ep1 はじまりの始まり
ふわっと書いてみました。念のためR15を設定しています。よろしくですm(__)m
わたしは、ここフローラル王国のアーシュレイ侯爵家の第一子オリビア・アーシュレイで、幼気な7歳の少女である。
因みに前世でアラサーだった記憶が薄っすらと残っている。
前世の記憶を思い出したのが、一日前の夏至祭に領都の聖堂で行われた祝福の儀の最中だった。
祝福の儀とは ユリウス教の聖堂で、黒の魔水晶盤を使って、魔力測定を司祭さまから受けることだ。
婚姻やら進むべき将来の指針となるモノで、この世界では魔力の有無や属性は重要視されるらしい。
とは言っても普通の貴族は、実生活で魔力を使う事ってないけどね。
教会では黒い魔水晶盤で示される魔力を祝福と呼び、魔水晶盤に現れた色で魔力属性を司祭に寄り固定化される。これを行わないと魔法が使えなくなる。
但し、教会の黒い魔水晶盤で魔力が判定できなくても、血液と同じく人体に魔力は巡っている。
そしてわたしは、とある恋愛ファンタジーゲームの義理の妹であるヒロインをイジメるラスボス的ないわゆる悪役令嬢だった。
【ライラックの花が咲く頃に~ファーストダンスはアナタと~】は、ヒロインが選択肢イベントをクリアする微ファンタジーテイストなモノで、メインは4人のイケメン攻略対象者とのキャッキャウフフな学院恋愛シミュレーションゲームだ。
美形な4人の攻略対象は、知的な第二王子フェリクス、年下枠な宰相の令息エルヴァ、王宮近衛騎士団第二師団団長の熱血な令息セドリック、唯一結ばれない悲恋のキャラに成るオリビアの弟で、ヒロインの義兄ヤンデレなジルベールたちとのシンデレラ・ストーリー。
難易度は第二王子フェリクスが一番高くて、側近であるエルヴァ、セドリック、ジルベールたちの好感度を上げ、わたしを含めた4人の攻略対象の婚約者たちからの嫌がらせでピンチになり、光魔法を発現させ聖女に成って、ライラックの花が咲き乱れる学院のダンスパーティーでダンスに誘われ、告白されてヒロインはハッピーエンドだぜ。
どう考えても他3人の攻略対象者は、第二王子を落とす為の当て馬だったよなあ。
わたしを含めた4人の攻略対象の婚約者たちは、生徒会主催のダンスパーティー前に断罪され、婚約破棄されちゃうと言う碌でも無い話なのだ。
第二王子フェリクスの婚約者である筆頭公爵家第一子の公爵令嬢アデライドは、婚約破棄されて領地で軟禁。
宰相である公爵家の第3子令息エルヴァの婚約者……南西にある侯爵家の第2子カトリーヌ侯爵令嬢は、婚約破棄後、修道女として領地の神殿行き。
王宮近衛騎士団第二師団団長の熱血な侯爵令息セドリックの婚約者……アーシュレイ侯爵家の第一子オリビア・アーシュレイは一番悲惨な廃嫡及び北の修道院で生涯幽閉。
弟のジルベールの婚約者……5つある辺境伯の南西地方にある辺境伯第一子ブリジット辺境伯令嬢は、婚約破棄後、領地で蟄居。
そして嫌がらせの首謀者として、卒院しているわたしことオリビアが、第二王子から学院に呼び出しを受け、攻略者たちから追及され、アーシュレイ侯爵家から廃嫡され、雪深い北部の山中に在る修道院へ追放されるのだ。
……確かにヒロインを学院で下位貴族を使って拉致しようとしたり襲わせたり、最終手段として王都の郊外に在る侯爵家別邸で自ら毒殺しようとしたりと卑劣な犯罪行為にオリビアたちが走ったので、弁解しようがないけど、初めに貴族子女としてのプライドを踏みにじったのは、攻略対象の男たちだと思うのよね。
幾らヒロインが魅力的でも。
よく考えたら王立ルイス貴族学院の生徒って13歳から16歳の幼い少年少女たちが通う中二病集団だったわ。そして護衛兼側近として第二王子に就いて居るセドリックと婚約者であるオリビアは15歳~オリビア18歳だったけど、それでも黒歴史執筆世代の10代なのだ。
幾ら寿命が短くても、9歳前後で婚約者を決めるとか早過ぎだよね。
因みにオリビアが、執拗にアリシアを追い詰めるのは、ゲーム中盤でアリシアと異母姉妹であったことを知ってしまうからだ。
国教であるユリウス教の教義で一夫一婦制が定められていたのに、父ロベールの母への裏切りを知り、婚約者であるセドリックの心変わりを味わうオリビアの悔しさや苦しみって、並大抵じゃなかったと思う。
「なぜ、アリシア。貴女だけが愛されるの?」
