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ep12 あくまでお願い



◇◇


 ドキドキのお披露目会が終わり、季節が1つ移って、聖なる果実ヴーウァ(葡萄)祭の始まる季節に成り、緑だった樹々の色が、朝夕の涼しさに僅かずつ黄色く彩られる。


 緊張していた侍女見習になったばかりのコレットとデジレは、日々の日常に、やっと慣れて来た。未だ出来ることは、先輩の侍女見習ナタリアには及ばないけど、2人とも真面目だから、きっと大丈夫だと思う。


 母のクラウディアから教えられたけど、わたしと同じ年のコレットとデジレは、侍女長のサマンサから認められると、13歳から入学する王立ロイス貴族学院へ共に通うことになって居る。


 学院の寄宿舎へ連れて行ける使用人は1人だけ。

 その不便さを解消する為、高位貴族の子息子女は、同年代の身近な寄り子の子弟を学友として、寄宿舎へと通わせるのは、公然の秘密だったりする。


 本来なら、アーシュレイ侯爵家の縁者、そして祖母ミッシェルと縁が深い公爵家と近しい伯爵家の令嬢が選ばれるハズだったが、母のクラウディアと教育方針が合わず、家令のセバスと話し合い、ロザリーの第四子、次女のデジレ・ヴァーニュ男爵令嬢と、セバスの孫である第2子、長女のコレット・エミルゴン伯爵令嬢を側近候補とした。


 弟ジルベールとは違い女児のわたしは、てっきりご学友なる側近候補は、居ないものと勘違いしていた。まさか学院の寄宿舎生活で不自由な想いをさせない為に、母たちが同年齢の子女を用意して呉れていたとは思わなかった。

 そう言えば、お披露目会で弟ジルベールの側近候補のエミールが、真面目な顔をして気取って挨拶をしていた様子を思い出す。



 そして知る。


 悪役令嬢のゾロゾロいる取り巻きは、こうして作られて行くのかと。


 これでは親の立場的に、学友へと選ばれた子女は、わたし(悪役)の命令を拒否れないわよね。

 妙に納得。


 プラス、お披露目会に来ていた子たちの半数近くが、王立ロイス貴族学院へ入って来て、建前的にはわたしの派閥と見做されちゃう。


 敵愾心バリバリだったクラリス・シッタール伯爵令嬢も、学院ではアーシュレイ侯爵家の一門とみられるのかと思うと、胸の奥にモヤモヤとした変な不安を感じてしまう。


 わたしは母が、伯爵令嬢で或るクラリスを侍女見習から外してくれて、心底ホッとしていた。


 『もしクラリスと口喧嘩などしたら、気弱なわたしが負けちゃいそうだしね。』


 

 折角、苦手だった乳母のドロテアがお披露目会を契機に職を辞して、精神的に余裕のあるこの時期に、敵意ある新たなストレスを増やしたくない。

 わたしの第六感が告げる。

 (クラリスは敵になると。)



 侍女たちを統括している侍女長のサマンサと乳母のドロテアは、中央の高位貴族らしく有れと、家族での交流は節度を厳守した宮廷風を望む。


 と言うか乳母のドロテアは、宮廷人らしく出産後、乳飲み子を教会に預けて、乳母としてアーシュレイ侯爵邸に来たのだけどね。


 そんな価値観の侍女長サマンサと乳母のドロテアたちと、子煩悩な母クラウディアとが合う訳もなく、ジルベールを出産後、子育てに関しては母の我を通すことにしたらしい。



 実際の所、王都パルスから馬車で三日も離れたアーシュレイ侯爵領をメインな生活の場にしているコトが、侍女長サマンサや乳母ドロテアたちの不満の根本な気がする。


 母がジルベールを懐妊してからは、王都パルスへ一切、足を向けることがなかったみたいだから。



 母のクラウディアさえ、確りと次期当主である夫ロベールの心を掴んで居れば、3月~7月末までの春の社交シーズンと夏のバカンスを社交の中心である王都のタウンハウスで過ごせた筈と、侍女長のサマンサと乳母のドロテアは思って居そう。


 ‥‥‥アーシュレイ領主館でイキイキと過ごす母に対して、ちょっと八つ当たり気味だったし。


 母が、領主館で暮らすことを主張したとしても、家政人事の振り分けは、祖母のミッシェルが侯爵夫人権限で決めたのだから、母に嫌味で当たるのは、まさに八つ当たりと言うもの。

 娘のわたしに言われても、「知らんがなー」と思うほかない。


 嫁姑バトルではなく、慣習の違いによる中央貴婦人x辺境伯婦人の戦いだもん。面倒なコトに。


 唯でさえ、父のレナールが、愛人に夢中で領地に全く戻らない状況を領主館で憐れんだり、母やわたしたちを冷ややかな目で見る使用人たちも居るのに、此れ以上ややこしい大人たちの思惑なんて、ノーサンキューだ。






