織姫と彦星ですら会える日だったのに。
『通知音の向こうの存在に私たちは“好き”の手前で止まってる』
のその後の物語です。
まだ未読の方はぜひ読んで見てください。
変わらないものなんてないのかな。
男女の友情はどちらかが好きになった時点で成立しないんだって思い知らされる。
“寂しい”って、
茶化さずに気持ちを伝えたのは、あの日だけだった。
あれから私は、一度も彼に会っていない。
ほんの少し通話の頻度が減って、
たまに、月に1〜2回くらい。
気が向いたときにオンラインゲームで繋がって、
ふざけ合って、笑い合って――。
でも、なぜかそれがすごく、心地よかった。
昔みたいに「恋人の彼女」の影に怯えることもないし、
「いつか隣に立ちたい」と思って焦ることもなかった。
ただ隣にいられればそれでいい。
そんなふうに、思えるようになっていた。
ほんとは、“慣れてしまった”だけかもしれないのに。
気楽な時間だった。
恋じゃないフリをするのも、もう得意になってた。
彼が「またやる?」と誘えば、
私は「いいよー」と平然を装って返した。
ゲームをしながら笑い声が混ざる夜は、
まるで少し前に戻れたみたいで、幸せだった。
変わらないでいてほしい。
このままでいい。このままがいい――
願えば願うほど、不安は心に染みついていった。
──そして、七夕の日。
わたしは、なんてことのない冗談を送った。
「織姫と彦星の気持ち、今ならわかるかもね!」って。
彼が「は?なにそれ笑」と返してくれるのを期待して。
いつもの、何気ないやり取りのはずだった。
でも、その夜、通知は鳴らなかった。
最初は「あれ、気づいてないのかな」って思ってた。
仕事で忙しいのかも。寝落ちしちゃったのかも。
そんなふうに、楽観的な理由をいくつも並べて、
無理やり不安を押し込めた。
けど、次の日も既読はつかなくて。
その次の日も。
ゲームにも姿を現さなくなって。
どれだけ画面を見ても、彼からの返信は無い。
それまで、ゆるくでも続いていた“ふたりのペース”が、
突然ぷつりと、途切れたようだった。
連絡がこない、ただそれだけのことが、
こんなにも苦しいなんて知らなかった。
理由も、前触れもなかった。
だからこそ、心がざわついていく。
「なにかあったのかな」と心配する気持ちと、
「もう飽きられたのかも」という予感が交互に胸を刺す。
前触れなんて、たぶんなかったわけじゃない。
本当は、私が気づこうとしなかっただけだ。
彼の言葉はいつもと同じだったけど、
返信の間隔はじわじわと空いていた。
ゲームも、わたしから誘うことが多くなっていた。
彼はいつだって優しくて、笑ってくれてたけど、
きっとそれは“誰にでも”できる優しさで――
それでも私は、見ないふりをしていた。
「またね」と通話を終える夜に、
ほんとはいつも少しだけ泣きたかった。
このまま離れてしまいそうで、不安だった。
だけど、声を聞けばまた嬉しくなって、
その一瞬のあたたかさにすがるみたいに笑ってた。
連絡が来ない日々が続くにつれて、
わたしの中の“安心”は少しずつ崩れていった。
怖かった。
彼に「どうしたの?」って聞くのが、怖かった。
もしそれで、本当に終わってしまったら。
もし、彼のなかでもう私は“必要ない存在”になっていたら。
わたしは、耐えられなかった。
そうやって、また何も聞けないまま時間が過ぎていく。
問いたださなかったのは、愛されてないことを認めたくなかったから。
“好き”を伝えなかったのも、傷つくのが怖かったから。
どちらも、逃げたままだった。
だけど今、彼の姿が見えなくなって初めて――
私は本当に、何も持っていなかったんだと思い知らされる。
思い出すのは、
ゲームをしている時の声、冗談を言って笑う声、たまに交わした通話の中の沈黙。
わたしが勝手に“恋だと思っていた記憶”ばかりだった。
きっと、彼はそんなつもりなかったのかもしれない。
全部、わたしの独りよがりだったのかも。
それでも。
最後に、「寂しい」って言ってしまったあの日だけは、
本物の自分の気持ちだった。
そして今、彼はもう、どこにもいない。
わたしは、静かに失っていた。
“あの関係”さえも――気づかぬうちに、手放してしまっていた。
つづく
*****
いつも必ず短くても返信をくれるのに。
何を間違えたんだろう。
彼から連絡来ることはあるのかな。