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ep45 重なる溜息





 アーシュレイ侯爵領での建国祭の準備が終わり、祭りの滞在客たちは中央塔で、母が催した晩餐会に招かれている。 わたしとデジレの居る西棟弐階の寝室は、静まり返っている初夏の宵。


 魔石ランプのオレンジ色の灯りに照らされる中、わたしは、可愛らしい透き通った声で話すデジレの忠告に、コクコクと頷いていた。


 魂の友であるデジレは(勝手にそう思っているが)、前世を思い出す前と変わることなく、今世の価値基準で過ごしているように、見受けられた。


 わたしが感じる日々の違和感は、デジレからすれば、危く思えるらしい。


 デジレは肩を竦めて、わたしに聖職者であるローランへ迂闊な失言への注意をしつつ、たっぷりのミルクを足した2杯目のミルクティーを口にした。



 「リビーの言動は、素直過ぎるよね。」

 「えっ?そ、そうかな?」

 「うん。お茶の時間がズレたからとジル様の部屋へ直接突撃しようとしたり。」

 「それは、二日もジルとティータイムが出来なかったからだし。仲の良い弟だから良いかなと。デジレだって、自分の弟セルジュの部屋には‥‥‥。」

 「行きませんが?」




 「それと主の立場でリビーは、コレットに外遊びを強要したり。」

 「違うもん。アレは健康の為、日照時間を増やそうとジルたちやコレットを引っ張っただけだし。それに、デジレだって草花の例え話を出して、渋るコレットを説得してくれたじゃない。」


 「だって、リビーの顔を見たら、《皆で外で遊びたい!》って期待に満ちた表情丸出しだったもの。」

 「うぐっ。寒い庭の散歩だけじゃ詰らないでしょ? 折角、広い庭が或るのだから、外遊びしたくなったのよ。館内散歩だけじゃ、デジレだって退屈でしょ?」





 「それに、、、。」


 と口調を変え、デジレから、わたしにアレヤコレヤのダメ出しを受ける。



 そして、「序でに、私やナタリアへの話ぶりを気をつけた方が良いかも。」と、デジレは思案顔で言った。



 何だろう。

 今まで、気楽に寝室での宵のティータイムを楽しんでいた筈なのに、今夜のデジレは辛口だ。


 もしかして、わたしがポロリと、前世の記憶をローランに自白したコトが、デジレにバレてる?

 ちょっとドギマギして、わたしの目が泳ぐ。



 そして、わたしは窺うように、丸顔のデジレを見る。


 向かいの席に座るデジレが、コテリと小首を傾げた。

 八の字にしたデジレのマロンブラウン色の丸い眉毛を可愛いと思いつつ、魔石ランプの黄色い灯りに照らされ、ハニーブラウンに煌めく瞳とわたしは目を合わせ、、、不意に気まずくなって、ソっと俯き目を伏せた。



 うーん。

 わたしって、そんなに考えなしじゃないと思うのだけど。

 

 そう不服申し立てをデジレにしようとした、、、が、 ──────イヤ、ローランには、ボロボロ言っては為らぬことを溢しまくったセリフが脳裏を過り、わたしは再び沈黙した。

 それから所在ない右手を伸ばして、ミルクティーが残っている薄桃色のマグカップを持つ。



 今まで、わたしとデジレは今世の愚痴を言い合った仲なのに、此の気まずさは何だろう。

 やはり、新たな秘密が増えたせいかしら?




 確かにデジレは、ポンと無遠慮に、わたしが発した言葉を相手に齟齬がないように、言い直してフォローしてくれる。気遣い屋さんで或るのを認めるのは、やぶさかでない。

 (ぐっ、素直に言えない。)


 そして、ポツンとデジレが、室内に言葉を放る。




 「興味が湧くとリビーって、それしか目に入ってないよね?」

 「そ、そんなことは無い、、、デス。お母さまじゃあるまいし。」

 「では、今、リビーが、作ろうとしているものは?」

 「えーと、えーと、ガラスペン?」

 「で、思い立ってリビーが発作的に造って貰ったモノは?」

 「デジレも知っての通り、火鉢セット、サモワール(改)、湯たんぽ。あっ!!!それと缶蹴り用の缶などなど、、、かしら。意外にあるわね。」


 「私が此処に勤め出してからだから、秋から此の初夏までの短期間で、多過ぎない?リビー?まあ、ご当主さまのレイモン様と若奥さまのクラウディア様を救う為だと知っているから、気になったけど、私はリビーに、何も言わなかったけどね。」


 「う、うん。」

 「でもリビー、ガラスペンは不要じゃない?」

 「デジレ、いやデジレさん?あれば便利じゃない?領主館敷地内に居る職人さんに頼めば良いワケだし?それにガラスペンの作り方は、珍しくボヤっと覚えてたし。」


 「フーン。そう。」

 「うんうん。そうなのよ?デジレ?別に商会作って、知識チートウマーって、したいワケじゃないから。」


 「はい、リビー質問です。」

 「ナンデゴザイマショウカ?デジレさん。」

 「今の所、仮想敵であるアリシアに、リビーが転生者だとバレても良いの?」

 「いえ、出来ればバレたくないです。デジレさま?」

 「湯たんぽまでなら、ギリスルーされるかも知れないけど、ガラスペンは、止めて置いた方が良いと思うわよ?リビー。火鉢とかはリビーから聞くまで、私は知らなかったしね。」


 「‥‥‥‥はあ。アリシアは転生者だと思う?デジレ?」

 「分かんない。でも、モブ中のモブである私が、前世の記憶を思い出したんだよ?アリシアにも或るって考えて、リビーは行動した方が良いと思う。」


 「うーん。デジレは、わたしとアリシアが敵対すると思う?」

 「メインヒーローである第二王子のフェリクス殿下狙いだったら、前世持ちだとアリシアと敵対するのじゃなないかなあ。悪役令嬢の障害がないと、光属性の魔力に目覚めて聖女に成れないし、聖女に成れないと王子さまと結ばれ無いよね?」


 「デスヨネー。」



 「「はあー。」」




 宵も更けて、わたしとデジレの2人の溜息が何となく重なり、そろそろ子供が眠る時間と為った。


 2人の溜息で、室内の湿度が、少し上がった気がする。


 明日は、雨が降りそうだ。







◇◇



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