12年働いた職場 3
疲れた顔をした彼と事務方に心の中で敬礼をしつつ、俺は上司の部屋の扉をノックするのだった。
「只野です。先ほど連絡をもらい参上しました。」
『入り給え。』
扉越しのくぐもった声に許可をもらい、上司の部屋の扉を開ける。
事情故か、その声には多分に疲れが感じ取れた。
入ると正面の机に、歳故のグレーの髪、少しやつれ疲れっきた顔の上司東 京生(御年70歳)が書類を見ながら話しかけてきた。
「よく来てくれた。」
「久しぶりの休日だったんですがね…。」
「それはすまない、だが事は急を要するのだ。」
「事情は分かりますがね。」
「本当にすまない。」
「…。」
本当に思ってるか甚だ疑問だが、それを聞いたところで解決する事ではないので、その質問を飲み込んだ。
「お願いしたいことは電話で話した通りだ。とあるお偉いさんのお孫さんを救出して欲しい。可及的速やかにだ。」
「それは分かってますがあの惨状は何です?職員が困ってましたよ?」
「それも電話の通りだ。パイプが欲しい連中がフリーランスに高額で救出依頼を大量に出している。その金に目がくらんで、中途半端な実力者が挑み、また行方不明というわけだ。」
「それでこの惨状、ならばここ数日ではありませんね?何故最初にこちらに相談がこなかったんです?」
入口のあの惨状だ救出依頼を出して、行方不明者がこれだけ出た後ならば、お偉いさんの孫が行方不明になって、少なくとも二週間近く経っていると見ていいだろう。
「如何やら意図的に情報を操作していた連中がいたみたいでね、相当パイプが欲しかったらしい。聞いたところ今日で12日経っている。私が知ったのも今朝だ。」
「下手したら責任問題ですな。」
「他人事じゃないぞ、ダンジョン対策本部特殊作戦第一部隊隊長 兼ダンジョン探索部隊教官長 兼ダンジョン学園立案並びに創始者 只野 優人。」
小粋なジョークにピクリとも表情を変えずに、笑えない返しが返ってきた。
何度聞いても聞きなれない、高卒の俺の肩には重すぎる役職。
そうこの無駄に長くて、無駄に仰々しいのが今の俺の肩書である。