稀代の天才 黒川 百合 2
早口で捲し立てられ気押されてしまい、そんな返ししか出来なかった。
俺が気圧されている間も話は続き、この研究が進めばどうたら、この方法でどうたらとかれこれ30分は話続けている…。
スピーカーモードで聞き、相槌を打ちながら印を押す作業を続けていたが全く終わる気配が無い。
『それでだね、今回の理論が確立したらあの理論のあれと組み合わせる事で更なる効果の増幅や変質が見られるかもしれないのだよ!その結果次第ではあれがこうなってそれがああなって!』
「うんうんそうだね、そうなるとたのしそうだよね。」
『そうなのだよ!流石相棒!話が分かるではないか!やはりあの時からボクの真の理解者で信用出来るのは相棒である君しか居ない!』
「ハハハ、そうかありがとうこうえいだよ。」
未だに勢い収まらず、それどころか益々声高になって行く所を見るにまだまだ続きそうである。
単調に印を押し続けるよりはましなので良しとするか。
『おっと本題がまだだったね、遅くなってすまない。相棒と話すのが楽し過ぎて時間を忘れていたよ。実は調べる際に少し困った事になってしまってね。今私は誰にも感知されない状態になっているのだよ。幸いにもこの電話でコミュニケーションは取れる事が分かったからまだいいだが、如何せんこのままでは不便過ぎてね…。相棒に診て貰いたくて電話した次第なのだよ。』
「…。何だって?」
急に声色が変わり、言葉尻がしおらしくなって来たからどうしたのかと思ったらこれである。
またかと思い頭を抱えそうになる。
好奇心のなせる業なのか、彼女は何にしても急ぎすぎるのだ。
この感じで彼女は何度もトラブルに巻き込まれ、何度助けに向かったことか…。
しかも彼女はある発明により国の重要人物であり、過去に俺と共に立ち上がって協力してくれた同志でもある。
ぞんざいには扱えないし、見捨てるには情が深まりすぎている。
『毎回すまない…。怒らせてしまったかね?しかし私には頼れる者が相棒しかいないんだ…。何度も繰り返して本当に申し訳ないと思っているんだ。お願いだから嫌わないでおくれ…。』
俺の返答が悪かったのか、最初の饒舌とは打って変わって懇願する様に震えた声が聞こえて来た。
全く、今更見捨てるような真似はしないというのに不安になるとは…。
心配性な所も相変わらずである。
俺は彼女を安心させる為に口を開いた。