断罪中のオリビアのセリフって、今なら良く判る。
しかもゲームでは、ヒロインが誰をチョイスしても、オリビアは首謀者として断罪されるんだから、堪ったモノではない。
大体に於いてヒロインが、7歳の祝福の儀で光の魔力があると示されていれば、学院が始まる13歳までは神殿の宿舎で生活するから、オリビアの不幸の始まりが、10歳から15歳に遅らせることが出来たのに、やりきれない。
祖父と母が流行病で亡くなり、喪が明けて直ぐに家長となった父とヒロインの母親が再婚。
そして王都のタウンハウスで養女と成ったヒロインとオリビア、ジルベールが同居を始めて、【ライラックの花が咲く頃に】のゲームがスタートする。
壮大で華麗な王宮が見える貴族街に在る、広くて豪奢なアーシュレイ侯爵家の邸宅へ、父であるロベールとヒロインの母アリエルに連れられて、ヒロインは一歩足を踏み入れ、オープニングとプロローグが始まる。
ゲームでは、ヒステリックなオリビアの言動しか前世の記憶にないのが切ない。
アーシュレイ侯爵家でのプロローグが終わってから、王立ルイス貴族学院がゲームのメイン舞台と成る。
【ライラックの花が咲く頃に~ファーストダンスはアナタと~】の舞台設定は、なんちゃって中世ヨーロッパ末期くらいで、フロラル王国は封建制度の身分が厳しい世界。
第一身分が聖職者(教会は司祭以上、神殿は神官と聖女)、第二身分が貴族(男爵以上)、第三身分が無爵位の平民と別れている。
ヒロインが聖女に成るのは、アーシュレイ侯爵家の養女になっていても、元は男爵令嬢で、母親のアリエルが男爵夫人に成る前は、無爵位の平民だった為の救済処置なのだろう。
フローラル王国法では、身分差が2爵位以内でないと婚姻が許されていない。
例えば伯爵位を持つ者の婚姻は、上が侯爵家、公爵家まで。下が子爵家、男爵家まで。プラス教会法で許された者同士となる。
(教会法・・・火属性と水属性、風属性と土属性、光属性同士の婚姻の禁止)
貴族身分は上から公爵・侯爵・辺境伯・伯爵・子爵・男爵となり、1代限りの官職位の準男爵と騎士爵がある。(辺境伯は自前の騎士団を持ち、侯爵と同等である。)
王族と婚姻が出来るのは、侯爵家以上であることを王国法で定められている。そして慣習的に第一身分の聖女と神官であれば王族との婚姻が認められる。
光魔法で『回復・浄化・ルミナス(灯火)』の3種類が使え、魔力量レベル5以上の者が神官や聖女と呼ばれる。(魔力量の最大値は10)
回復魔法は、中程度の外傷オンリーを癒し、病気には効かない。回復レベルは魔力量に依る。
浄化魔法は、ポーションをつくるための水や討伐後の魔物の魔石に。
灯火魔法ルミナスは、教会や神殿、王宮内を清める聖なる女神レトの白光する灯り。遺跡から発掘された古代のアーティファクトを起動できるのは、光の灯火魔法のみ。
魔力の発現と属性は、生れてから7年目の夏至祭に教会の司祭より祝福の儀で執り行われ、計られる。
4属性(火・水・風・土)の魔力が出た男子は教会の寄宿舎に、光の魔力を持つ男児女児は、神殿の寄宿舎で暮らし、属性や魔力について学び、修練する。
12歳の春の祝祭まで学び終えた者は、俗世に戻るか、聖職者として教会や神殿に残るかを家長が選択する。魔力は、主に貴族階級からランダムに現れるらしい。
4属性魔法を持つ女児は、魔銀のブレスレットで魔力を抑制し、有能な母体として扱われる。教会は基本男性オンリーで、教会の聖職者は婚姻が許されていない。女神レトの神殿の神官と聖女は婚姻可。
そして極稀に、後発魔力が16歳までに現れることが在ると言う講義を領地の聖堂へ行く前に、わたしは学んだ。
流石ヒロインであるアリシアだ。
第二王子フェリクスルートを選択したら、後発魔力が発現して聖女さまに成れるんだ。凄い。
でも、この現実世界でヒロインは、どうやってルート選択するんだろう。
わたしの場合は、祝福の儀で、淡い水色が黒い魔水晶盤に僅かに広がったから「水属性、魔力レベル1」と司祭さまから祝詞を受けている最中に、『あれ?悪役令嬢のオリビア・アーシュレイって魔力がなかった設定だよね。』と無意識に呟いた途端、記憶の蓋が取れたみたいに、前世の記憶……主に【ライラックの花が咲く頃に】の映像とシナリオが脳内に流れ込んで来たのだけど、ヒロインの場合って、攻略対象者の選択コマンドでも脳内に思い浮かぶのだろうか?