 2歳年下の弟ジルベールが生れてからは、母のクラウディアも腹を括ったのか、父のレナールを見限り、王都での社交は当主夫妻の祖父母に任せ、母は領地内での地方領主たちと社交に励み、キッパリと別居生活へと舵を切った。


 フローラル王国では、教会法で縛られている為、基本的に離婚が出来ない。 死別か、初夜から3年以内に子を成さない妻とは別れられるけどね。ウチの両親の婚姻は、王命なので、後継は必要だったとか。


 前世の記憶に目覚めて侍女のエミリアたちに離婚について尋ねたら、「妻の不貞」を夫側が教会に訴え、審理結果で妻の不貞が認められると離婚可らしい。

 ‥‥夫の不貞は問われ無いとか、離婚の申し立ては夫側のみとか、なんじゃそりゃな世界。


 祖母のアーシュレイ侯爵夫人に信頼されているからと、家政婦長の人事まで口出していた侍女長のサマンサは、3月~8月まで王都のタウンハウスへ祖母に付いて行っていた。


 しかし待望の嫡男が生れてから、祖母より6歳若い侍女長のサマンサは、母やわたしたちと領主館でお留守番を祖母に命じられてしまった為、何やら悔しかった模様。



 『知らんがなあ』と、もう一度ボヤイテしまうわたしは悪くない。


 案外、祖母は、生家の公爵家から付けられたサマンサのことが苦手だったりして?




◇◇




 未だ夏の熱を持った風が、中庭を見下ろす2階のサロンへと吹き込んで、少し汗ばんだわたしの項をサワサワと撫でて行く。


 先程まで、教育係のミランダから自室で一緒に学んでいたコレットとデジレと共に、わたしはティー・タイムを過ごして居る。

 後30分もすれば弟たちも、お腹を空かせておやつを求めて、此のサロンへ遣って来るだろう。



 風がそよぐたびにふわふわと棚引くマロンブラウンの柔らかな髪を揺らし、柔和なハニーブラウンの目を細めて、男爵家での兄姉の暮しをデジレは、楽し気に明るい声で話している。


 男爵令嬢で或るデジレが話しにくそうにしていたので、コレットとデジレには気取らずに話して欲しいと名前を呼び合うように頼んだ。

 これは命令ではなく、あくまで「お願い」である。



 伯爵令嬢で或るコレットは頑固に「主家のお嬢さまですから、、、。」と抵抗して居たけど、「同じ年の友達だから!」としつこくお願いし、最終兵器である彼女の祖父セバスの名前を出して、無理矢理納得させた。


 専属侍女のエミリアたちや見習いだったナタリアは(また困らせて)と、ジト目でわたしを見ていたけど、気にしないことにした。


 だってコレットとデジレは、これから長い時間わたしの近くで過ごすように成る子たちだし、早めに素で喋れるように成って居た方が、精神的に楽だしね。


 ソレに2人とも、わたしの名を利用する、虎の威を借りる狐タイプには思えなかったし。



 「メイドが2人しか居ないので、先々週に私が屋敷へと戻ったら大変で。」

 「確か一番上のデジレのお兄さまが、学院の寄宿舎へと引っ越されると話してたわね。」


 「はい。オリビアさま。家を仕切っていた長女のコラリーは、王都に在る侯爵様のタウンハウスで、王宮勤めの為、行儀見習をしに行っているので、実家での手が足りなくて、結局は私が土曜日に帰り、日曜日いっぱい引っ越しの手伝いをさせられたのですよ。兄のイアンは相変わらず動かないし。」


 「それは、デジレもお疲れさまー。そう言えば弟のセルジュも、お母さまのロザリー夫人も、領主館で仕えて貰っているから、デジレには申し訳ないわね。」


 「いえいえ。近所の人たちからは、領主館で働けることを羨ましがられているのですよ。オリビアさま。私や弟のセルジュは、こんな立派なお屋敷で過ごせますし、食事や衣服の心配もしなくて済むし、助かっています。兄のイアンも貴族学院の騎士学科に通えるようになりましたから、侯爵家サマサマです。一介の地方の極小男爵家で、王立ロイス貴族学院に入れるなんて大出世です。」


 「大出世って、、、。デジレのお兄さまの此れから次第だと思うけど。」

 「ふふ、そうですけど。家では動かない兄ですけど、折角のチャンスなので、学院では頑張ると思いますよ。」


 デジレは屈託ない笑顔をわたしに向けた。


 何故だろう。

 話して居て思うのだけど、デジレってわたしと波長が凄く合う。


 新たに出来た友人との気楽なおしゃべりを弾ませて、わたしは蜂蜜を落とした甘いエーデルフラワーのジュースを口にした。



 ◇




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