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バイトの時間なのでお先に失礼します! ~普通科と特進科の相互理解~  作者: スズキアカネ
普通科の彼女と特進科の彼。

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第19話 魯肉飯特盛おまち!


「悠木、俺が彼女と一緒にいたらなにかまずいのか?」


 緑谷先輩の問いかけに悠木君はぐっと口ごもっていた。

 確かにそうだ。普通に失礼だぞ、悠木君。別に私達が誰にいようと私達の勝手のはずである。


「そういうわけじゃ…」


 私の視線に気づいた悠木君がこっちを見てきた。その瞳はやっぱり不機嫌だ。イケメンにジロジロ見られると落ち着かなくなるから凝視しないでほしいんだけど。

 ……もしかして、お腹すいているからイライラしているの…?


「たこ焼きはあげないよ…?」

「いらねえよ」


 何がどうしてそんなに機嫌が悪いのか。これまた機嫌悪く返された。私のたこ焼きが羨ましくて見ていたのかとてっきり。

 告白シーンを見られたのが嫌だったのか、相次ぐ告白に疲れたのか。モテる男の気持ちはわからんが、大変だな。


「そういえば悠木、聞いたぞ。ものすごい美女と一緒に歩いていたって噂だ」


 緑谷先輩は空気を読まずに爆弾を放った。悠木君今機嫌悪いのによく聞けるね。悠木君は口をへの字にして変な顔をしていた。


「…それ多分うちの姉貴のことです」

「あぁ、そう言えば悠木のお姉さんもうちの特進科卒だったな」


 なんだお姉さんか。すわ四角関係かと思って焦って損した。

 悠木君のお姉さんだもの、そりゃあ美人だよね。お姉さんと噂になるってのは少々災難ではあるが、モテ男のさだめというものだろう。

 私はたこ焼きを食べながら、持っていたプログラムを見てみた。さてこれからどこに行こうかな。


「緑谷先輩のクラスってここですか」

「あぁ」

「ボードゲームクラブ…」

「将棋や囲碁、カードゲームにオセロやチェスができるぞ」


 なるほど、地味だ。文化祭でやることなのだろうか…

 こうしてプログラムで眺めると特進科と普通科の差をまざまざと見せつけられる気がする。


「そんで悠木君のクラスは数独パズルゲームだったよね…特進科の出し物、地味だなぁ。若さと勢いが足りない。文化祭でそんなインテリぶらんでもいいと思うんだけど」


 悪いとは言わないけど、これでいいのか君たちは。


「クラスの奴らが勝手に決めたんだよ。準備が楽とか言って」


 そう言って悠木君はへそを曲げた風にぷいとそっぽむいてしまった。

 …機嫌が悪いのもあるけど、なんか元気がないなぁ。やっぱりお腹が空いて力が出ないのであろうか。食べ終わったたこ焼きの器と割り箸を中庭に設置されているゴミ箱に捨てると、私はスカートに付いた砂埃を叩く。


