元教え子 東 紅 35
2度目の補充のタイミングで遂に要救助者がモンスターの体から見えて来たのだった。
見えているのは男性の物と思われる左膝から下で、気配を見る限り生きてはいる。
どのように息をしているのか気になる部分ではあるが急ぎの救出が必要だろう。
それに…。
「東、今回の救助目標を発見したかもしれない。あの臑当はおそらく目標の一人が身に着けていた物だ。」
「はい、私の方でも目視しました。確かにその様ですね。しかし、食べられているのでなく取り込まれているとは…。あの様にはなりたくありませんね。」
「…全くだ。」
見えている部分は赤黒い粘液の様な物が付着しあまり触れたいと思える物ではないし、あの肉の塊に取り込まれると思うと背筋の凍る思いだ。
救助の為にアレに触れるないし、後程背負う必要が出てくるとなると気が重い…。
クリーニングで落ちるかな?
そんな無体な事を考えながらもモンスターの体積を減らしていく。
遂には1人目の左半身と、二人目の両足が見えてきた。
後ろに回ればもう1人も見えているかもしれない。
「随分と縮んできたな。」
「そうですね。そろそろ1人目が救助出来そうですよね、スポンッて。」
「スポンて、確かに行けそうだが何か緊張感の無い擬音じゃないか?」
「しょうがないですよ、最初こそ精神汚染を受けて遅れを取りましたがこうも先生の独壇場ですと、私は燃やすだけなので少し拍子抜けですね。」
「気持ちは分かるから聞かなかった事にしておいてやる…。」
意識が無いとは言え目の前に要救助者が居るのに暢気なものだと思わない事もないが、緊張し過ぎているよりはいいし、ノリの悪い老害とは思われたく無いので苦笑を漏らしながら遠回しの言葉で流す事にする。
規律?ダンジョン関連の組織は出来た経緯が少々特殊故に警察や軍に比べると結構緩い。
ただでさえフリーランスの方が良いと言われているのにそんなガチガチにしていられるか!
その組織体系が原因で政府筋と揉める事もあるがそれは御愛嬌だ。
「もう少し削ったら近接に切り替えて救助を開始する。その間に魔力を補充しておいてくれ。救助が終え次第合図をするから、そのタイミングで大技を叩き込んで燃やし尽くせ。」
「了解です!もう少しダイエットさせますね!」
「比喩ではなく物理的に燃焼してるがな。もうひと踏ん張りだ集中して行くぞ。」
「はい!」
軽口がお気に召したのか、彼女は元気に笑顔で返事を返した。
弛緩した雰囲気を締め直し、戦闘を救助に移行すべく動き出した。




