稀代の天才 黒川 百合 15
そっち方面に明るい者なら湯水の如く稼ぐアイディアが湧いて来る事は容易に想像が出来た。
第一発見者である彼女の事なので善意で俺以外にこの事を伝えない様にしてくれたのだろう。
彼女がこの事の重大さに気付かないはずがないのだから感謝しかない。
「公に公表せずに黙っていてくれた彼女には今度直接礼をしないとな。」
『いやー、どうだろうか。少なくとも相棒が直接はよろしくないと思うのだよ。』
何とも言えない表情でそう言い唸る百合に何がいけないのか聞いてみる。
「何故だ?世間が混乱するのを察して協力してくれたんだぞ。その恩には報わないといけないだろ?」
『相棒の言う通りなんだが2ヶ月程前に沼須喜氏に会った時の事を覚えているかい?』
「ああ、ダンジョン関連総会の時だな。確か民間の潜行者の代表として対面に座っていたな。受け答えもしっかりしていて立派に代表を務めていたな。その後も予定があって軽い挨拶ぐらいしか出来なかったが。」
『その後が大変だったのだよ。相棒が居なくなった途端に倒れたのだよ。邪推する者も現れて現場でひと悶着あったのだよ。』
何だそれ知らない。
『民間の者達は相棒が特殊な言霊を使っただの、毒を使っただの大騒ぎだったのだよ。相棒の残した部下の者もそんな事はあり得ないの一点張りでね。まあ本人は恍惚の表情で倒れて幸せそうだったし、目が覚めてから本人から各所に説明したらしいから事なきを得たのだよ。まったく、大変な目にあったのだよ。』
「それはすまなかった。だが何も聞いていないのだが?」
『まあ、相棒の部下達の事だから君の負担を増やすまでもない知らせる必要のない事だと処理したのだよ。実際に何もしていない訳だし、随分と慕われているのだよ。』
慕われてるが故か、普段なら喜べる事なのだが教えて欲しかったなと思わなくもない。
俺が何かした訳では無いが大事にならなくて本当に良かった。
『そんな事があったからね、直接感謝を伝えられようものなら今度は心臓が破裂でもしちゃうんじゃと思っているのだよ。』
「そんな事があってたまるか。と言うかそんな事があったのなら百合が教えてくれても良かったんじゃないか?」
『あり得そうだから怖いのだよあの狂信者は…。まあ、その件に関してはボクも相棒にいらない負担を掛けたくなかったと言う事にして欲しいのだよ。』
「…慕われ過ぎるのも考え物だな。ありがとよ。」
流し目でドヤ顔をする彼女に苦笑交じりにそう返した。




