元教え子 東 紅 2
俺は心の中で溜息を吐きながら彼女の後に続くのだった。
移動中の軍用車の中で、俺は各部隊に連絡を取り現在の状況把握と、その状況に応じた指示を出し。
紅には潜る際の事前の手続きをやってもらっていた。
そちらは事前に連絡が行ってるので、着くころにはすぐにでも潜れるだろう。
「各部隊に指示は出し終えた。到着次第すぐに潜るぞ。」
「はい、こちらも許可が下りました。事前に連絡が行っていたとはいえ、こんなに早いとは…」
「あんまり勘繰りすぎるなよ、考えたところでいいことなんてないからな。それに、今回は緊急事態だ。」
「それはそうなんですが…。」
彼女は資料を見ながらそう答えるが、納得がいかないのだろう。
なんせ一般の行方不明者の捜索ならここまで大事にならないし、投入されるのも多くて二小隊、部隊が、しかも隊長が潜るなんてまずない。
ダンジョン攻略にその人員を割いた方が確実に利があるからだ。
そもそも世間でのダンジョンの行方不明者の扱いは、基本自業自得であり、救助隊が発足されなくてもしょうがないといった感じである。
しかし、家族や友人のような身内となれば話は変わるだろう。
先ほど見た光景がそれだ。
あの場所にいた人達は、一縷の望みに賭けてあの場に居たのだ。
卒業式の当日、ダンジョンで被害に遭う人達を少しでも救いたいと、力強く真っ直ぐな目で語った彼女からすれば、今回の件はあまりにも不平等で、納得がいかないものだと思うのもしょうがない事だろう。
心なしか資料を持つ手にも力が入っている様にも見える。
「気持ちは分かるし理解も出来る。だが今は目の前の任務に集中するんだ。俺達が早く見つければ、それだけ二次被害に遇う人を減らせる。幸い行方不明者の座標はそんなに深くないし、第二部隊も優秀だ。直ぐに見つけてくれるさ。」
「そう、ですよね。すいません先生、目の前の任務に集中します。」
「…。そうだな。頼りにしている。」
「…っ!はい!お任せください!」
彼女から力強い肯定の言葉が発せられると同時に車が止まった。
如何やら目的地に到着したようだ。
本来任務中に先生呼びはあんまりよくないのだが、今回は見逃すことにした。
誰も見てないし、運転手も聞いていない、それならば好きに読んでくれた方がお互い楽だろうし、堅苦しい呼び方はそもそもむず痒い。
「着いたみたいだな、行くぞ。」
俺は彼女に声をかけると、ドアを開けて、第二部隊の駐屯地へ向かうのだった。