「よし、じゃあ悠木君。うちで魯肉飯食べていきなよ」


 私の誘いに悠木君は「は?」と気の抜けた声をもらす。


「特別にトッピング無料だ」


 温玉がいいかね、チーズがいいかね、紅生姜でもよろしくてよ。

 お腹いっぱい食べたら元気になる。お店がいっぱいなら特別に持ち帰り手配してあげるよ。


「奢るんじゃねーのかよ」

「タダほど怖いものはないぞ、よく覚えておけ」


 さぁ行こうと彼の背中を押していると、緑谷先輩も動いた。


「2人の邪魔になるから俺はここで退散することとするよ」

「邪魔って」

「じゃあ、文化祭楽しめよ、ふたりとも」


 まーたあの人は人の観察して…

 違うって言ってんのに勝手に邪推して、にやにや楽しんでるんだろうなぁ……

 私が肩をすくめていると、斜め上から視線を感じたので顔を上げると、悠木君が真顔でこっちを見ていた。

 何故真顔。びっくりするではないか。


「…先輩と何話していたんだよ」

「大したことじゃないよ、教頭先生から送られた刺客だっただけ」

「……先生らも大概だけど、お前も頑固だよな」


 その説明で大方納得した様子の悠木君は私に背中を押される形で1年1組の教室に入っていった。

 うちのクラスのお店は相変わらず盛況だった。運良く2人席が空いたとのことだったので、そこに彼を着席させると自分で配膳しに行った。


 山盛りメニューの分量で米を盛り、作りおきの魯肉をドバっと乗せる。そこに適当に温玉や紅生姜、野菜をトッピングして出来上がりである。

 サービスのジャスミン茶と一緒に悠木君に提供すると、彼は瞳を輝かせていた。やっぱりお腹すいていたんじゃないか君。


「うめえ」

「そうだろう! 美味しいだろう!」


 ひとくち食べた悠木君は箸が止まらなかったようだ。いい食べっぷりである。


「作ったの俺なのに、なんで森宮が偉そうなの」


 食事中の悠木君を見守っていると、キッチン担当のクラスメイトが声をかけてきた。私はそいつの顔を見て言った。


「自滅太郎」

「それやめろ」


 こいつはあのあと佐藤さんとはどうなったんだろう。先走って自分は佐藤さんが好きです宣言した自滅太郎は悠木君をジロジロ見て、ほう…と感嘆していた。


「やべ、間近で見るとマジでイケメンすね」

「食べにくいでしょ。食べ終わってからにしてやりなよ」


 悠木君は困った顔をしながら、口元をモゴモゴさせていた。口の中に食べ物が入っているから話せないのであろう。

 顔ジロジロ見られると食事しにくいでしょうが。私がシッシッと追い払うと、自滅太郎が不満そうにぶちぶち言いながらどっかに去っていった。

 箸の動きが止まってしまった悠木君は食べかけの丼を見下ろし、何やら考え込んでいる様子だった。


「元気ないね、どうかしたの? 女子に追いかけ回されて疲れたの?」


 告白ラッシュに重ねて追われていたのが精神的に疲れたんだろうか。

 悠木君は私の声に反応して顔を上げた。私の顔を見つめて、一瞬何かを思い出した様子で少しだけ不機嫌そうに顔をしかめた。

 ……人の顔見て失礼なやつだな。



□■□



 悠木君の食事が終わった後は適当に校舎内をぶらついていた。別にお誘い合わせをしたわけじゃないけど、悠木君はついてきた。またボッチ悠木なのだろうか。寂しくてついてきたのか。


「あ。みてみてミス・ミスターコンテストだって」


 掲示板に貼られたそのお知らせを見て、出場者の名前に目を通す。その中に隣の彼の名がないことに疑問を抱いた私は少しがっかりした。


「悠木君はエントリーしなかったんだ? ミスター部門余裕で1位とれそうなのに」


 そりゃあもうぶっちぎりでしょうね。優勝者には学食割引券がついてくるらしいよ。

 悠木君はポスターを一瞥すると興味なさそうに口を開く。


「人に評価されなくても、俺の価値はかわんねーから」


 わぁ。自分に自信を持っているから言えるセリフである。

 悠木君ってナルシスト入っているよね。いや、ナルシストでも別に構わないんだけどさ。


「そうですか」


 ウン、自分に自信があるっていいことだよ。

 私にはそう返すしかできない。否定も肯定もしないぞ。


 それにしても……さっきから女子の視線が痛い。何も言ってこないから平気だけどさ。悠木君はいつもこんな視線にさらされてるのか…


「告白してきた女の子の中に気に入った子いなかったの?」


 悠木君は私を見下ろして、口を開こうとして一瞬固まった後、首を横に振った。


「いない。……別に好きでもない女にもてたくない」

「わぁモテる男は言うことが違うね!」


 私はからかいついでにヨイショしたつもりだったのだが、悠木君にムッとした顔をされた。今日の悠木君は全体的に機嫌が悪いな。地雷がわかんないぞ。



 校庭では科学部がシャボン玉チャレンジとやらをするとかで、暇つぶしにその光景を眺めながら、私は素朴な疑問を投げかけた。


「そういや悠木君ってなんで特進科なの? 進路はどう決めてるの?」


 特進科で頑張る姉を見てきたので、特進科に進む人はよほど未来に強い希望を持ってるんだろうなと私は考えている。悠木君も何が夢があるのだろうか?


