稀代の天才 黒川 百合 8
尚も続く彼女の話を聞きながら取り敢えず無事だった事に胸をなでおろした。
ここに来て30分程経った。
やっと彼女の話がひと段落し落ち着きを取り戻した。
『いやはや本当にすまない。つい熱が入りすぎたのだよ。』
「相変わらずマイペースだな、今の状況を分かっているのか?まあ百合が平気ならとりあえずいいか。しかし何故効果の分からないアイテムを使ったんだ?何時もなら少なくとも効果が分かる前に試す事は無かったし、分からなくてどうしても試したかったら俺に言えと言ってただろ?」
『むぅ、それはだね、あまり詮索して欲しくないと言うか…。こっぱずかしい理由と言うか…。』
珍しく歯切れの悪い彼女の様子に疑問を浮かべつつも再発されては困るので追及する事にする。
今更お互い何を遠慮する事があるというのか。
「今後の為にも教えてくれ、何時もなら論理的に行動する君がそうした理由があるはずだ。」
『うぅ。そ、それは何と言うか…。ボクも女と言うか…。憧れと言うか…。』
しまったと思った。
百合のこの反応は羞恥を感じているらしい。
親しき中にも礼儀あり。
しかも彼女は女性であり、今の俺の追及は下手したらセクハラやロジハラと取られかねない。
「いやすまない、無理矢理聞くような事をして。無理に話さなくていいぞ、俺が都度フォローすればいいだけの事だ。不快にさせて申し訳ない。今聞いたことは忘れてくれ。」
『…いや!違うんだ!言いたく無いとかではなくただ単純に恥ずかしかっただけなのだよ!指輪なんてただの飾りだと思っていたのがいざ目の前に君の持って来た物が現れたら嵌めてみたくなってしまった乙女心というかだね!』
「お、おう。」
とんでもない早口で捲し立てられまたも気圧されてしまった。
そこでふと違和感を感じ視線を下に向ける。
そこには目の下に隈を付け黒髪を一つ纏めにした半透明の美女が俺の顔を下から見上げていた。




