稀代の天才 黒川 百合 6
俺は正面の階段を上ると彼女の研究室に速足で向かった。
左右に研究室のある長い廊下を抜け、奥にある百合の為に用意された研究室に向かう。
施設に入ってここに来るまでに見た大量の監視カメラでここのセキュリティの高さが伺えるだろう。
入口にいた警備員の練度も高く、少ないながらも魔力を保有していた。
彼の気配と保有魔力を見た感じだと戦士型の位Ⅲのレベル下位といった所だろうか…。
部隊章に刻まれた煙の出るフラスコのマークを見るに、研究機関の部隊の者だ。
少なくとも分隊長クラスの者が警備をしている時点でここの施設の重要さが分かる。
何度か警備の者とすれ違いながら扉の前に到着し、扉の隣にあるカードリーダーに身分証をかざしてロックを解除する。
扉を開け中を覗くと、そこには無人の空間が広がっていた。
「どこかに行ってしまったのか?」
彼女に連絡をしようとスマホを取り出した瞬間 音と振動と共に着信を知らせる。
発信者は渦中の彼女で、緊急事態かとすぐに通話のボタンをタッチする。
『やあ、相棒ボクさ!いらっしゃい!』
電話口にから元気な声が聞こえて来たが部屋には姿が見えない。
もう一度周りを見渡すが彼女の姿は見えない。
「…。まさかこの部屋にいるのか?何処にいる?」
『…。相棒でも駄目だったかい?成程、そうなるとこのアイテムはキミの感知能力を超えた性能をしていると言える。これはとんでもない事だよ!』
少し落ち込んだ様な声で話し始めたのも束の間、調子を取り戻したかの様にまた元気に捲し立て始めた。
『この事実があるという事は実質的に誰も感知する事が出来ないという事であり、かなり危険な性能だよ。これを持つだけで誰にもばれない大怪盗の誕生さ!』
「ちょっとまってくれ、言いたい事は分かった。それで百合は今何処にいるんだ?」
彼女の言葉を止め一番聞きたい事を尋ねる。
先程の彼女の口ぶりから嫌な予感がする。
『ああ、すまない。実は今君の目の前にいるのだよ。』
何故こうも悪い予感というものは的中してしまうのだろうか。
俺は驚きと悲しみの感情で頭を抱えたい衝動に駆られるのだった。




