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ep36 猫になる



 「にーにゃ!にゃあ。にゃん。」




 なんか猫が五月蠅く鳴いている。



 わたしは微睡みの中で、ボンヤリとした侭「有り得ない。」と、そう考え、此れは夢を見ているのだ思った。







 昨夜は、デジレからわたしの誕生日プレゼントとして、栞と前世持ちであるとの告白を貰った。


 その衝撃の誕生日プレゼントに戸惑いつつ、デジレへ抱いていた好意の原因を知れて、わたしは心底、納得した。



 ───デジレが、わたしと似た感性だったはずだわ。



 デジレの前世も同じ『ニホン』に住み、おまけに恋愛シミュレーションゲーム『ライラックの花が咲く頃に』をプレイしたことのある記憶が或ったのだ。



 昨夜、遅くまで遂つい、デジレと語り合った。

 もっと語り尽くしたかったが、わたしとデジレの肉体年齢では、夜10時の壁を超えるのが難しく、3時間近くに及ぶ濃密な密談を切り上げた。



 互いに前世でのプロフィール的な記憶は曖昧だったが、鮮明に覚えているゲーム『ライラックの花が咲く頃に』の情報を補完し合えた有意義な時間だった。



 


 「私に何か出来ることがあればオリビアに協力させて!友だちでしょ!?」


 デジレがソファーから立ち上げって駆け寄り、真剣な目でハニーブラウンの瞳に熱を込め、わたしの両手を握りしめ、告げた言葉は、涙腺が決壊するほど嬉しかった。


 この世界で、たった一人きりの異邦人だと、8カ月近く無意識に気を張って居たのだと、わたしの両手を包み込んだデジレの暖かい掌の温もりで、改めて気付かされた。


 前世年齢では、わたしがアラサーとデジレが高2辺りの年齢差だったと知るが、互いに8~7歳である少女の肉体年齢に引き摺られて、「年の違いを殆ど感じないね。」と、互いに苦笑したが。


 まあ今世では、同じ7歳のお披露目会で知り合った仲だしね。

 アラサーだったオリビアの精神年齢は、どこ行った?と淡々と、デジレに突っ込まれたことは忘れて於こう。


 


 「オリビアは私に手伝って欲しいことって何かある?」


 部屋着のワンピースの上から厚いガウンを羽織り、肩に掛ったフワフワのマロンブラウンの柔らかな髪を右手で掻き上げ、小首を傾げてデジレは人の良さそうな丸い目で、わたしをしげしげと見る。



 

 「うーん。そうだね。一先ずは、今年の年末に流行る予定の流感対策かな。デジレも良いアイデアが在ったら教えて欲しい。ローラン先生によると病気の原因が瘴気って考えられてるから、お医者さんってイマイチっぽいし。」


 「あー、ローラン先生はそう言ってたね。オリビアの流感対策は、火鉢を使って、室内の湿度を増やすだっけ?ゲームだと流行病としか説明が無かったのに、オリビアは何故、流感だと辺りをつけたの?」

 

 「勘?発病するのが、冬で高熱が続くって表現があったから。何となく流感だ!って閃いちゃった感じかな。改めてデジレに訊かれると不安に成って来た。どうしよう‥‥‥。」


 「わっ、オリビアを不安にさせちゃった。ごめん。」

 「いや、わたしこそゴメン。デジレ。」




 焦ってわたしをフォローしはじめたデジレの様子に申し訳なく成って、互いに詫び合う状況が急に可笑しく思えて、「ぷっ」と二人で噴き出し笑い始めた。




 でも今更ながら、祖父と母の死因が流感でなかったら、どうしようか、とデジレから指摘され悩み始めた。


 よく考えれば、こっちの世界では、人体に魔力が巡って居るし、それを動かす《祝核》って臓器もある。魔獣の場合は《魔核》と呼ぶらしい。 病の原因が瘴気だとローランから教え直された時、『嘘くさい』と思ったけど、一概に違うと言い切れない───って、デジレとの会話で気付いた。



 デジレから、改めて此の世界では、聖職者で或るローランは比較的情報が入手し安い存在である。そして知識レベルが高いローランは、困った時は頼れる大人であると話した。助言を求める相手としては最適であると諭され、「なるほどな。」と頷き、わたしは納得した。


