稀代の天才 黒川 百合 4
こうして俺は多少の不安を残しつつ、庁舎の外に足を踏み出した。
兎にも角にも彼女が困ってるのなら迅速に駆け付けなけなくてはならないだろう。
見つかって万が一があったらいけないので、薄く静かな魔力を纏う事で気配を無くし全力で百合の研究室のあるダンジョン科学研究所に向かう。
どのようなトラブルになっているかは分からないが、行って聞いた方が早いだろうと言う訳で考えるより先に動いた次第だ。
この判断が間違いかどうかは分からないが、今頃落ち込んでいるであろうさみしがり屋の彼女の為にもこの方が良いだろう。
高速で流れ行く街の景色を横目に見ながら、平和になったものだと過去の混沌とした時期を思い出す。
あの時は昔の平穏が訪れる事は二度と無いと暗く不穏な雰囲気が街中を支配していたが、その時とは考えられない程世間は日常を取り戻していた。
スーツ姿で歩くサラリーマン、待ち合わせ中なのかオブジェの前で騒いでいる学生、手を繋ぎ仲睦まじい姿のカップル、ベンチに座りのんびりしているご老人。
様々な人々が街を行き交い過去の騒然とした活気が戻ってきている。
街路樹の桜の花が散り切り、青々とした葉が茂る道を進む。
少し進むとビル等が立ち並ぶ街並みに入り、昔では見られなかった物が見えてくる。
今では見慣れた至る所にある魔力エネルギーを電力に変え各所に送る色鮮やかな結晶。
街頭宣伝のモニターで映し出されるのは、ダンジョン産のアイテムを扱う企業の広告で昔の様に芸能人が映っている事もあれば、有名なダンtuberがスポンサーの武器を振り回していたり、ダンジョン対策本部の広報部の入隊募集の宣伝が流れている。
それと、昔以上にカラフルで特徴的な者やダンジョン帰りなのか興奮した様子の者もちらほらと歩いている。
ここら辺りだと旧渋谷駅ダンジョンが近いだろうか?
取り敢えず今は彼女の研究所へ急ぐとしよう。
俺は周りを見渡し、車の間を被害が出ない程度のスピードで駆けた。




