表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

挿絵(By みてみん)

 ◆


 ザジという男がいる。


 一言で言えば屑だ。


 そんな屑がパーティを追放されたのは、決して理不尽な理由からではない。


 リーダーのフレイ──女とみまごうほどの綺麗な顔立ち、元王国騎士、騎士院主席卒業──が静かに事情を説明するあいだ、ザジはふてくされたように腕を組み、いかにも納得していない風情で唇を尖らせていた。


「ザジさん、あなたは確かに優れた前衛です。あなたの剣は鋭く、これまで何度も強敵を仕留めてきました……でも、日頃の行状が悪すぎるんですよ。パーティの備品を私的に使い込む、共通資金から飲み代を抜き取る、挙句の果てに四六時中サラとレティを口説く──僕らはそんなザジさんにずっと我慢をしてきましたが、もう限界なんです」


「なんだとう! てめぇら! てめぇら雑魚に何がわかる!」


 歯をむき出しにするザジ。


 しかしフレイは動じない。


「それに……僕らのパーティの名前で夜のお店にツケを作ってますよね。パーティの名前でツケを作るなとは言っていません。しかしそれはあくまでもパーティ全体に有益な事でなければ駄目だと、パーティに入る時に説明をしたはずです。ザジさんが夜のお店で女性を買う事のどこがパーティの利益に貢献するのでしょう?」


 ザジは反射的に何か弁解しようとしたが、事実なので何も言い返せない。


 代わりに──


「ちっ! そんな事言わないでくれよ……仲間じゃねぇか……」


 などと世迷言を言い出す。


 いわゆる泣き落としというやつだった。


 ザジという屑は激昂したかと思えば、時折こうして泣き落としを挟むのだ。


「なあ、後生だよ、フレイよう。命を預け合って戦った仲じゃあねえか。言ってみれば家族みてぇなモンだ。家族を捨てるってのかい? ええ?」


 この緩急の妙に、フレイも何度かだまされた事がある。


 しかしもう騙されない。


「仲間()()()


 冷たい声色。


 ザジは目の前に酷く冷たい氷の壁が立ちはだかっているのを幻視した。


「笑わせるな……てめぇらはお高く留まった聖人様かよ……所詮は寄せ集めの穀潰しじゃねぇか……! この、冷血漢がよ! 俺が野たれ死んでも悲しくもなんともねぇってか!」


 フレイは大きくため息をつく。


「別にそこまで言ってないじゃないですか……」


 そういって、報奨金袋をゆるりと掲げる。


「これはあなたの取り分です。今日までの戦功分はきちんと清算したつもりです。宿代には十分事足りるはずです」


 しかし──


 ザジは袋を取らない。


「施しみてぇに突きつけやがって……くそ、そんな端金で俺の面子が立つかよ……! 男の面子を何だと思ってやがる」


 そんな事を言うが、本当は欲しいのだ。


 だが野菜の切れ端程度の価値もないプライドがそれを邪魔する。


 ザジは椅子を蹴り飛ばし、勢いよく立ち上がった。


「勘違いするなよ、フレイ。俺がいなきゃお前ら明日にも小鬼にでも腸を啜られて野垂れ死にだ。……覚えとけ、この腐れ騎士崩れ!」


 理不尽な罵倒にフレイは眉一つ動かさず、淡々と「お引き取りください」とだけ告げた。


 その瞬間、ザジの罵倒は堰を切った奔流となり、ありとあらゆる下卑た言い回しが室内を汚染した。


「陰嚢潰して干物にすんぞ! 貴様ら全員まとめて豚小屋に叩き込んでやるからな……!」


 なんだかんだでザジという男はこの場では一番の手練れではある。


 そんな男が暴れれば非常に危険だ。


 が、フレイはごくごく自然体で激昂するザジを眺めるばかり。


 魔術師のサラももう一人の前衛であるレティも平然とザジを眺めている。


 まるで、ザジは結局罵倒だけで手を出そうとはしないことがわかっているかの様だった。


 やがてザジの喉が嗄れ、残るのは荒い鼻息と負け犬めいた唸り声ばかり。


「糞共が……こちとら、てめぇらの命を何度救ってやったとおもってるんだ……」


 これは虚偽ではないが、それを差し引いてもザジの行状は目に余る……だから追放される事態となったのだが、ザジにはそれが分からない。


 俯き、ブツブツと文句を垂れ流しながら転がる椅子を跨ぎ、扉を蹴り開け、夕暮れの通りへ去るザジ。


 まさに負け犬であった。


 残されたフレイはそんな負け犬ザジの後ろ姿を見送り、ふうと大きくため息をつき──


()だけなら別に気にしなかったんですけどね」


 と呟く。


 そして手に持つ金の入った袋を見てもう一度ため息をついた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