「姉貴の母校だからなんとなく同じ科にしただけ。進学に不利にならないだろうしな。お前こそどうなんだよ? 頑なに普通科でいる理由は?」


 聞いたら聞き返された。

 聞かなきゃよかったかなと思ったけど、答えなきゃフェアじゃないな。


「…笑わない?」

「笑わねぇよ」

「先生にもチクらない?」

「お前は俺をなんだと思ってんだ。言わねーよ誰にも」


 私の周りにはたくさんのスパイがいると思ってるんだ。先生方は顔を合わせるたびに小言を漏らし、あぁして先輩による調査を行うのだから…。特進科の悠木君だって水面下で私を探っていてもおかしくないだろう?


「…海外留学したいからその資金ためてるの」


 私の回答に悠木君はパチリとまばたきをした。


「普通科にいるのは、バイトしながら特進科じゃ勉強についていけないし、貯金もたまらないから。私はいずれ国公立大学に進んで、在学中に海外留学するんだ」


 海外に出てもっと視野を広めたいのだ。周りは異国人だらけ、完全にアウェイな環境で自分を鍛えたい、いろんな文化の人とコミュニケーションをとってみたい。

 そう思ったのは、小学生の時なんとなく通わされていた語学スクールである。外国の子供も通うそのスクールで、色んな国の友達ができた。色んな話を聞いた。

 それから私は海外を見てみたいと思うようになった。


「うち、お姉ちゃんがお医者さん目指してて、6年制の大学行ってるんだ。お姉ちゃんは優秀だから、学費免除受けてるけど、それでも学費以外にもすごくお金かかるの。うちは一般家庭だし、これから家計がどうなるかわかんないし、せめて留学費は自分で賄おうと思って」


 私がバイトするのに別に深い理由はないのだ。

 留学費のため、親に負担かけたくないため、自分の夢を叶えるため。なにもかも自分のためである。自分のキャパシティを考えた上で、普通科にしがみついているのである。


 これを人に話したとき、「親は出してくれないの?」とか「留学とか社会人になったあとでも良くない?」とか言われたことがあって、そういう否定の言葉を聞きたくないから人には話さないようになったんだ。まぁ何か言われても私は今のスタンスを崩す気もないけど。

 話して思ったけど悠木君はお金持ちの家の子だから理解できないかもしんないな…。


「…偉いなお前。ただ遊ぶ金欲しさかと思ってた。めちゃくちゃしっかりしてる」


 しかし、予想と反して悠木君はこちらをキラキラ尊敬の眼差しで見つめてきたではないか。

 照れるじゃん、そんな目で見られたら…


「…自分で稼ぐ分なら、何使ってもいいでしょ」

「まぁそうなんだけどよ。でもお前なら特進科とバイトの掛け持ち余裕だろ」

 

 随分と私のことを買い被ってらっしゃるようだが、私にも限界というものがあるんだぞ。


「睡眠不足と過労で死ぬじゃないの。これでも必死に勉強してるんですー。特進科とか無理無理無理」

「えー、お前みたいな奴が同じクラスなら楽しいのに」


 悠木君にとって私はどんな存在なのだ。残念そうな顔するな。私はあんたの玩具じゃないんだよ。


「むしろ悠木君が普通科に堕ちてくればいい。おいでませ普通科」

「言い方よ」


 悠木君はフフッと笑っていた。やっと機嫌が治ったみたいである。


「すごいな森宮は。普通科の変人の二つ名は伊達じゃない」

「褒めてないよ、それ」


 すごいって目を輝かせていたくせになぜ急に貶すのか。その二つ名私のことを馬鹿にしてるだろう。

 悠木君の腰あたりを指でつつくと、彼はくすぐったがっていた。弱点発見である。


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