 前世では、20歳近くも年下なデジレだけど、わたしより冷静で視野が広いかも知れない。



 「オリビアって意外にウッカリしてるドジっ子気質だモノね。」


 あまりな指摘に文句を言おうと思ったが、‥‥‥幾度も自分の迂闊さを思い出し、デジレの言葉に何も言い返せなかった。

 うっ、年下の癖に。



 ローランに対しても胡散臭いイケメンだと思っているので、信頼と言う面では、今一つだし。

 そうグダグダわたしがボヤキ出すと───



 デジレは淡々とした口調で、ローランのプロフィールを開示する。


 ローランは、ユリウス教会の本拠地であるユリウス大聖堂から派遣され、一応あらゆる学術のトップであるグノスィ大学を卒業し、その伝手もある。(あくまでデジレの推理) それに頼るのが合理的だとわたしに宣った。


 

 

 それより何よりローランは、わたしの問いに真面目な答えをくれない気がする。‥‥なぜか第六感で。



 そんなことを、流感(インフルエンザ)だと決め打ちしていたことの誤魔化そうと、わたしはポツポツとデジレに言い訳をした。


 「教会なんて情報の集積地なのに、、、。」とは、前世で高校生だったデジレの言葉。そんな(ローラン)と個人的に付き合えるなんて一種のチートじゃないかと羨望の声を上げ、わたしの第六感をデジレは鼻息で吹き飛ばした。



 「次は万が一を考えて、オリビアはヒロインとの同居を回避する手段ね!うーん。」



 デジレは、元居た場所へと戻り、腕組みし直して、ソファーへと腰掛けた。


 いやあー、デジレ、、、デジレさま?

 わたしは、その万が一を考えてくなくて、動こうとしているのだけども。


 聞こえてる?デジレ。



 考えに没頭していたデジレが、パチリと瞼を開いて、ソファーで前屈みになって居た背筋を真っ直ぐに伸ばした。


 デジレは、祖父と母が亡くなっても、父がヒロインの母親と再婚しなければ、悪役令嬢(オリビア)としてのわたしの役どころが、かなり減ると考えて居るみたい。



 「悪役令嬢って準主役のポジションでしょ?下手すると攻略キャラ(ヒーロー)より重要度が高いしね。オリビアをモブ化させると不幸(シリアス)度が減りそうでしょう?」


 とはデジレの弁。


 確かにわたしも父のロベールを飛ばして、弟のジルベールを次期侯爵したら良いのに、って考えたこともあるけれど、それは祖父や母の死を受け入れるって言うのとは別問題。


 

 「それは判っているつもりよ。オリビア。でもイザと言う時の為、オリビアは次期侯爵ロベール様の再婚を阻止する手段も考えて居た方が良いと思う。まあ、私も直ぐに良いアイデアは、浮かばないのだけどね。」


 少し笑ってデジレは、わたしの方を向いた。


 


 それから、今まで誰にも話せなかった父ロベールの悪口を心行くまでデジレと語り合った。

 出来ることなら、母のクラウディアを女の子同志のパジャマパーティーに、呼びたいくらいだった。




 他には、互いの推しメンを打ち明け合ったり。

 デジレは、悲運の攻略者であるジルベールが推しだったと意外な性癖を暴露。

 わたしの推しは、、、フツウにメインヒーローである第二王子のフェリクスだったことを告白させられたり。それについてデジレからは、面白みに欠けるとデジレに揶揄われたりした。



 ホントに前世は、花も恥じらう十代だったのかと半目になってデジレに愚痴ってみた。








 そんなこんなの気取らない話し合いを夜遅くまで続けて、ベットで微睡んでいる所へ、「にゃあにゃあ。」と猫の鳴き声である。


 わたしは掛け布団の中から目を瞑った侭、もそもそと身体を動かし、右手を伸ばしてナイトテーブルに在る装飾過多のメガネケースを取り、いつものように手探りでメガネを掛けた。

 

 そして目を開けると‥‥‥。


 半透明で淡い水色の不思議生物『モドキ』は、フヨフヨと浮く耳の小さなペルシャ猫、、、ぽいものに成って居た。

 淡い水色の猫なのに、顔はブルドック系で、性格が悪そうだ。




 結局は、妖精『モドキ』が猫『モドキ』に変化しても「ニャンニャン」って鳴いているだけで、状況は変わらず。

 デジレには、全く見えて無さそうなので『モドキ』についてや光の眩い粒子たちについての話をしていない。


 ゲーム『ライラックの花が咲く頃に』についての相談が出来る友人が出来て驚喜していたのに、目覚めたら、小さな猫モドキがフヨフヨ「にゃあにゃあ」と目の端で浮いている状態。


 「ままならない。」


 わたしはそう呟いて侍女のナタリアたちが来るのを薄目を開けてぼんやりと待っていた。




◇◇


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