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ep21 ざっくりフローラル王国建国史


 ◇◇



 ニューアイテムの金縁メガネを装備して、朝食後に教育係のミランダから午、前の授業をデジレとコレットと共に自室で受ける。


 元王宮の女官で、現在独り身のミランダは、前世で言う所のキャリア・ウーマンだ。



 わたしの苦手だった乳母のドロテアから「破壊者」と蔑視されていたミランダは、フローラル王国で珍しい離婚経験者でも或る。


 基本的に離婚が許されていないフローラル王国で、教会からの婚姻審問で離婚が赦されたのは、ミランダの不貞に因るものらしい。


 わたしが断言せずにらしいと言葉を濁すのは、高位貴族としての矜持の高い祖母ミッシェルが、わたしの教育係としてミランダを選んだからだ。


 乳母のドロテアの言う通りの人であれば、祖母のミッシェル侯爵夫人が、アーシュレイ家に招き入れることなどしないだろう。

 表沙汰には出来ない裏事情と言うヤツに、好奇心がムクムクと湧き上がるけど、祖母の生家から来たドロテアにも詳細が秘されていることを考えると、迂闊にミランダ本人に話しを聴く訳にもいかない。


 母のクラウディアは、理由を了承していそうな気もするのだけど、7歳のわたしには未だ話して呉れないだろう。偶に猫をも殺す好奇心が頭をもたげることもあるけど、前世で大人だったわたしが、『下衆いわよ、オリビア!』と、内心で自制する。



 お披露目会前に辞した乳母のドロテアは、「淑女として」が口癖だったけど、幼女のわたしに下世話な噂話を聴かせる人だったコトを思い出し、ミランダの聞き取りやすい澄んだ声を聴きながら、遂、遠い目をしてしまった。


 ミランダは、赤褐色の髪をひっつめにし、首元を覆った白い襟に濃いグレーのウールジャケットと黒いドレープの少ないシンプルなスカートを穿き、禁欲的な格好をしているのに微かな色気を感じさせる。


 派手さは無いけど整った顔立ちと澄んだ声は、硬質さを感じるけど、他人に拒否感を与えない魅力的な中年の貴婦人だ。


 40代女性を中年と呼ぶのは、是々非々が或るだろうけども。


 本来なら7歳からの家庭教師は、神学校出の神父に依頼するそうなのだが、才女である教育係のミランダが、典礼言語などの語学だけではなく、史学に於いても優秀だった為、彼女から教わっている。

 流石に後継で或る弟のジルベールは、7歳に成ったら司祭や助祭から専門教育を受けさせる予定らしい。


 そんな教育係のミランダは、最近コトに力を入れているのが、フローラル王国の建国史と名門貴族の家門史との複雑な関わり合い。

 慣例で10歳になると、中央での茶会へと、参加するようになる為だ。



 ゲームでは、10歳になったら王都パルスのタウンハウスへと引っ越したけど、慣例的に春夏の社交シーズンは高位貴族の子女なら10歳で王都へと行き、滞在するそうだ。

 でも、王城で催されるパーティーとかには、未だ参加が許されない。てか、招待状も届かないし。




 聞き取りやすい声音で、前回習ったフローラル王国建国が起きるまでの西アトラスの歴史を教育係のミランダは、わたしたちに諳んじてみせた。


 広いライティングデスクの上には、A4判ほどの大きさの植物紙に流麗な文字で、ミランダが纏めたものが置かれている。

 壁際に移動させていたサイドテーブルをわたしの近くに於いて、デジレとコレットも丸い椅子に座って大人しくミランダの声を拝聴していた。

 後で、この要点を纏めたテキストを2人に写させて上げよう。






 ──────  700年前の大浄化後、ソラリス神と13人の使徒。そして女神レテに寄りアトラス大陸は再び、人々が暮らせる地へとなった。


 地に溢れていた魔物は中央に出来たアトラス山脈の地下深くと現フローラル王国とエスパニア帝国の間にあるノワール大森林へと追いやり、封じた。

                     ──────創世記1章──────



 使徒の末裔たちが様々な国を興し、500年前に第一の使徒の末裔ユリウスがソラリス神の教義を纏めた聖典を創り、信徒たちへと広めた。

 アトラス大陸の中央に位置し付属海を臨むロベリア半島から興ったロマン国は、次々と他国を吸収し、ロマン共和国になり、アトラス大陸全土に版図を広げる。 ロベリア公国でユリウス教が民衆に認知された頃、ユリウス教をロマン共和国が国教と定め、ユリウスが初代ロベリア教皇となり、オクタヴィウスがロマン帝国の皇帝となった。


 ユリウスの名を冠したのは、神の名をみだりに扱うことが憚れたため。



 《バッサリと省略》




 約300年前─── アトラス大陸でロマン帝国が分裂。大シスマでユリウス教は東西に分裂。


 約270年前─── 西ロマン帝国が継承戦争などで、各領主たちが独立を始める。


 約250年前─── 西のユリウス教は世俗との関りを最小限にし、教会の聖職者の婚姻を禁止する。(※但し神殿の神徒の婚姻は可。光属性同士の婚姻は不可。)‥‥‥西方宗教協約を制定



 約250年前─── 西ロマン帝国がオベリスク帝国にとなる。7つのオベリスク皇帝の選帝侯領邦があり、12の属国を持つ。



 約220年前─── オベリスク帝国が二分され、カナーン王国に成り、そして北西にプロメシア王国が出来る。



 約83年前─── 正統な13使徒の末裔フルーブ伯爵家の当主がカナーン王国の王家を倒し、フローラル王国を建国する。



  


 そして初代ロイス・フルーブ伯爵は、カナーン国王の『またいとこ』の『またいとこ』の婚家の弟だと言う御仁だった。


 この時作ったとされる世界に一冊しかない奇書、フルーブ伯爵家系図は、変態的なコレクターの垂涎の的である。


 うさん臭さしかないフルーブ家系図は、当然ユリウス教会の承認を得られなかったが、戦上手と人たらしだった初代ロイス・フルーブは、カナーン国王を弑逆するとロベリア教皇と協議し、フローラル王国を建国して、教皇からロワ(王)の称号を得、(ユリウス)歴413年、初代ロイス・ロワ・フルーブ国王となった。

 ちなみにフルーブ伯爵家の爵位はカナーン王国の国王より叙されていた。




────── 正史では、カナーン王家の腐敗と圧政に苦しむ人々を救う為、フルーブ一族が立ち上がり、悪の親玉だった王侯貴族たちを倒した。 そしてカナーン王国の安定を目指す為に、ユリウス教を改めて国教とし、ロベリア教皇と平和への礎を創り、ライラックの花が咲き誇る5月にフローラル王国を建国した。



 わたしとデジレとコレットは、養育係のミランダから初代フルーブ国王の笑ってはいけない誕生秘話を聞き、正史にはない楽しいフローラル王国を建国史を学んだ。



 絶対にミランダは、個人的に初代ロイス国王陛下が大好きなんだろうなあと、思わずには居られなかった。



 流石に不敬に当たると考えてかミランダが要点を纏たテキストには、その記述は綴られて居なかったけども。

 それが非常に残念だとわたしは思った。


 


◇◇



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