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ep13 結婚について考える




 「えっ!?エミリア、婚約したの?」

 「はい。先週のことです。ヴァーウ祭(ぶどう祭り)で休暇を頂いた時に、ミッシェル奥様からの紹介で。」


 

 未だ夏の青葉が活き活きと残る庭木を目の端に捉えつつ、サロンへと向かう2階の廊下を歩きながら、わたしの後ろから着いて来る侍女のエミリアの話を聞いて驚く。




 わたしの住むフローラル王国では、7歳で迎える祝福の儀を終えると各家でお披露目会を済ませ、9月に始まるヴァーウ祭から子息子女たちへの婚約話が水面下で行われる。


 その時、領地内に住む寄り子たちの未婚の子弟の縁談話を祖父母たちが纏めるそうだ。


 昔は顔も見ずに主家から決められた侭、嫁がされて居たらしいけど、昨今はヴァーウ祭の時に一度顔合わせをし、最低3カ月の婚約期間を経て、婚姻するそうだ。


 わたしの専属侍女であるエミリアの場合は、婚姻可能年齢である16歳である為、3か月後の12月に婚姻する予定だと言う。


 

 「16歳で婚姻て早くない?」


 わたしは思わず、長年に渡り仕えて呉れて、慣れ親しんでいるエミリアへ問い掛けた。



 「普通の事ですから、決して早くはないかと。此処に居る残り一月の間に、コレットとデジレへ出来る限りのことは教えて行きますから。それに先輩のセリーヌ嬢は、未だ残られるようですから、お嬢様の心配は御不用かと存じます。」


 「そうかも知れないけど。わたしはエミリアが居なくなるのが寂しいわ。」

 「オリビアお嬢様、、、。」



 未だあどけなさが残るエミリアは振り返ったわたしに戸惑った声を漏らし、くしゃりと表情を歪ませた。


 わたしは考えなしに発した言葉を『しまった。』と後悔し、急いで二の句を続けた。



 「あ、あの。別にわたしはエミリアの結婚を喜んでいない訳じゃないのよ。誤解しないでね。お祖母さまから紹介されてから、3か月後に婚姻て急だなと感じただけなの。だから婚約おめでとう、エミリア。」


 「承知しております。お嬢様。」


 わたしの言葉に頷いて、エミリアは照れ臭そうに「ありがとうございます。」と、お礼を述べた。


 どうも前世の感覚に引き摺られて、迂闊な言葉をポロポロ零してしまう。

 気を付けないと駄目ね。


 でもエミリアは、わたしが4歳から傍に付いていてくれた侍女だから、寂しいと思うのを許して欲しい。

 のんびりして見えるのに、必要最小限の会話で着たいドレスを察して選んで呉れる、出来る侍女でもあるので、手放したくないと言う利己的な側面が或るのだけども。

 コレってわたしの我儘ですよね、ゴメンナサイ。エミリア。




 アーシュレイ侯爵領のパニシェ子爵令嬢であるエミリアは、西に隣接した広大なクロノア公爵領の子爵家へとエミリアは嫁ぐ予定。因みにクロノア公爵領は、祖母ミッシェルの出身領地でも或る。


 そしてエミリアより1年先輩のセリーヌは、家庭の事情で、未だ暫くは婚約予定がないので、新たな後輩に当たるコレットとデジレの面倒を見てくれると言う話。

 エミリアに、セリーヌが婚約しない家庭の事情を尋ねても、モゴモゴと言葉を濁されたので、好奇心での身上調査を諦めた。

 まっ、わたしに必要なコトがあれば、母から聞かされるだろう。


 母のクラウディアは16歳で父と婚姻して、17歳でわたしを出産した。この世界は、大人に成るのが早い気がする。 だって前世なら高校生だよ。


 此の世界での早い婚姻理由は解らなくもない。

 出産した後の女性の死亡率は、裕福な貴族たちの家でも高いし、乳児の早逝率も高い。それだけが早婚の理由では無いが、1人目を無事に出産できると2人目も授かり易いと言う経験則で、現在に至っている。


 特に高位貴族の場合は、政治的な兼ね合いや王家も介入して来るし、娘の気持ちなど羽根の如く軽い。


 当主で或る祖父レイモン・ド・アーシュレイ侯爵によれば、教会法での相性とを鑑みて、わたしの婚約相手を今は検討中だと、母のクラウディアが穏やかに話してくれた。



 「早くても恐らく来年春の社交シーズン以降になると思うわ。ヴァーウ(葡萄)祭が終わって一月(ひとつき)もすれば、狩猟が解禁になって、お義父様たちは狩りで忙しくなるから。一応はリビーの提案した貴族学園での出会いの件は、家令のセバスと伝えてみたけど、余り期待しないでね。」


 とのことだった。


 後に、母の専属侍女であるメアリーからコッソリとわたしに耳打ちされたのは、、、。

 存外、嬉しいコトだった。



 「クラウディア様は、ご自分と夫であるレナール卿との不仲を侯爵閣下へと伝えて、最低でも顔合わせを済ませてからの婚約を、と願い出ておりました。いつも冷静な閣下が、苦虫を噛み潰したような表情になった所を、オリビアお嬢様にもお見せしたかったです。」


 そう自慢げに、わたしへと囁いて、豊満な胸を張るメアリーの笑顔は眩しかった。


 息子レナールの不貞を理由に、舅レイモンを恫喝する嫁のクラウディア。それが娘であるわたしの為だと思うと胸の奥がじんわりと温かくなった。


 見掛けの線は細いが腕力マニアで脳筋な母と言う残念なイメージだったが、必要とあらば交渉力を持つ胆力も備えた女性と知れて、わたしは誇らしい気持ちに成ったのを思い出す。


 嫁の立場で、当主にモノ申したのは、凄いとしか言いようがない。



 ──────実はかなり後に成って知るのだが、祝福を得た子を出産した母親は、家内での発言力が増していたらしい。其れをわたしが知るのは、弟のジルベールが7歳の祝福の儀で、魔力が発現した時に成るのだが。そのことを知らなかったわたしはキラキラとした憧憬の念を持って、母のクラウディアを見詰めていた。幾度かは「うん?お母さま。それは短絡的なのでは?」という母の言動を垣間見たけど、祖父母が留守の期間だったので、わたしは見なかったことにした。──────




 水属性のわたしの場合、教会法で禁忌とされている火属性の魔力持ちとは婚姻不可。

 その上に王国法を加えるなら、83年前のフローラル王国建国以来、二等親内の近親婚は禁止されている。



 ゲーム内のオリビアが火属性のセドリックと婚約していたのは、祝福の儀の判定で魔力属性や保有量が、黒い魔晶石盤に現れなかった為だろう。




 それにしても不幸を回避するには、現実で結婚について、7歳の少女が真面目に思案せねば成らないとは、、、。わたしはゲンナリ半目に為りそうなのを、目頭に力を入れて耐える。



 強い日差しが差し込む広く長い廊下をエミリアとサロンへ向かって歩きながら、密かに溜息を吐いた。




 

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