稀代の天才 黒川 百合 11
こういう時にだけ見せる珍しい姿に苦笑を漏らしながら、俺はこの作業を続けることにした。
続ける事10分程。
指輪から発せられる魔力は完全に落ち着き、今は静かな状態になって先程よりもはっきりと百合の姿が見える様になっている。
「この状態で少し離れてみよう。多少は変化があるかもしれない。」
「そうだね、多少はマシになっているといいのだがね。」
彼女の手を放し離れると、うっすらとだが姿が見える。
しかし口は動いているが声が聞こえない所を見るに言葉でのコミュニケーションは出来ない模様。
声が聞こえない事を身振り手振りで伝える。
そうすると伝わったのか、彼女は残念そうな表情をして左手でスマートフォンを取り出し電話を掛け始めた。
俺の機体が振動し着信を知らせる。
直ぐに取り出し着信のボタンを押し耳につける。
『姿が見えるだけまだましなのだよ。問題はこれが相棒だけなのか他の者にも見えているのか…。少なくとも魔力感知能力の高い者なら見える様になったと思ってもいいかもしれないのだよ。』
「そうかもな。どうする、部隊の中で魔力感知能力が高い者を何人か呼んでみようか?」
『いや、それは止しておくのだよ。この事がバレたらきっとまた相棒の秘書に怒られてしまうのだよ。』
「…。それもそうだな。」
黙って出て来た手前、今回は俺にも秘書である彼女の雷が落ちる事になる。
それは望む所ではないので、今回の件も秘密裏に終わらせて平和に解決する事にしよう。
何時も頑張ってくれている彼女には申し訳ないが、バレたら誠心誠意謝る事にしよう。
その際の叱責は甘んじて受け入れる所存である。
「取り敢えず外せそうか?」
そう言うと彼女はスマートフォンを白衣の胸ポケットに仕舞い指輪を外そうとしたが、いくら外そうとしても取れない様で、最終的には肩で息をしながら床に四つん這い状態になってしまった。
前々から少しは体力をつけた方が良いと言っていたが、この研究大好き人間は相変わらずらしい。
良い事なのか悪い事なのか、相変わらずの様子の彼女に俺は苦笑を漏らした。




