーた悠木君はそんな簡単に女子を可愛いとか言って…そんなんだから変な女に付きまとわれるのだよ君は。

 さわ…と周りを歩く女子生徒が妙な反応をする。視線が一気にこちらに集中した気がしたが、私は気づいていないふりをした。


「それと、さ…ID交換しねぇ?」


 ぬっと出されたスマホに私は目を丸くする。そこにはメジャーなメッセージアプリの画面が。


「別にいいけど…前に眼鏡にも言ったけど、普通に返信遅れるよ?」


 私はこう見えて忙しい女なのだ。即レスポンスが返ってくるとは思わないでほしい。悠木君はそれを理解していたのだろう。深く頷いていた。ピコンとアプリ画面に友達登録が済んだと通知が出ると、彼がほっと息を吐き出したように見えた。


「…悠木君、この間から眼鏡と競ってるみたいだけど、そんな対抗しなくていいんだよ? だいたい眼鏡からのメッセージは未読スルーしてるし…」


 お陰様で眼鏡からのメッセージ未読数が増えていく一方さ。眼鏡は飽きもせずメッセージ送ってくるけど暇なんだろうか。

 悠木君、この間怖い顔で眼鏡のこと睨んでいたし、君たちの仲が心配だよ。メッセージアプリの申請ごときで仲違いされても困るんだなぁ。


「別に競ってねぇけど…」


 彼は困惑したふうに首を傾げているが、私から見たら競っているように見えるぞ。


「気に入らないんだったら眼鏡のことブロックするから、ID交換ごときで仲違いしないでね」

「や、別にそこまでせんでも」


 まぁ…ブロックしたらしたであの眼鏡うるさそうだからそのまま放置のほうがいいんだけどね。


「でも…」


 悠木君は持っていたスマホをぎゅっと握ると、意を決した表情をした。


「あんまり、大輔と親しくしないでほしい」


 悠木君のまさかのお願いに私は目をぎょっとさせた。えぇ、そんな…私と眼鏡はそんなに仲が良さそうに見える…?

 私が口をへの字にしていたからか、悠木君も同じように口をへの字にしていた。


「あのね、悠木君。私が眼鏡の相手を喜んでしていると思ったら勘違いだよ。悠木君の友達だから仕方なく相手してあげているだけだから」

「俺の…?」

「うん。だって悠木君の大事な友達でしょ? あのね、こんな言葉を君に授けてあげるよ。友達の友達は友達じゃないんだよ。眼鏡はあくまで私の友達である悠木君の友達なだけで、そこには友情も愛情もないんだよ」

「……」


 全くもう悠木君は顔に似合わず友達取られたくない欲が強いんだから。私はフフ、とほのぼのした気持ちで悠木くんを見上げた……のだが、悠木君は何やらしょぼんと落ち込み始めた。

 …ちょっと言い方がきつかったかな。


「ちょっと森宮さん! 廊下のど真ん中で俺との友情を否定するのやめてくんない!?」


 文句言いながら割って入ってきた眼鏡が登場してからまぁ騒がしい。


「本当のことじゃない」

「それに夏生に友達って…森宮さんは残酷だ!」

「はぁ?」


 眼鏡が落ち込む悠木君の肩を抱いて私を責めてきた。

 なぜ責め立てられなきゃならんのかわからず、私は首をかしげた。


「そんなプレゼントもらっちゃってさ! 普通は期待するところでしょ!?」

「だってこれホワイトデーの…」

「あぁもう! 森宮さんってお勉強はできるくせに情緒が幼いね! 君、高校生だよね!? いつまでも中学生気分でいるんじゃないよ!」


 なんか手酷くディスられた。

 情緒が幼いって…そんなことないだろう…! 人のこと捕まえておいて、なんて失礼なことを言うのだ…!


「大輔…いい」

「夏生、でも…」

「俺が自分でなんとかするから…お前は何もするな…」


 まるで致命傷を負った兵士同士のやり取りのようである。2人で戦場にいる兵士ごっこしてるのかな。

 なんだよ、君たちの中で一体どんな意思疎通をしているんだ。男の子はよくわからない。ほけーっと2人の劇場を見上げていると、悠木君がこっちをみた。


「今日の夜、連絡するから」

「うん? わかった…返事は…」

「気長に待つ」


 そう言い残して悠木君は踵を返し特進科クラスに戻っていった。

 大丈夫だろうか。精神的ダメージを食らったみたいにフラフラしているが…

 首をかしげながら教室に入ると、友人ズに囲まれ、無言でスマホ画面を見せられた。


「美玖、悪いこと言わないから、少女漫画読んで勉強したほうがいい」

「はぁ? 少女漫画? ……勉強することなんてなにもないでしょ」


 少女漫画の内容なんて学校の勉強に関係ないことばかりでしょ? 恋愛ばかりでつまらないじゃない。


「駄目! あのね、これおすすめだからダウンロードして読んでみて!」

「駄目だこの子、学校の勉強とバイトのことしか頭に詰まってない…!」


 なぜか友人の一人に少女漫画を読めと強制され、もう一人には大げさに嘆かれた。

『ここまで鈍感とは思わなかった。ビックリする』

『鈍感女は地雷なんだけど、まさかそばに存在するとは…』

 ──と、なんかめちゃくちゃディスられたんだけど……なんなのみんなして人のこと悪く言ったりして……あのね、私も人の心があるから傷つくんだよ?


「…これ10巻もあるじゃん…」


 1冊ならいいけど、10冊も読むのだるい…

 文句を言うと、読めや! と圧力をかけられ、週明けに感想も聞くからね! と読書感想文まで求められた。

 ……困るなぁ。春休みの短期バイトの仕事覚えたいのに…。


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