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ep7 先ずは家族3人で



◇◇



 あれから守り石のミレラニ(タンザナイト)の原石を領都ウィドール在る魔法宝飾技師を呼び、ペンダントトップを依頼し、わたしのお披露目会へ向けての準備が、領主館総出で慌しく行われていた。


 唯でさえ夏至祭(ソラリス祭)は、主神であるソラリス神を奉り、ユリウス教会やフローラル王国で祝う長い聖なる祝祭期間で、パリピーな王国民の一大イベント期で、中央(王都)も地方(各領地)も多忙な時期なのだ。

 アーシュレイ領で一番の祝祭は、11月の収穫祭(ヴァンダンジュ)になるのだけども。



 聖なる祝祭は、ソラリス神の力が最大に増す夏至の10日前から始まり、終わるのが夏至の15日後と長期の祝祭だ。(今年は6月15日~7月15日まで)


 アーシュレイ侯爵家領地で、祝福の儀などが重なるので、毎年この時期、母たちは多忙を極める。

 王国中央法院が裁判などが長期間閉廷して休暇を取るのも、王侯貴族たちに夏至(ソラリス)祭を恙なく過ごして貰う為だ。


 夏季休暇って、わたし的には、「陽光輝く眩い夏を暗い城内で仕事とかしたくねぇーわ」と、考えた人たちが提案したバカンスだと、勝手に推測している。



 そんな訳で、ワチャワチャ動き回っている領主館内の大人たちを尻目に、わたしと弟の子供組は、いつも通りに淡々と日々のタイムスケジュール通りに過ごしている。


 起床は5時過ぎくらいで、身支度を整え、7時過ぎくらいに居間(サロン)で弟と朝食。

 平日は、9時過ぎくらいから教育係に一般教養を学び、14時過ぎくらいから16時くらいまで軽食と一緒にティータイムをする。


 午後からは、乗馬やダンス、声楽、楽器演奏など、身体を動かすことを中心に学んでいる。


 弟のジルベールは、剣とかを学びたいみたいだけど、7歳の祝福の儀を受けるまでは、子供用の軽い小さな木剣で、側近見習たちと肉体の負担に成らない程度の剣術を学ぶ。あくまで遊びの一環で、正式に教わってはいない。


 7歳の夏至祭で、一門の1人と認められてから弟は、ローブ(ドレス)から半ズボンへと衣替えをし、幼児から少年に成るのだ。前世ならプライベートな少年式みたいな感じ?(ブリーチング)かな?

 7歳のお披露目会が終わると、男児は半ズボンやトラウザを穿き、女児は髪の毛を伸ばし始め、専属護衛が就くように成る。



 そして18時くらいから自室で、乳母や教育係と教養とマナーを学びつつ、夕食を摂り、19時には就寝。


 冬場だと日が落ちるのが早いので、もっとタイトなスケジュールに成る。



 出来るなら、母や弟と夕食を共に摂れないかと現在、わたしは画策中だ。


 流石に晩餐室で食すのは、背丈的にわたしと弟には無理なので、母に居間(サロン)で弟と夕食を摂りたいとゴネてみたけど、子供大好きの型破りな母でも、中央貴族のマナー的に、許可しずらいモノがあり、却下された。

 


 領主夫妻である祖父母が留守の間は、領主館内での家裁を一任されている母のクラウディアだが、あまりやり過ぎると家令のセバスや侍女長のサマンサからご注進されるので、ビビって、いや、遠慮なさっていらっしゃるのだ。


 どうも嫡男であるジルベールが絡むと、母のクラウディアは、若干ナーバスになってしまわれるようだ。わたしと対する時は、比較的ざっくばらんなコミュニケーションなのだけど。


 まあ、父の母に対する態度を見ると、今後、わたしにジルベール以外の弟妹は出来ないだろうから、アーシュレイ侯爵家の大切な一粒種の後継者として、養育に失敗したくなくて、母が神経質になるのも理解しているけどね。


 でもですね、此の領主館は、広過ぎるのよ。

 (やかた)と言うか、立派な城だからね。どう見ても。



 正門からの正面エントランスホールを中心にして、中央塔から東西に別れた回廊から、西へ西へと増築されて行く豪奢な淡い緑黄の花崗岩で造られた3階建ての新館で或る建物群。


 中央塔だけで、大ホールや演劇室、舞踏室など客室を含めると100を超える部屋が或る大きさだ。意図せず日々を過ごせば、家族と全く顔を合わせられない。


 新館の西側に在る2階は家族の居住区でプレイベートな区域だけど、偶然に顔を会わせるなど、先日、長い廊下と使用人用階段でジルベールと擦れ違ったようなことは、極稀なのだ。


 前世の記憶が戻った今では、それが非常に寂しい。


 白米を食べることを我慢できても、ウエットな情緒感で家族と暮らしてきたわたしには、スペースの物理的広さが、余計に寂寥感を覚えてしまう。

 敷地内には、犬や猫が居ると言う話をセバスから教えられて、吃驚したくらいだし。



 こんなに、わたしって寂しがり屋だっただろうか?そんな疑問を抱いて、自分に自問自答していた。 もしかして7歳の身体の感覚に、気持ちが引き摺られているのかも知れない。


 幼い頃は家族との触れ合いが大切って、前世の価値観に引っ張られ過ぎてるのかなあ。と、前世の記憶が戻るまでは、風変わりで我儘なお嬢様と侍女たちに言われながらも、貴族の子女として疑問も持たずに過ごしていたのを思い出す。


 今は、9歳年上の侍女のエミリアたちに命令口調で話すと違和感が強くて、気を抜くと丁寧口調になってしまって、「ぎょっ!」とされることが幾度もあったり。


 物を運んでもらったり、着替えさせて貰ったりすると反射的に「ありがとう」と、告げてしまったりしている。

 仕方ないよね。


 前世のニホンでは、元々が労働階級の庶民だったのだから、何かして貰ったらお礼を言うのは、もう習性みたいなものだから、開き直って諦めよう。


 下手にお礼言うのを我慢すると、何だか胸の奥がモヤモヤして気持ち悪い。


 わたしの精神衛生の為にお礼の言葉は、侍女のエミリアたちに、聞き馴れて貰うしかない。





 窓から入る盛夏の日差しに照らされた文机の上に置いた、お披露目会に参加してくれる一門の家名リストへ、つらつらと目を通す。



 明日は、弟のジルベールと母とわたしの3人で、午後のティータイムを約束していることを侍女のエミリアに確認を取って、予定に変更のない事を知り、わたしは安堵する。


 悪役令嬢オリビアの不幸な未来を回避する為に、思い付いたことを一気にやろうとしても無理だから、こうして少しずつ前世の記憶と今世の慣習の妥協点を探りながら、改善して行こう。


 ゲームでは無い魔力があったわたしなら、きっと大丈夫な筈。



 そう信じて、母のクラウディアと弟のジルベール、わたしの家族3人で、一先ず、もっと仲良く成って、気楽に話せるようにして於こう。


 目標は、前世みたいに気兼ねなく、互いの部屋へと訪れることが、出来るように成りたいな。 





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