夢
「カチッ……カチッ……カチッ……」
時計というものはとても奥深く、自分とは切っても切り離せない関係にある。今や時代遅れの時計屋の息子として産まれ、小さい時から時計と関わってきた自分は真っ当に時計の世界にのめり込み、1日中時計の中を弄ることもしばしばあった。今日も修行として任された店の受付で、頭の上でカチカチと小気味よいリズムを奏でる古時計の下のもと、ずっと腕時計を弄る日曜日を過ごしていた。
「こんばんはー!もう時計治った?」
明るく、溌剌とした声が入口のドアから響く。彼女はご近所の幼馴染で、自分の影響もあってか今でもオキニの腕時計を使い続けている………。スマホというものがあるのに何故使わないのだろうか…。
補足しておくと、別に自分はスマホを毛嫌いしているわけではない。なんなら超便利な人類の叡智の結晶だとも思う(勿論時計も同じだ)。メールも出来るし電話も出来る。腕時計には出来ないことだらけだ(勿論時計には別の魅力がたくさんある)。かくいう自分も彼女と繋がるためにスマホを購入した。……何も言わないでくれ。
「もー!何ぼっとしてるの?出来たの?出来てないの?」
忘れていた……軽く手元の腕時計を見て修理完了までかかる時間を予測する…。
「そうだな…あと30分くらいで終わると思う。」
「そっかぁ……ならここで待ってようかな!」
彼女は向かいにあるソファに腰掛ける。
「中で時計でも見てろよ。恥ずかしいだろ。」
「えー、別に良いじゃん。見られて減るもんでもないし!」
ちょっとロングめの黒髪がふわっと揺れた。何かいい匂いでもしてきそうだが、残念ながら手元のオイルの匂いしかしなかった。…それにしても、あいつ、時計というよか俺の方を見ているような………。そんな雑念を振り払いながら、27分17秒後に彼女の腕時計の終了が完了した。もう遅いからか、まぶたを重たそうにしている彼女に声をかける。
「おい、終わったぞ。」
「ハッ!危ない危ない……。時計治った?ありがとー!もう少し話したいところだけど、また明日学校でね!」
ガラガラと音を立てて戸をしめ、彼女は帰っていった……。ゔあーと言いながら椅子にもたれ上を向くと、大きな古時計が視界を埋め尽くす。
「それにしても大きいな……」
この時計は父親の作品であり、最後の1ピースを入れた直後に死亡したと言われていて、一部のコア層ではかなりの人気がある。ふと思い立って受付テーブルを回り、大時計をまじまじと見てみる。ディティールまで拘られた作品を放心して眺めてると、今がもう24時9分24秒であることに気づいた。
「そろそろ寝ないとな……」
なんとなく、店の中で時計と共にに置かれてある父親の遺影にお参りしてから2階の自分の部屋に入り、眠りについた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
その夜、夢を見た。あの時計の下に父が座っていて、何かもの寂しそうな目が自分に向けられていた……。




