表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/38

ep18 モドキ




 謎の不思議生物に憑りつかれてから、顔色を悪くし妙なことを口走るわたしを心配した侍女のナタリアと護衛騎士アッシュたちに2人乗り用の馬車へ押し込まれ、泉から雑木林を抜け、一路、領主館を目指した。


 アッシュにわたしはお姫様抱っこされ、私室のベットに寝かされ、アーシュレイ侯爵家の専属医に、体調をチェックされた。


 「うーん。オリビア様に熱はなのに、見えないものが見えると妄言を発せられるとは。問診中は気がふれている様子もなかったですし、暫く経過観察せねば成りませんね。若奥様。」


 医者は、尤もらしく心配して駆け付けた母へ、重々しくわたしの診察結果を説明した。




 いや。

 わたしって、頭は悪いけど、おかしい訳じゃないからね。タブン。


 泉で、皆が妖精モドキを見えないと口を揃えて断言した時に、素直に口を閉じれば良かった。

 

 今も目の前で、フヨフヨと浮いている真ん丸い目をした無表情の半透明な薄い水色の生き物をジトリと睨みつける。

 キラキラとした輝くエフェクトを振りまきながら。

 ──────眩しい、、、。


 ちっさな(わたしの小指の半分大)妖精モドキは、何か話して居るけど、翻訳不可。

 八頭身で無表情なのが、なんか腹立たしい。

 キューティクル抜群な水色のロン毛に、なんで逆三角形の理想的な小顔に、真ん丸い目で鼻が無く糸くずみたいな口をしているのだ。

 ソラリス神の手抜きなの?この生き物は。


 

 もしかして、野良の幽霊だったり?


 そして相変わらずキラキラエフェクトの所為で視界が悪いし。


 『気がふれているワケじゃない!!!』


 苛立ちで医者にそう叫ぼうとして、「むぐっ」っと発しようとした言葉を飲み込む。

 酔っている人や頭のヤバい人が「そうじゃない」と否定している様が、わたしの脳裏を過ったからだ。


 見えない人たちに視えると言っても無駄なのだ。

 だって視えないし。


 わたしは諦観して小さく息を吐き出し、この妖精モドキを縮めて『モドキ』と内心で呼び、混乱させられたことで「頭のおかしな令嬢」医者から誤診された苛立ちに対して、微かな留飲を下げることにした。


 母クラウディアの心配で揺らぐパールグレーの双眸に、罪悪感を抱きながら。



 



◇◇




 泉に居た時よりもキラキラと輝くエフェクト粒子は減り、薄い水色で透明だったモドキは、半透明に成っていた。


 一週間ほどは侯爵邸の専属医から「安静に」と言われて、ベットで大人しく横になっていなくてはならなかったが、キラキラと光る周囲とモドキの存在にわたしは慣れた。

 と言うか、慣れたコトにした。



 こんな時に、曖昧でもアラサーまで生きた前世の記憶が戻って居て良かったと、しみじみ思う。


 精神的に幼い7歳の少女だったら、此の状況に口を噤むことなどしなかっただろうから、対面を重視する侯爵家では、何処かに軟禁される未来しか想像ができない。


 館の回廊に飾られた神話をモチーフにした精霊の絵画では、モドキに似たモノは存在しなかった。

 またプライベートな2階の書斎に或る本にも、モドキの存在を表記した書籍は無かった。


 もしかしたら東棟に在る図書館には、羊皮紙へ記されているかも知れないけど、今の年齢では入室許可が下りないだろう。


 それに、今回のことで領主館の専属医は、余り当てに成らないと知れたし。


 やはり、当主である祖父レイモンと母のクラウディアたちが死なないように、第一は流感に罹らないよう免疫力を上げたり、高熱で重篤化しないように持病の改善を目指して貰うしかない。



 ──────『未だ50代のお祖父さまや20代半ばのお母さまが、流感が重篤化して死去するなんて、それ以外で考えられないもの。』──────




 わたしや弟のジルベールが、不幸を回避する為の第一歩目を踏み出すのに、謎の不思議生物モドキなどへ構っている暇はない。

 わたしは、『モドキ』を居ないモノとして扱うことを改めて決意する。








 狩猟シーズンの終わり晩秋(10月下旬~11月上旬)の頃に、王領の猟場での狩猟大会が催されるため、祖父のレイモンと祖母のミッシェルが現在、再び領主館を留守にしている。

 恐らく父のロベールも王都パルスの愛人宅から貴族の務めとして参加していることだろう。


 狩りと言うより野外での秋の社交であると教育係のミラベルが話していた。


 この日の為に、各領地から捕獲した獲物と成る野生動物や野鳥を会場となる猟場へと放つ。動物に取っては迷惑な季節でも或る。


 平地では乗馬スキル。

 森林などでは、猟犬とのコミュニケーションと指示。

 急所を射る弓術などなど、男性には血沸き肉躍るイベントだそうで、三日間掛けて行われる狩猟や弓術の精霊ディアナを祭る大司教や国王も参加する名誉ある神事。


 女性は安全な場所で、お茶をしながら、彼らを応援し見守っている。


 そして仕留めた一番の獲物を崇拝する女性へと捧げるのだ。一番大きな獲物を捧げられた女性がその年の美の精霊でも或るディアナとして貴ばれ、教会から黄金の林檎が与えられる。

 独身の淑女だけではなく婚姻している貴婦人でも美のカリスマになれる為、王侯貴族の人気が高いイベントだ。


 処世術に長けた貴族であれば、王妃や王女へ捧げてポイントを稼いだりもする。



 王都などの街では魔法を使うことが禁じられているけども、猟場では矢に一定のルールで、それぞれの属性魔法を付与することが認められている。


 参加者本人が付与することが出来なければ、各領地でお抱えの司祭や助祭たちなどに、属性魔法付与が認められている。




 『ホントにフローラル王国民たちって、お祭り好きなパリピーな住民が多いなあ。』


 教育係のミランダからフローラル王国の歳時記を学びながら、春から冬の一年に渡る祝祭と季語を書き取り、祖父母たちが留守ま理由に、想いを馳せる。


 時折り、フヨフヨと視界に入る『モドキ』は、安定の無視をしている。



 「オリビア嬢、文字が見え辛いですか?」

 「え、ああ、ミランダ先生。どうも文字が滲んで仕舞って。」

 「大変ね。そう言えば視力の悪い人の補正器具を教会で取り扱っているらしいわ。クラウディア若奥様に伝えましたから、近々オリビア嬢へ用意されると思いますわ。」


 「・・・あ、ありがたく存じます?ミランダ先生?」



 コレって眼鏡で治るモノでは、無い気がするのだけど。


 相変わらずキラキラ輝く周囲に、苦労しているわたしだ。




 意味不明なエフェクトのお陰で、目を眇めてモノを見る癖が付いてしまって、わたしの目付きがかなり悪く成ったと侍女見習兼友人のデジレとコレットが宣う。


 こんな所で悪役令嬢補正が発動するのか!!


 そう内心でデジレに悪態を付いてみる。


 教会はメガネ屋も遣っているのか、、、。聖職者たちのその手広さに感心し、教育係のミランダが発する朗とした声を聴きながら、悪筆に成ってしまう羽根ペンの先を目頭に力を入れて見る。



◇◇

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