東京メトロ浅草駅ダンジョン 16
落ち着きのある声でそう言うと彼女は恭しく一礼すると、喜色の表情でこちらに微笑みかけた。
正面に現れた全身白の神秘的な美女の名は沼須喜 美白俺達にこの場所の事を教えた張本人である。
そのカリスマ性に因る影響力は絶大で、一部の潜行者達は彼女を神の様に崇められている。
俺も知らない人物では無い。
ダンジョン発生の黎明期には共にダンジョンに潜り、時には背中を預け合った仲でもある。
立ち入り禁止にしているのに彼女がここにいるのは、彼女の業の一つである転移の能力に因るものだと思われる。
制限はあるらしいが彼女は瞬間的に空間を渡る事が出来るらしい。
では何故このタイミングなのか…。
彼女の口ぶりから俺がここに来る日と時間を知っていたかのような言い方だ。
「久しぶりですね沼須喜嬢。どうしてこの日この時間に私がここに来ることが分かったのか教えてくれないか?」
「ウフフッ、きっと運命なのでしょう。この日この時この場所で相まみえる事が。」
「答えになって無いと思いませんか?この事は機密事項だったはずなのですが。」
「その様に他人行儀は止してください。昔の様に気さくにお話して、美白とお呼びいただければ私の口も軽くなるかもしれませんよ?」
「…。」
片手で口を隠し上品に笑う彼女に警戒心が強まり相手の出方を窺う中、百合は俺が壁になってまだ状況が飲み込めていないのか後ろで黙ったままだ。
すると正面の彼女は少し哀しそうな表情になると、また話しかけて来た。
「後ろにいる黒川博士に危害を加えるつもりはありません。勿論貴方様にもです。ただ私は昔の様に接してもらいたいのです。私が貴方様の誘いを断り新しい組織を作ったのは事実ですが、そんなに警戒されては哀しくなってしまいます。」
「…はぁ、分かったよ。昔の様にだな。これでいいか美白。」
「はい!」
俺が降参し溜息を吐いて要求を呑むと、一転して喜色満面といった表情をする彼女に気が抜けそうになるが油断は出来ない。
彼女はフリーランスの潜行者の集まりである様々なギルドの取締役的な立場の人物であるからだ。




