稀代の天才 黒川 百合 9
そこには目の下に隈を付け黒髪を一つ纏めにした半透明の美女が俺の顔を下から見上げていた。
垂れた目の下に隈を作り実年齢よりも幼く見える童顔で、黒髪を床に着きそうな位まで伸ばしていて、研究職の宿命か彼女が出不精のせいか色白な肌、成人女性の平均より低い身長、しかし出ている所は出て引っ込む所は引っ込んでいる普段の不摂生からは考えられないプロポーションにサイズの大きな白衣を纏っている。
そんな儚げで可愛らしい彼女が不安そうな顔で俺にくっ付き見上げていて、その表情のせいで何時もよりも幼く見える。
電話越しでは飄々とした感じだったが、俺が思っていた以上に心細かったのかもしれない。
しかし何故?
今の今まで見えてなかった彼女が半透明とは言え急に見える様になったのか。
軽く混乱しながらも冷静に考える事に努める。
取り敢えず見えている事は共有しておかなければなるまい。
「百合。いま朧気ながら君の姿が見えているぞ。」
「え?」
「どういった原理かは分らんが半透明な君が見えている。この様子だと声も聞こえそうだな。」
驚いたからなのか百合の驚いた様な声が電話を介さずに聞こえた。
取り敢えず根本の原因であろう指輪を取ってしまおう。
「付けた指輪はその左手ので間違いないな?」
「ピャ!?」
間違いないか確認したら急に俺から距離を取る様に飛び退きまた見えなくなってしまった。
まだ通話中なのを確認し話す。
「何故逃げる様な事を?」
『いやはやすまない、淑女として中々恥ずかしい所を見られたと思ってね。少々取り乱したのだよ。』
「? まあいい取り敢えず指輪を外すからもう一度見える様にしてくれないか?」
『何となく分かったかもしれないのだよ。』
「何がだ?」
そう返した途端また百合の姿が目の前に半透明に浮かび上がる。
「今は見えて聞こえているかね?」
「見えているし聞こえている。何か法則が分かったのか?」
「ふむ。どうやらこの指輪に触れている者なら装備者を感知する事が出来るみたいなのだよ。何ともまあとんでもない性能のアイテムが出て来たものなのだよ。見つけたのが悪人でなく相棒で良かったのだよ。」
ドヤ顔でうんうんと何度も頷きながら話す彼女の手を見る。
俺の右手を握る彼女の左手の薬指に例の指輪が嵌められていた。




