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バイトの時間なのでお先に失礼します! ~普通科と特進科の相互理解~  作者: スズキアカネ
普通科の彼女と特進科の彼。

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第13話 睡眠妨害はやめてください。

 寝不足で漏れるあくびを噛み殺しながら、普通科の境界線を超える。ここから先は特進科のエリア。不思議とこちらの方に普通科の生徒は寄り付かない。

 全員が全員じゃないけど、普通科の生徒を見下してそれを態度に露わにする特進科の生徒がいるので、それを嫌って皆近寄りたがらないのだ。

 私も用がない限りそっちには行かない。今日はたまたま用があるのでやってきたのである。


 特進科A組の教室を覗き込むと、A組の生徒は皆机に向かって必死の形相で勉強をしていた。

 うちの普通科のクラスでも同じ光景が見られるが、気迫が違う。さすが修羅場を乗り越えてきた奴らだ。意識が違いすぎるな…。


「なにしてるの?」


 私が教室を覗き込んでいるのに気づいたA組の生徒が声をかけてきた。丁度いい。呼び出してもらおうと思ってその人物を見上げて私はギクリと肩を揺らした。

 サラサラの長い黒髪からふわりと甘い香りが漂ってくる。あくまで自然に見えるナチュラルメイクは彼女の清楚さを際立たせ、ぷるんとテカる唇が魅惑的であった。


「夏生に何か用?」


 桐生礼奈…!

 まさか私が悠木君に会いに来たと思って直々に声をかけに来たのか…!

 私はすぐさま首を横に振った。


「違います」

「え…? じゃあなんで…」


 私が否定すると彼女は怪訝な表情を浮かべていた。

 なんだろうなぁ。今までこの人に興味なかったんだけど……なんていうか作り物めいた存在感が苦手だなぁ。何を考えているかわかりにくいと言うか…

 じっと私を見てくる桐生さんの視線に息苦しさを覚える。なんなのだ。

 言っておくけど私と悠木君はなにもないからな。


「あのさ」

「森宮さん!?」

「あ、昨日の」


 観察するような視線が気持ち悪いので、この場で悠木君とはなんの関係もないと告げようとしたら3人娘の1人が私の来訪に気づいた。


「もしかして…!」

「お昼食べたら4階社会科準備室にきて。1人1000円ね」

「! うんっ」


 それだけできっと何の用か伝わるであろう。彼女は飛び上がって喜んでいた。……おかげで深夜までコピー作業に明け暮れたけど、ここまで喜びを露わにしてくれると報われる気がするよ。

