元教え子 東 紅 29
それと同時にモンスターが身じろぎをし、左右から先端に口のついた触手を伸ばし攻撃してきた。
咄嗟に紅を脇に抱え飛び上がる。
足元を触手が通り過ぎ、勢いのまま壁にぶつかり止まった。
空中で体制を整え足に魔力を纏わせる。
落ちる勢いを乗せて踵落としをお見舞いし、右から来た触手を潰し切る。
着地と同時にグチャリと肉を踏み潰す感触に嫌悪感が増す。
「gyaoォaaぁァぁaaa!!」
「ふんっ!」
モンスターが悲痛な叫びを上げ、もう片方の触手を振り回してくる。
それを後ろ回し蹴りの要領で迎撃すれば、触手は弾き飛ばされ壁に激突し、潰れる様に張り付いた。
「ぁ…ぅ…。」
脇に抱えた紅からうめき声が漏れ、そちらを見る。
だらんと力なく抱えられ、まだ動けそうにない。
「揺れて苦しいかもしれないが、しばらく辛抱してくれ。」
奴が動かなくても攻撃できる手段を持っている以上、彼女を放置しておく事は出来ない。
この状態であの触手に攻撃されたらただでは済まないだろう。
紅から視線を外し奴と潰した触手を見る。
潰れたにも関わらずその肉は脈動し、まるで生きている様だ。
この特性は見覚えがある。
姿形こそ違うが、この手のモンスターは十中八九 再生の特性持ちだ。
まさに今も視界の端で千切れた触手が本体にズルズルと近付いて行っている。
再生持ちのモンスターへの対処法は限られてくる。
大体が再生出来ない程 木端微塵に吹き飛ばすか、再生できない様に組織を焼くかになるのだが。
今回の場合、生存者が体内ないしあの脂肪の下にいる。
前者の方法では巻き込んでしまうだろう。
後者の方法は出来なくはないが、この技は自爆技の様な物だ。
ちまちま部位を千切って焼くのには適さないし、リスクが高すぎる。
ベターなのは俺が奴を細かく刻み、紅の結晶装備並びに言霊の力を以って片っ端から焼却して貰う事。
しかし、この状態の彼女にそれを求めるのは酷と言うもの…。
「これはあまりやりたくないんだがな…。」
紅を起こす方法はあるにはあるのだが、最悪廃人になる可能性のある方法だ。
だが、この状況ではしのごの言っても仕方がない。
彼女の精神と俺に対する感情を信じてその方法を試す事にした。