…と言うか、ヒロインは、わたしと同じような転生者前提で考えても良いのだろうか?
ヒロインのアリシアは、実の父であるロベール・アーシュレイが戸籍上で養父とされているだけで、現在も王都パルスの庶民街で親子3人暮らし。当然だけど父が援助しているから、生活苦もなく楽しく暮らしていそうだし、、、。時期的に高齢だった名目上の夫エバンス男爵も亡くなっている頃だろう。
金の或る高位貴族って我儘し放題だよなあ。
アリシアの懐妊が判った途端、父のロベールは庶子にしたく無くて、教会で大枚叩き、高齢で病弱なエバンス男爵とヒロインの母親を特別婚姻させるんだから。(半年の公布せずに、その場で婚姻の儀を行う。)
ゲーム中盤でオリビアが「男爵令嬢風情が!」とアリシアに暴言を吐いた時に、父が居合わせて「アリシアは実の娘だ!」と父のロベールから暴露される。プレイヤーはあくまでもヒロイン視点だから、それを聞いたアリシアは屈託なく感激して、父のロベールに抱きつく。その後、父の部屋でアリシアがエンバス男爵令嬢として生まれた理由や、父とヒロインの母との出会いがモノローグで語られる。
オリビアに虐められる以外は、ヒロインて、両親からも愛され捲くっているよね。
母が亡くなってから父のロベールは、娘のオリビアと息子のジルベールには無関心で冷淡だった癖に。わたしや弟は未だに父のロベールと顔を会わせたことがない。別段、前世の記憶が戻った今更、会いたいとも思わないけど。
案外、父と再婚したヒロインの母親が、男子を出産したら、理由を付けてジルベールもアーシュレイ侯爵家から廃嫡しそう。
養子や庶子では爵位を継げないから、今の所ジルベールの心配はしなくていいのが幸いだ。
愛娘アリシアを害そうとしたオリビアへの怒りで、殺すより辛い罰をと父のロベールは考えて、北の修道院へ向かわせたのかも知れないなとツラツラと思う。
◇◇
「おはようございます。お嬢様。お目覚めですか?」
目覚めてから長い時間、物思いに耽って居ると天蓋付きベットの外から、侍女見習のナタリアの明るい声がした。
主人公オリビア・アーシュレイ7歳。水属性・魔力レベル1状態・形態変化不可。水桶一杯の水が出る位の魔力。白金の髪、淡い青の瞳
司祭から魔力抑制の間銀の腕輪を着けられている。
父:ロベール・アーシュレイ 33歳白金の髪、空色の瞳。魔力無し(王領第1執政官)
母:クラウディア・アーシュレイ 24歳、アイボリーホワイトの髪、パールグレーの瞳 北東に在るブランシェ辺境伯家の第4子。魔力なし。
弟:ジルベール・アーシュレイ 5歳、アイボリーホワイトの髪、空色の瞳 【ライラックの花が咲く頃に】の悲恋の攻略対象者。ヤンデレ系。
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【ライラックの花が咲く頃に~ファーストダンスはアナタと~】
※攻略キャラメモ※
攻略者 (=婚約者)
・第二王子フェリクス (アデライド公爵令嬢)
・公爵家第3子令息エルヴァ (カトリーヌ第2子公爵令嬢)
・第二師団長セドリック侯爵令息 (オリビア侯爵令嬢=わたし)
・ジルベール侯爵令息=弟 (ブリジット辺境伯令嬢)