 自分の用が済んだので自分のクラスに戻ろうとくるりと方向転換した。


「待って。森宮さん、今何を言いかけたの?」


 桐生さんに呼び止められて私は彼女の存在を思い出した。あ、そうだった私は彼女に言おうとしていたんだ。


「あぁ。桐生さんが心配することはなにもないよ、そう言おうとしただけ」

「え…?」


 安心させるために言ったのに、彼女はなんだかますます怪訝な表情になっていた。それには私も同じ表情になってしまう。


「えぇと…そういうことだから」


 この妙な空気感が重苦しくて私は言い逃げすることにした。さっと背中を向けて、スタスタと足を動かす。

 彼らの間柄や今の進捗状況は知らないけど、そこに私を巻き込まないでくれないか。



□■□



「周りには言わないでね、先生にバレたら、対策が練られなくなるから」


 私が差し出した秘伝の書のコピーを手にとった彼女たちの目は輝いていた。

 別にこれがあれば確実にいい点数取れるとは限らないから盲信しないでほしいが、彼女たちにとっては救いの存在に見えるのだろう。何度も何度もお礼を言われた。


「じゃあこれ…3人分包んだから」


 ルーズリーフを簡易封筒にしたそれに3000円入っていた。確かに受け取った。これは製作者である我が姉に渡しておくね。

 コピーを挟んだクリアファイルを抱えて廊下を小走りで駆けていく彼女たちを見送り、私は残りの時間を昼寝に費やそうと社会科準備室に引っ込もうとした。


「──密輸でもしてるのか?」


 その声に私はぎくりとする。

 振り返るとそこには3年特進科のネクタイをした男子生徒の姿。彼は前生徒会長だ。


「違います」


 人聞きの悪い。


「相変わらず君はここを根城にしてるんだな」

「いいじゃないですか、今は誰も使っていない物置状態なんですし」

「バイトの時間を減らして睡眠時間を確保すればいいものを」


 うるさいな、ただでさえ学校に通いながらバイトするのは大変なのだぞ。バイト時間を減らしたら収入が減るだろうが。

 私は前生徒会長を無視するように社会科準備室の古いソファに寝っ転がると自分の体にブランケットを掛けた。


「寝るのか」

「寝ます。昨晩はバイトの後にコピー作業してあんまり眠れてないんです」


 背を向けて目を閉じるが、前生徒会長が出ていく気配がない。もう寝ちゃうよ、勝手に出ていってよ。


「……緑谷先輩…?」


 ……別の男の声が聞こえた。

 やめてよぉ私の安息の時間を奪うのは……ゴロンと寝返りを打って侵入者を見上げると、そこには呆然とした顔の悠木君がいた。

 ……何してんだろうこんなところで。


「悠木、この時間に来るのは珍しいな」

「…先輩こそ。なんでここにいるんですか?」

「……そのセリフお二方に投げかけたいの私なんですが」


 ふたりして私の睡眠の邪魔をするのか。事と次第によっては許さんぞ。


「お前こそ男と2人きりなのに普通、寝るか!?」

「私は悪くない。侵入してきたのは前生徒会長だもの」


 何故か悠木君が私を責めるような事を言い始めたので、私は言い返す。


「だからって!」

「それよりお昼休みに4階に来たってことは、生徒会の仕事でもしに来たの?」


 私に構ってないで用を済ませたらどうなんだ。お昼休みは有限だぞ。そして私のお昼寝時間も有限なんだ。その意味わかるな?


「違う。礼奈に言われたから…」


 ……???


「お前が特進科に顔を出して、うちのクラスの女子と怪しげなやり取りしてたって言うから」


 ……何を言っているのか。


「悠木君には用ないけど?」


 桐生礼奈にもそう言ったのに、私の言葉が通じなかったのかな?

 彼女たちは悪意持って近づいてきたわけでもない。私だってそうだ。

 それなのに桐生礼奈には敵対してるように見えたのかな? 私が誰と話そうと悠木君には関係ないのだが。余計なお世話である。


「…森宮さんはなかなかドライだね」

「はぁ?」


 前生徒会長が意味深に言うが、ちょっと何言ってるかわかんない。

 DRY? なにがよ。

 結局その日私はお昼寝が出来ず、午後の授業では地獄の睡魔に襲われたのであった。



□■□



 中間試験全日程を終え、結果がすべて返ってきた。順位表が掲示され、私はそれを見上げた。

 普通科クラストップの位置に私の名前が輝いている。今回は満点を取れた。やったね。


「いつもながらトップおめでと」


 横から悠木君に声をかけられたので眉をひょこっと動かした。


「いやいや、特進科の方に言われても……」

「なんだよ、褒めてんのに」


 別に妬んでるわけじゃないけど、小馬鹿にされているような気もしないでもないんだ。特進科クラス18位に名前を飾る彼は目を細めて順位表を眺めていた。


「森宮さん!」


 ズズイと囲むように私の目の前に現れた3人娘は目をキラキラ輝かせていた。それだけで彼女たちの試験結果が良かったのだと察せた。


「傾向バッチリだったよ!」

「森宮さんのおかげで成績なんとか向上できたよ!」

「森宮さんのお姉さんすごいね!」


 彼女達がはしゃぐものだから、周りの生徒の視線が集中する。


「シーッ! 内密にって言ってるでしょ!」

「あ。ごめん…」


 慌てて口止めすると彼女たちは口元を抑えていた。


「良かったね、役に立てたならお姉ちゃんも喜ぶと思う」


 お姉ちゃんが作った秘伝の書は今でも通用するということだもの。

 

「お姉さんにお礼言っておいてね」

「うん、わかった」


 先日声をかけられたときは死にそうな顔をしていたのに、今では晴れやかな笑顔を浮かべている3人娘を見て私まで笑ってしまった。


「……森宮、何の話? お前の姉ちゃんがなんだって?」

「あっ、バイト行かなきゃ! じゃあね!」


 腕時計を見て私はぎょっとする。今日はスーパーで試食販売のお手伝いするんだった! 特売時間に遅れる。急がなきゃ!!

 なんか悠木君に声をかけられた気がしたが、私は方向転換して駆け出した。


「バイト頑張ってね! 森宮さん!」


 3人娘がエールを送ってくれたので、私は片手を上げることで応えた。

 ようやくテストが終わったから、安心してバイトが出来る! 今日も稼ぐぞー!


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