元教え子 東 紅 27
強張った表情の彼女を見ながら、俺はウエストバッグからエネルギーゼリーの入ったアルミパウチを取り出し口を付けた。
お互い魔力と栄養の補給を済ませ、扉の前に立つ。
第二部隊からの連絡はまだない。
「出来ればここに入る前に第二部隊と連絡がつけばよかったが、残念ながら間に合わなかった。私達は第二部隊を待たずこの先に進む事になる。分かっている通りこの先にはかなり強力なモンスターが控えている。念の為発光布を扉前に貼ってある。準備は万端か?」
「はい、魔力、気力共に満タンです。結晶装備はすぐにでも展開出来ます。先生も一緒ですし心配は無いですね!」
「…油断はするなよ。」
先程の緊張した面持ちとは違い、今は浮足立っている様に見える。
緊張でガチガチになって無いのはありがたいが、余りの変化に違和感がある。
一抹の不安は感じるが、行方不明にタイムリミットがある以上ここで捜索の手を止めるわけには行かない。
危険な状態に陥らない様に、注意深く見ておく事にしよう。
扉に右手を掛け左手を握りそこに魔力を纏う、目で合図を送る。
紅が頷いたのを確認し、扉を開け放つ。
開けた瞬間前方に向け拳に纏った魔力を打ち出した。
部屋に爆音が鳴り中央にいたであろうモンスターに命中する。
「bugyuァァぁぁaaa!!!」
耳を劈く不愉快な叫びが聞こえ、その声の主を見る。
そこには巨大な肉の塊が存在していた。
目測3メートル程の高さ、脂肪の塊の様な体が地面に垂れており足や腕は見えず、通常ならば動くことも困難に見える。
顔は無く体の中間程に大きな口だけが確認でき、目や鼻といった器官は見られない。
何ともグロテスクな見た目だ。
奴の右半身に命中した先程の攻撃に驚いているのか、効いているのかどちらかは分からないが、醜い体を左右に揺すり、その大きな口から涎を垂らしながら叫び続けている。
「何をしてくるか分からない、遠距離からの攻撃で削るぞ。」
「…。」
「東?」
返事が無い事を疑問に思い彼女を見る。
そこには生気のない目をした紅が腕をだらんと垂らし、棒立ちのまま目の前のモンスターを見ていた。




